第23話 無敵のギャンブラー
俺は、ダリアの後を付いて行くようにしてカジノを見て回る。
彼女は、俺の事を考えてなのか、こう尋ねて来た。
どうやら今は自由時間のようで、特に決まったギャンブルはしないようだ。
「うーん、今のところ予定も無いし、あなたがやってみたいゲームとかある?
ある程度のゲームは大体勝てるけど、スロットだけは苦手なのよね。
私は、人間が関係しているゲームなら無敵なんだけど、機械だけは勝てないのよね……。
あなたも男だったら、人生で一回くらいは大勝ちしてみたいでしょう?
あっと、名前を知らないのは不便か?
あなたの名前を教えてください」
「ああ、俺の名前は、アキラだ。
宋史アキラ。
特にやりたいゲームは決まっていないぜ」
「ふーん、アキラ君か……。
なら、近くのルーレットにしますか?
ディーラーを嵌めて、あの女性ディーラーを買うって手もあるよ!
今日は、私が協力してあげるわ。
ただし、次からは、運だけで勝負はしない事ね。
様々な知識を身に付けて、ほぼ勝てると思った時に勝負しなさい。
カジノっていうのは、絶対に勝てるという自信のある者だけが生き残る世界よ!
それ以外は、地獄に落とされるから止めておいた方が良いわよ。
ふふ、警告はしたからね……」
「じゃあ、ルーレットで……」
俺と彼女は、女性がディーラーをしているテーブルへ行く。
女性は、スタイルが良く、スーツを着ていた。
容姿は、黒髪のロングで、アジア人らしい。
「あの子、新人でちょっと生意気なの。
壊れない程度に潰してくれと言われていたから、今日のあなたの夜のパートナーになってもらうわ。
さすがに、マフィア関係の男には売れないし、敗北を感じる程度にボロ負けにしてあげるつもり。
あなたは、この旅行費くらいは稼げるんじゃない?」
「俺、ギャンブルなんてやった事ないぜ!
それと、あの子を抱く気もない!」
「ふふん、最初は、みんなそう言うのさ。
でも、その時になったら気も変わる。
男性というのはそういう生き物なんだよ」
ダリアは、ちょっと強引に俺をルーレットのテーブルに着かせた。
自分のチップを持ち寄り、俺のチップとして使う。
まずは、倍々の賭け方式の赤と黒だけを当てるゲームで、賭けチップを増やしていった。
チップ自体が少ないと、女性ディーラーも本気で勝負して来ないらしい。
まずは、彼女自身の運を試しているのだろうか?
「凄いですね。
あっという間に一枚のチップが、数千万円のチップになりましたよ!」
「10連勝して、チップ512枚といったところか……。
まあ、ディーラーの実力ならば、このくらいは余裕でできるよ。
ディーラーの気分次第で、チップの少ない奴を勝たせるのも、彼女達の仕事だからね。
まず、客の気分を良くさせて、調子づいた所を一気に巻き上げるのさ。
まあ、私には勝てないんだけど……。
そろそろ数字と色を直接当てる36倍と洒落込もうか?」
「そんなピンポイントで当たるんですか?」
「あのディーラーがどこに玉を入れるかを決めていればね。
彼女が玉を放った時点で賭ければ、私ならほとんど当てられるよ。
じゃあ、黒の21番にしてみようか?
怖いなら、半分で賭けてあげても良いけど……。
あのディーラーを追い込ませるなら、こっちも大金を賭けた一発勝負が基本かな?
どう賭けるかは、あなた次第だけど?」
「じゃあ、一発勝負で……」
「ふふ、カッコイイ!
男の子ですね……」
ダリアは、女性ディーラーが玉をルーレットに放った時点で、賭ける数字を言う。
彼女もそれを承知していた。
「黒の21番に全額賭けるわ!」
「畏まりました!」
女性ディーラーがフッと笑い、ルーレットが止まるのを待っていた。
俺とダリアのチップは、全て黒の21番に置かれていた。
これを外したら、俺達のチップが没収されてしまうのだ。
ルーレットは、ゆっくりと回り、玉を弾きながらゆっくりと止まった。
玉は、吸い込まれるように黒の21番に入り、俺達のチップが36倍になった。
俺はビックリするが、ダリアは少しも驚いていない。
「さて、そろそろ仕掛けてくるかしら?」
「凄いよ、ダリア!
もう旅行どころか、家が建てられるくらい稼いだんだけど……。
まだやるの?」
「アキラ、勝負はここからになるんですよ。
今までのは、私達から言わせて貰えば、お遊びの世界。
次からが、生と死を賭けた真剣勝負の世界に突入するのです。
まあ、私は命はいりませんが、彼女も全力で潰しに来るでしょうね。
一瞬でも油断をしたら、ゲーム終了となります。
ルーレットは、彼女の土俵ですから、このままでは私の部が悪いですけど……」
「ルーレットって、運じゃないの?」
「この女性ディーラーは、確実に自分の入れたい所へ玉を落とす事ができます。
カジノのギャンブルは、もはや運ではなく実力の世界なのです。
彼女の特殊能力は、数十年の訓練によって、力加減や玉を入れるタイミングなどによって、自分の入れたい場所に玉を入れれる『回転盤の狙撃手』と呼ばれています。
素人が何千万回彼女に挑んでも、一回も勝つ事は不可能なのです!」
「それじゃあ、絶対に負けてしまうじゃないですか!」
「いえ、私ならば勝てます!
