第15話 2人だけの時間
俺とダリアは、高級イタリアレストランに向かうが、まだ予約の時間には早かった。
今は昼頃であり、夕食までは7時間ほど時間に余裕がある。
俺としては、ショッピングで時間を潰す予定だったが、ダリアがこう提案して来た。
「あの、あのね……。
私、カラオケにもう一度行きたい。
本当は、歌ってストレスとか発散したかったの。
2人で行っても大丈夫かな?」
「ああ、良いよ。
でも、大丈夫か?
カラオケルームって、どこも似たような作りだけど、お前が嫌な出来事とか思い出さないか?」
「うん、平気……。
むしろ、宋史君と一緒に良い思い出に変えたいです。
多分ね、辛い事があった人は、そうやって辛い記憶を楽しい記憶にしようと思うの。
ほら、人間って、辛い記憶よりも楽しい記憶の方が記憶に残りやすいから……」
「お前が大丈夫だと思うなら行こう。
いや、俺もお前と一緒に歌いたかったんだ。
それと、俺の事は、アキラと呼んでくれ。
もう、恋人同士なんだし……」
「うん、ありがとう。
アキラも私の事を、雛子って呼んでください。
ダリアでも良いけど、日本語名は雛子なんです。
特別な恋人なら、雛子って呼ばれたいです……。
もちろん、ダリアでも嬉しいんですけど……」
「じゃあ、ダリア・雛子って呼ぶわ。
どっちもお前って感じがするし……」
「はう、両方……。
状況によって使い分けてください」
「分かった。
じゃあ、行こうか?
雛子ちゃん!」
「うん!」
こうして、俺と雛子はカラオケに向かった。
昼食とカラオケ、満喫などが合わさったような店だ。
3時間歌っても安くて、飲み物も飲み放題らしい。
「何を歌うの?」
「じゃあ、猫パンチオリジナルメドレーを……」
「おいおい、現代小説じゃなくて、近未来小説になってしまうぜ。
まあ、好きに歌いなよ!」
「1人じゃ寂しい。
一緒に歌おう?」
「……」
こうして、俺とダリアはカラオケを楽しんでいた。
3時間はあっという間に過ぎて行き、カラオケルームを出る。
予約の時間までちょっとあるので、近くの公園を散歩して時間を潰した。
「ふー、気持ち良かった!
下手だけど、大きい声で歌うと気持ちが良いね。
アキラも私に付き合ってくれてありがとう!」
「ああ、どうって事ないよ。
それより、ちょっと寒くないか?」
「うん?
私は平気だよ。
なんだったら、私のコートを貸してあげる!」
ダリアは、俺にコートを着せて来た。
本当なら、彼女にコートを貸してやる予定だったのに、逆になってしまった。
今更、着せてあげる気だったとは言えない。
俺と彼女は、公園の展望台に登り、夜景の見える場所に来た。
街の灯りが星空のように見えて、高いビル郡から出る光が世界を埋め尽くしていた。
それが自然の夜空と合わさり、幻想的な光景を映し出している。
「なんか、凄いロマンチックな光景だね……。
アキラが、いろいろ考えて、この場所まで連れて来てくれたのかな?
そう考えると、凄く嬉しい……」
「ああ、ここまで幻想的とは思わなかったけどな。
ダリアは・雛子が気にいってくれるなら、いろいろ準備した甲斐があるってもんだ。
俺も超嬉しいよ!」
「うん、気に入った……。
今なら、アキラとキスしたい!
唇を合わせるだけの簡単なキスだけだけど……」
「良いのか?
俺は、ずっと前から考えていたけど……」
「うん、したい……」
俺とダリアは見つめ合い、徐々に顔を近づけていく。
息の匂いがして、互いに興奮しているのが分かる。
口と口が触れ合う瞬間、お互いに目を閉じていた。
彼女の吐いた息が、俺の息と混ざり合い、気持ちの良い感触を覚える。
1分ほどでキスは一旦終了したが、数秒で再びキスしたいという欲求が強まって来た。
お互いに目が合い、もう一度キスをする。
今度は、口を開けて、お互いの唇を貪るようなキスだった。
舌こそ淹れていないが、息を求めるようなキスだ。
「ふー、凄い緊張する……」
俺が一呼吸すると、彼女がこう言って来た。
どうやら理性のリミッターが外れかけているらしい。
口を軽く開けて、大人のキスを求めて来た。
「実は言うとね、キスは初めてじゃないんだ……。
でも、自分がしたいと思ったキスは、今日が初めてだよ。
だから、アキラが、私のファーストキスの相手なんだよ……」
彼女は、少し怯えていた。
自分は、他人からいろいろ性的な事をされていたという不安があるのだろう。
初めては、好きな人としたい、という思いを力で踏み握られていたのだ。
「雛子、可愛いよ♡」
俺には、時間を戻してやる事も、彼女の傷を完全に癒してやる事もできない。
ただ、優しくしてやるしか方法がなかった。
他にも方法があるのなら、全てを試したいとさえ思っていた。
俺は、優しく彼女の唇に、自分の唇を合わせる。
彼女の合いた口の隙間から、自分の舌を滑り込ませた。
彼女の舌と接触し、お互いを理解するように舌を這わせていた。
2人ともぎこちない動きだったが、2分ほどのキスによって徐々に大人のキスのように音を出し始めていた。
彼女も必死に舌を合わせているのを感じると、一層愛おしさが込み上げて来る。
舌がつると思うまで、俺と彼女は必死でキスをしていた。
彼女の唾液が自分の唾液と混ざり合い、心地良い味と匂いに包まれている。
俺と彼女が口を離すと、離れたくない想いを感じ取ったのか、唾液が糸を引いていた。
「ふー、息ができなくなった。
でも、凄く気持ちが良いキスだったよ」
「頭がボーッとする……。
こんなに幸せで良いのかな?
そう思うくらい気持ち良くて、とても幸せ!
時間を空けて、もっとキスしたい!」
「ふふ、俺達に体、磁石みたいだな……。
なんか、離れて生活していたのが不思議なくらいだ。
お互いが、お互いを求め合っているように感じる!」
「うふふ、大好きだよ、アキラ♡」
「俺も大好きだ、雛子♡」
俺と彼女はしばらく抱き合い、求めるようにキスしていた。
何度キスしたか分からないが、レストランの時間がある事を思い出し、ようやく次の目的地に向かって移動し始めた。
「そろそろ良い時間だし、そろそろレストランに向かおうか?」
「うん、どんな料理が出るか楽しみ!」
そう言う俺と雛子だったが、手はしっかりと握り合い、恋人同士の手の握り方をしていた。
この手を絶対に離したくないという暖かい温もりを感じている。




