第21話 俺とダリアの再会
俺と警察は、人数を集めて工場へ突入し始めていた。
警察は、俺の話を聞き、危険を感じ取ったようだ。
この街では、同じような臓器密売の事件が報告されているらしい。
「警察を可能な限り集めた。
海沿いの工場付近で密売されているという報告も出ている。
海上法案庁も出動してもらっている。
今日こそは、密売組織を壊滅しなければならない。
君の記憶は、多分有力な情報だ。
君の友人は、必ず助けてみせる!」
「俺が見たのは、あの黒い車です!」
俺達が工場内に駆け付けると、隠すように黒い車が止まっていた。
俺が事前に場所を知っていなければ、短時間で車を見つけるのは無理だっただろう。
黒い車が見つかった事で、俺は安堵していた。
「ふう、犯人の発見が早かったはずだ。
ダリアはきっと生きている!」
俺は、警察よりも先に工場内に進入し始めていた。
警察が慌てたように付いて行く。
犯人の車は止まっているが、工場内は不気味に静かだった。
「犯人はいるはずなんだ……。
ここに、数本のタバコの吸い殻が落ちている。
さっきまで誰かがいた証拠なんだ!」
「犯人が待ち伏せしている可能性もある。
十分に注意して進んで行け!」
「はい!」
「犯人確保が一番危険なんだ。
気を抜くんじゃないぞ!」
俺達は、ゆっくりと工場内を探し始めた。
俺は居ても立っても居られず、先走って工場内へ突入して行った。
幸いにも、工場内に犯人の姿はなく、俺が攻撃される事はなかった。
「ダリアが、いた……」
俺は、ダリアを発見した。
彼女は胸から腹を裂かれており、生々しい血が滴っていた。
心臓や肝臓などの臓器が摘出されており、美しささえ感じるような悲しげな表情でこと切れていた。
宝石のような輝く目は光を失っており、瞳孔が開いて天井を見上げていた。
俺は、警察の人によって見ないように誘導されたが、守ってやれなかった事によって無気力な状態に陥っていた。
ダリアはマネキンのように動かず、瞬きさえもしない。
遺体に触れるとまだ暖かく、殺されたばかりである事が分かった。
俺は、目の開けたままのダリアの瞼を閉じる。
「こうしていると、眠っているようだ……」
彼女の顔だけを見れば眠っているようにも見えるが、体を見れば死んでいる事が分かる。
俺の中に、彼女が死んで騒ぐほどの気力もなかった。
今、この場で彼女を追って死のうかという思いが過ぎる。
「犯人は、車を捨てて、船で海上を逃走中!」
警察の言葉を聞き、俺は犯人だけは捕まえなければならないと感じていた。
ダリアの遺体を見ていると、俺の中にある子供の時の記憶が蘇った。
俺の両親も、ダリアと同じように内臓を盗られて死んでいたのだ。
犯人が発見する事ができなかった為に、俺だけ無事だったが、俺は両親が死んだのを確認していた。
あまりのショックに記憶が失われていたが、ダリアの死体を見て記憶が蘇っていた。
俺は、不意に隠れていた場所に移動する。
小さな部屋の中で、ダリアが書いたと思われる手紙を発見していた。
「ダリア、俺は捨て子では無かったようだ。
お前がそれを教えてくれた。
でも、そんな事実よりも、お前が生きていて欲しかった……」
俺は、ダリアの書いた手紙を握りしめ、彼女の遺体の側にいた。
数分が経過して、犯人の一味が捕まった事を知る。
しかし、今の俺にはどうでも良い事だった。
「どうやら組織のボスが海上で逮捕されたようですね。
ダリアさんの臓器と思われる物を抱えて、近くの病院に向かっていたようです。
どうしましょうか?」
「そりゃあ、折角摘出した内臓を無駄にするわけにもいかないだろう。
手術だけは無事に終わらして、ボスを臓器密売の容疑と殺人の容疑で逮捕するしかないな……。
しかし、海外の有名な人物だけに、釈放される可能性も高いのだが……。
まあ、孫娘には罪は無いし、実際に彼女を殺した人物が実刑を受けるわけなのだろうが……」
「おい、被害者の友人がいるんだ。
あまり詳しい内容は言うな!
別の問題に発展する可能性があるぞ!」
俺は、警察の言葉を少し聞いていた。
病院の名前と、マフィアのボスの名前だけは記憶していた。
別に暗殺するつもりもないが、彼の孫娘にダリアの臓器が使われているのだ。
遣る瀬無い気持ちを感じながらも、ダリアの遺体は警察に収容されて、臓器の密売を斡旋したダリアの母親も逮捕された。
どうやら金と嫉妬心から、マフィアのボスに接触したらしい。
ダリアの葬式は、ひっそりと俺の家で行われていた。
養父と養母がお金を出し、簡単な式ができていた。
俺は、気持ちが塞ぎ込んで式には出席できなかった。
ダリアをイジメていた同級生が出席し、杉田と軽いトラブルを起こしていた。
その声は、俺の元にも届いていた。
「プクククク、マフィアのボスは、孫娘への愛で助けようと思ってダリアを解体したのに、ダリアの母親は、金でダリアを売ったなんて傑作だよ!
親の愛情の差によって、生きるか死ぬかが決まっているなんてね……」
「ちょっと、笑っちゃ悪いよ!
でもまあ、死んで正解だったんじゃないの?
どうせ、大した将来でも無かったわけだし……」
杉田は、暴言を吐いた女生徒を睨む付ける。
危うく手が出そうになるところを、羽田が止めていた。
「ダリアの未来が真っ暗だったって?