私も『イングランドの魔女』と呼ばれる化け物ですから……」
ルーレットのテーブルには、俺と彼女以外の客がいなくなった。
女性ディーラーの顔付きが変わり、勝負が開始された事を物語っていた。
ここで降りると言う空気ではないようだ。
「どこに賭けますか?」
女性は玉を持ち、そう問いかけてきた。
ダリアは、何も答えない。
しばらく沈黙の時間が続いていた。
「なーんか、ルーレットにも飽きちゃった!
次は、トランプでもしない?
ポーカーとか、ブラックジャックならルールくらい知ってるでしょう?」
ダリアは、観客の空気も読まずに立ち去ろうとしていた。
女性ディーラーは、顔を引きつらせて笑う。
どうやらハメようとしていたらしい。
「ちょっと、逃げる気ですか?
私と勝負しなさいよ!」
「ふふ、そんなに私と勝負がしたいなら、トランプのテーブルに移る事ね。
そこならサシで決着を付けてあげるわ!」
「チッ!」
俺とダリアは、ポーカーをしているテーブルに移動した。
俺は、ルーレットのディーラーを横目に見て、ダリアに話しかけた。
「ルーレットのディーラーは、放って置いて良いの?
凄い睨みつけているけど……」
「カジノで勝つ必殺技は、勝負しない事よ。
どんなに優秀なギャンブラーでも、絶対に勝つ勝負条件は限られている。
勝てる所は勝って、負ける所は勝負しないのが鉄則よ!
どんなギャンブラーでも、自分の得意な条件下で勝負している。
さっきのディーラーは、ルーレット勝負のみは無敵なのよ。
もしも、私の挑発に乗って勝負して来たらぶっ潰すけど、勝負して来ないなら自分の力量を分かっているという事で見逃してあげるわ。
さて、私の本領発揮はこれからよ!」
俺とダリアは、ポーカーのテーブルに着く。
ポーカーとは、配られたトランプのカード5枚で役を作り、難しい役を揃えた方の勝ちというゲームだ。
トランプのマークによっても強さが決まっており、スペード、ハート、クラブ、ダイヤの順に強い。
5枚もカードを揃え、勝てると思ったら勝負するゲームだ。
「ポーカーは、かなり技術があればイカサマし放題の危険な戦場よ。
素人は危険だけど、私ならばその戦場を潜り抜ける事ができる。
さて、チップ10枚くらいから勝負しましょうか?」
「おい、さっきのディーラーが現れたぞ!」
女性ディーラーは、俺達を追ってポーカーテーブルに着いていた。
どうやらプライドを傷付けられたらしく、ポーカーで勝負をする気らしい。
ポーカーのディーラーを弾き出し、自分がカードを持ち、ディーラーとして勝負するようだ。
「勝ち逃げは卑怯よ?
ルーレットで勝負しないなら、ポーカーで決着を付けてあげる。
いずれは、『イングランドの魔女』を倒したいと思っていたところよ。
いざ、尋常に勝負よ!」
「ふむ、多少は訓練を積んで来たようね。
遊んであげるわ!
お手並み拝見といきましょう!」
テーブルに着いている客の元に、5枚のカードが配られていた。
数回カードを交換して、強い手札の時に勝負する。
一枚ずつ出して行き、どんな役を作っているのが見えるようになって行く。
ダリアは、俺に指導しつつ、隣でアドバイスをする。
徐々にだが、俺もカジノのルールを覚え始めていた。
「この方式なら、たとえブタでも最強カードに見せる事も可能なの。
強気で勝負を降りなければ、相手はビビって逃げる可能性があるわ。
まあ、今は私が最強の手札みたいだけどね!」
「分かるのか?」
俺は、ダリアの能力に驚いていた。
やはり、ダリア・雛子の心を読む能力を受け継いでいるようだ。
心臓を移植された事によって、驚異的なギャンブラーが誕生していた。
「私のフルハウスで、この場にいる全員に勝ったわ!
さあ、賭け金を渡しなさい!」
ダリアは、どんどんお金を集めて行く。
いつしか、彼女と女性ディーラーの一騎打ちになっていた。
その頃には、彼女はフォールド(勝負を降りる)するようになっており、中々勝負が付かないようになっていた。
彼女は、俺に言う。
「どうやらイカサマされているみたいね。
どう足掻いても私が勝てる手札が来ないわ!
強めで脅しても、カードを知っているのか降りないし……。
ポーカーもここらが潮時かもね!」
「でも、ルーレットに続いて、ポーカーまで逃げたらヤバいんじゃないか?
