第19話 消えたダリア
月曜日になり、俺は雛子と一緒に登校する。
雛子は、家庭では俺の妹というポジションだった。
彼女はこのように提案する。
「付き合っている時は、雛子で良いけど、学校ではダリアと呼んで欲しい。
まあ、バレても良いけど、学校ではみんながダリアって呼んでいるから……」
「分かった。
家では雛子、学校ではダリアと呼ぶよ。
お前が混乱してもいけないからな……」
「うん、2つ名前があるのも不便だね……。
偶に、私を呼んだのか分からなくて、返事しない時もあるからね……」
「学校では、統一した方が良さそうだな……」
俺達は登校中に、そのように決めた。
ダリアは、ネックレスだけして学校に登校する。
指輪は、彼女の部屋に大切に保管されているようだ。
「学校の帰りも、一緒に帰ろうな。
今日は、ダリアが食事を作る番だし……。
俺がお風呂掃除をするからな……」
「うん、まるで新婚さんみたいだね……」
「うおお、あんまりそう言う事は言わないでくれ。
超緊張しちまうよ……」
「あ、ごめん……」
手を繋いで登校するが、学校が近くなると別れておく。
下手に詮索はされたくなかった。
「じゃあ、また後で……」
「うん……」
俺は、早く授業が終わって、ダリアと一緒に帰りたくなっていた。
授業中に喋る時もあるが、基本は別々だ。
好きな子がいると、時間があっという間に過ぎてしまう。
「もう帰りの時間か……。
今日は、ダリアが作る料理は何かな?
カレーとかが良いな……」
俺は、校舎の入り口の下駄箱の前で彼女を待っていた。
部活動でほとんどの生徒はおらず、彼女と2人だけで帰る事ができる。
杉田と羽田も部活動で、今日は別々に帰る予定だ。
「お待たせ!」
ダリアが少し遅れて、下駄箱前に現れた。
少し疲れている様子だが、それが逆に色っぽい感じを出している。
俺とダリアは、家の手伝いの為に早く帰る事にしていた。
「やっぱり叔父さんと叔母さんに悪いよね。
私、高校に入ったら、アルバイトでもしようかな?」
「生活費を稼ぐのか?
まあ、その頃には親父さんも出所しているとは思うが……」
俺と彼女は、ゆっくりと校門前まで歩いて行く。
校門前を見ると、黒くて立派な車が停まっていた。
曇りガラスの為に中までは見えないが、中に誰かいるような気がする。
校門を過ぎようとした時に、俺が忘れ物をしたことに気が付いた。
ついでに、トイレにも行きたくなっていた。
「ごめん、宿題のプリントを忘れたみたいだ。
それと、トイレにも行きたい。
先に行ってくれないか?」
「いや、ちょっと待ってるよ。
10分もかからないでしょう?」
「悪いな、ちょっと待っててくれ!」
俺は、急いで2つの用事を済まして戻ってくる。
時間的には3分くらいだっただろう。
俺が校門まで戻ってきて見ると、彼女の姿が見当たらない。
「あれ、ダリアは?」
俺は、しばらく校庭を見回して見たが、それらしい影は見当たらなかった。
それで、俺は部活をしていた生徒に聞いてみる。
すると、驚くべき回答が返ってきた。
「おい、さっきまでここに女の子がいただろう?
どこに行ったか分かるか?」
「ああ、その女の子なら、黒い車の人に呼ばれて、校門の外まで歩いて行ったよ。
なんか、道を聞いているみたいで、大きな地図を持っていたな……。
道案内でもしているんじゃないのか?」
「どんな奴だった?」
「年配のお爺さんだったよ。
たぶん、この近くの病院に行く気だったんじゃないのか?」
「分かった、ありがとう!」
俺は、すぐさま校庭を出て、校門の外まで歩く。
すると、ダリアのネックレスが落ちていた。
ネックレスは、引き伸ばしたようにひしゃげており、不気味な違和感を感じていた。
「あの車、以前にも見た記憶がある。
とりあえず、ダリアに連絡してみるか……」
俺は、彼女の携帯電話にかけるが、電源が切られているのか繋がらなかった。
彼女と連絡を取れないのはおかしい。
俺の中に、古い記憶が呼び起こされていた。
「早めにダリアを見つけないとヤバイ気がする。
たぶん、ネックレスのひしゃげ方から見て、争った形跡が見られるぞ……。
学校の外の校門前の一部は、死角になっている。
ほとんどの奴らが見つけ難い場所だ。
もしも、ダリアがそこまで移動して連れ去られたら、ヤバイな……。
近くに、見ていた人もいないようだし……」
俺は、とりあえず学校周辺に置いてある簡単な地域の地図で確認する。
近くに、それらしい病院は見当たらなかった。
それとともに、あの車を見た記憶も蘇る。
「あれは、小学生の時に、俺が乗った記憶がある車だ……。
貧乏な俺があんな車に乗った記憶はないのだが……」
ふっと地図を見回してみると、海岸付近の工場がある事を確認した。
俺は、気が付くと警察に電話をかけている。
その場所に、なんらかの記憶があるような気がしていた。
「こちらは、愛知県警です。
どうされましたか?」
「友人が変な男に連れ去られたようです。
確実な事は分かっていませんが、俺の高校の前で連れ去られた可能性があります。
もしかしたら、誘拐事件かもしれません!」
俺は、状況と場所を伝えると、数人の警察官が来てくれた。
まだ確実じゃない為に、個人のパトカーだったが、捜査してくれるらしい。
俺は、自分の経験を元に、海岸付近の方に向かった事をアピールしてみた。
どうやら以前にも同じような事件が発生しており、警察官は俺の意見を真面目に聞いてくれた。
とりあえず、彼らと一緒に海岸付近を捜索し始めた。