あの子が死んで喜んでいるお前らの方が未来がないよ!
ダリアは、臓器を密売していた巨大組織を捕まえたんだよ!
あの子は、社会で悪事を働く奴らに勝ったんだ!
でも、生きて帰って来て欲しかった……」
杉田は、大きな声で泣き叫んでいた。
その声を聞いて、俺も悲しみに耐える事ができていた。
人は、泣く事によって悲しみを耐える事ができるのだ。
それでも、ダリアを失ったショックは大きく、数年は無表情で無気力に生活する日々が続いていた。
養母は、俺を必要以上に心配していたが、養父がそれをなだめていた。
「アキラ君、大丈夫かしら?
折角ダリアちゃんと知り合って、笑顔を見せるようになったのに……。
そのダリアちゃんがいないのでは、今度こそ立ち直れないかも……」
「お母さん、アキラを信じるんだ。
親にできる事なんて限られているもんだ。
俺達がアキラにできる事は3つだけだ。
子供の悲しみを理解してやる事。
子供が立ち直れるように励ます事。
子供が立ち直れる事を信じる事だ。
アキラなら、たとえ大きな悲しみや試練にあっても立ち直れると信じている!」
「そうですね。
アキラ君は賢くて強い子ですもの。
きっと立ち直ってくれますよね……」
ダリアを失って虚無感を覚えた俺を支えていたのは、彼女が最後に残した手紙だった。
笑顔こそ戻らなかったが、その励ましのおかげで日常生活は送れていた。
彼女がいなくて灰色の日々だったが、なんとか生きる気力を持って生活する。
ダリアがくれた手紙の中にはこう書かれていた。
「愛するアキラへ
あなたがこの手紙を読んでいる時には、私はもういないでしょう。
私は、アキラが笑顔を取り戻してくれて嬉しかったです。
ほんの短い間でしたが、色々な事を経験する事ができました。
私が心配しているのは、アキラが私を殺したと思っていないかです。
確かに、アキラの勧めによって、私は警察に届け出て、家族が崩壊した感じになったのかもしれません。
でも、いずれは、遅かれ早かれそうなるはずでした。
私としては、孤独な内に死ぬよりは、アキラと仲良くなって大切な思い出ができて嬉しいです。
どうか、私の死を克服して、また笑顔を取り戻してください。
マフィアのボスの孫娘も恨まないであげてください。
彼女は、私の一部を持っていますし、全く罪は無いはずです。
では、これで失礼します。
ダリア・雛子より」
短い文章だったが、俺への配慮と、マフィアのボスの孫娘への配慮が記されていた。
自分が死ぬ時にまで他人を気遣うアイツは凄い奴だった。
この文章を読んで、俺の中に1つの希望が湧いていた。
(体の一部でも良い。
ダリアに会ってみたい!)
俺は、新聞記者や医者などに尋ねて、ダリアの臓器を持った人物を探していた。
旅行費をバイトで貯めて、海外へ行く準備もしていた。
そうしている内に6年が経過して、俺も杉田も羽田も高校を卒業していた。
「行くのかよ、あの子を探しに……」
杉田と羽田は、高校卒業した日に、俺の家にやって来ていた。
あれから仲良くなり、数ヶ月に一度くらいは家に遊びに来ている関係になっていた。
彼女達からしてみたら、俺を励ましていたのだろう。
そのおかげで、俺も大分ダリアが死んだ悲しみを克服していた。
それでも、彼女の一部に会いたいという欲求は変わらなかった。
杉田と羽田もそれを予想して、俺にエールを送りに来たようだ。
「ああ、明日の飛行機に乗って出発するよ!
会えるかどうかは分からないけどな……」
「そうか……。
良いんだぜ、結婚して来ても……。
なん百分の一は、ダリアなんだ。
ギリギリ約束通りだよ。
マフィアのボスの孫娘だって、結構厳しい目に遭っている可能性があるからな。
幸せなように見えて、苦しんでいるのかも……」
「ああ、彼女に憎しみなんて持たねえよ。
彼女の中には、ダリアが生きているんだ。
じゃあ、行ってくるぜ!」
俺は、2人に見送られながら、ダリア探しの旅に出発した。
とりあえず、会って無事な姿を確認したい。
恋愛感情や交友関係を持つのはそれからだ。
俺は、ダリアの面影を確認しながら、遠い道のりを出発した。
羽田は、俺がいなくなってから杉田を弄り始めた。
「杉田もスッカリアキラの嫁ポジションなんですかどね……。
あんたこそ、アキラと結婚しても良いんですよ?
ダリアだって、杉田なら許してくれると思うけど……」
「いや、私とアキラは、彼がダリアと結婚した時に決着付いたんだ。
今さら蒸し返す気もないよ。
心臓だろうが、肝臓だろうが、アキラがダリアと結婚してくれるというのが私の願いでもある。
2人が上手く行く事を願うのみだよ!」
「まあ、杉田がそう言うなら良いけど、私だったら知らない女に取られるよりは、知ってる杉田の方が安心できるけどな……。
性格とか、全然知らないわけだし……」
「まあ、状況によるかな……。
アキラが、ダリアの臓器を持った女の子と上手くいかなかったら、結婚を考えてみるさ……」
「やっぱり、臓器だとしてもダリア優先にするんだね。
私達と友達になれるような奴なら良いけど……」
杉田と羽田は、俺を見送ってから帰って行った。
彼女達は、進学と就職が決まり、俺のようなニートでは無いのだ。
俺は、ダリアの臓器を持った女性を探す為に、フリーの探偵というニートになっていた。