逃げずに決着を付けた方が良いよ!」
「まあ、これがカジノのマジックの一つ、観客を煽って勝負を逃げさせない状況を作り出す技よ。
ここで逃げれば賭け金を失わないのは分かっていても、漢気だかなんだかの理由で逃げ出せずに勝負して負ける羽目になるわけよ……。
仕方ないわね。
若き女ディーラーさんにトドメを刺してあげるか……」
「どうする気だよ?」
ダリアは、今まで稼いだチップを出して、こう宣言する。
「今日は、次の勝負で一休みさせて貰うよ!
最後の勝負は、今まで稼いだチップを全額賭ける!
ディーラーさん、あなたが負けたら一晩付き合いなさい!」
「ふん、面白いじゃない!
ポーカー一発勝負って事ね?
受けて立つわ!」
俺は、ダリアに小声で話しかける。
少しなら日本語もできるようだ。
ちょっとヤバイ状況なので、日本語で話しかける。
「おい、大丈夫なのか?
負けたら全額チャラになってしまうぞ!」
「ふふん、それがカジノのギャンブルの醍醐味なのさ!
負けたら終わりの一発勝負、この状況を制した者が真のギャンブラーなんだ。
相手はイカサマで100パーセントの勝ちを狙って来る。
何もしなければ負けだが、わずかな工夫でそれを崩してやれば、勝機は自ずと私達にやって来る。
まあ、見ていなさい!」
ダリアは、ディーラーにある条件を突き付ける。
カードを配るのはディーラーだが、カードを一回切る事ができるという条件だ。
不正をしていない証拠に、ディーラーはカードを切らせてくれる。
(まあ、それもイカサマなんだろうけどな……。
どっちのイカサマが勝つかで勝負が決まる!
しかし、カードの手札を入れ替えるイカサマとかされたらどうするんだ?)
俺が不安になってダリアを見ると、彼女がウインクをした。
大丈夫だ、任せろという事らしい。
テーブルの上にカードが並べられ、各自5枚のカードが行き渡った。
カードを開いたら、勝負が開始されるのだ。
観客は、静かに勝負の行方を見守っていた。
今ここに、カジノの女神による頂上決戦が開始されたのだ。
「私は、運が良いわ。
10のスリーカードよ!」
ダリアは、カードを開いてそう言った。
スリーカードといえば弱くはないが、特別強いというカードでもない。
女性ディーラーは、勝利の笑みを浮かべながら、カードをめくっていく。
ダイヤのキングに、ダイヤのクイーン、ダイヤのジャックが並べられていた。
このままいけば、ダイヤのロイヤルストレートフラッシュが出る勢いである。
俺は、テーブルの上のカードが違う事に気が付いた。
カジノのテーブルは、いくつかのトランプを使っており、混ざらないように記号が付ってあるが、女性にトランプは別のトランプだった。
「待った!
そのトランプ、別の数字のトランプが混ざっていますよ!
この勝負、無効になります!」
俺がそう言うと、ディーラーの手がビックと動いた。
ディーラーは、あまりの出来事に放心して、カードを開く事が出来なくなっていた。
代わりにダリアがカードを開いていく。
残りのカードは、ダイヤの10に、ダイヤのエースだった。
気付かずにカードを開いていたら、ダリアが負けていただろう。
彼女は、ディーラーにこう語る。
「あらー、カードの違いに気付かなければ、あなたの勝ちだったのに残念ね……。
まあ、勝負は無効だし、引き分けという事で……」
「分かったわ……」
女性ディーラーは、あっさりと勝負を諦めていた。
もう一勝負の申し出もせず、さっさとルーレットのテーブルに戻って行く。
ダリアは、賭けチップを換金して、俺にお金を渡してきた。
「はい、最初のチップ代を引いたあなたの分よ!
最後は惜しかったわね。
カードを開いた後に指摘すれば、彼女の敗北になったのに……。
そうしたら、あの子を一晩好きなように出来たのにね……」
「他の女の子は要らないよ!
俺が好きなのはダリアだけだ。
君には、ダリアの面影も能力も持っている。
もっと君の事が知りたいと思う。
できれば、結婚を前提に付き合ってくれ!
俺は、かなり本気なんだ!」
「あははははは、冗談も上手いね!
なら、ギャンブルで私を倒して奪い取りなよ!
私は、ギャンブルでは一切手加減しない。
私に勝ったら、考えてあげるよ。
まあ、体が目当てなら、フランスにいる間に相手をしてやっても良いけど……。
一週間くらい期間をあげるわ、考えておいて!」
「俺は、君の体が目的じゃないんだ。
ダリアを幸せにすると約束した!
だから、君を幸せにしないといけないんだ!」
「なら、勝負で勝つしかないね!
期間は無期限だ、せいぜい頑張る事だね!」
こうして、俺とダリアとの勝負が開始された。
今のままでは、俺と彼女の実力差は明らかだ。
どこかで勝てる方法を探らなければならない。




