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第11話 彼女の子供は?

 クラスの女子生徒のイジメが何事も無くなり、俺は安堵していた。

 どうやら、俺と羽田がイジメを阻止した事で、ダリアに対するイジメが無くなったようだ。


 コインランドリーに預けてあった制服も乾き、元の彼女に戻っていた。

 イジメを受けて、制服までずぶ濡れになった割には、彼女が平気そうで安心する。

 便器に顔を埋めていた時には、もうダメかと思ったが、意外と神経は図太いらしい。


「ダリアさん、さっきはごめんね!

 私達、ダリアさんと仲良くなりたいんだ!

 どう、これからカラオケにでも……」


 さっきまでダリアをイジメていた女子達が、彼女にそう言って来た。

 俺と羽田は、今日一緒に行きたい所があると言い、彼女を強引に連れ出した。

 女子達は、明るくダリアを見送る。


「そっかー、約束があるんじゃ仕方ないね。

 また明日、一緒にカラオケに行こうね!」


「うん……」


 突然の申し出に、ダリアは不安になりながらもそう返事をした。

 俺と羽田は疑惑を感じながらも、聞き流す事にした。

 まずは、ダリアの体がどういう状況かを確認する必要がある。


「ダリア、私達が行く所は、産婦人科だよ。

 まずは、あんたの体の状況を調べて、妊娠しているかどうかを確認しないと……。

 昨日、悪いとは思ったけど、妊娠検査薬を使ったら陽性だった。


 産婦人科でちゃんと調べてもらった方が良い。

 本当に妊娠していたら、産むかどうかは、あんたの自由だけど……。

 妊娠検査薬には、間違った反応をする事もあるから……」


 ダリアは、一瞬考えるそぶりをして、ポツリと言った。


「そうか、お父さんの子供ができる可能性もあったんだ……。

 妊娠、してたらどうしよう……」


 彼女は、不安げな表情でお腹をさすっていた。

 俺は、流産した人の経験を少しばかり漫画で読んだ事がある。

 流産だったが、いつでも失った子供を忘れられない状態になると聞いた。


 事故や病気で流産しただけでもそう思うのだ。

 自分で中絶した場合には、もっと罪の意識を感じる事だろう。


 俺は、仮に妊娠していた場合でも、子供を引き取ってくれる家族を知っていると告げておいた。


 俺としては、彼女の子供を育てたいが、年齢が中学生という事もあり、とりあえず他の家族の養子にした方が良いと感じていた。


 様々な子供を持ちたい夫婦を知っている事は、意外と俺達の心を不安から救ってくれていた。

 子供は貴重な存在だ。


 すぐに中絶したり、捨てたりするのはいけないと、両親に捨てられた俺が誰よりも知っているはずだった。


 中絶したり、捨てたりするくらいなら、少しでも生きて成長して欲しいと感じる。

 結果的には、人任せになってしまうが、少しでも彼女とその子供の支えになりたいと感じていた。


「俺が育てるよ、そう言いたいけど……。

 しばらくは、誰か他の人に育ててもらうしか方法がない。


 もう一度、育ててくれそうな夫婦を募ってみるさ。

 だから、ダリアは産む事だけを考えてくれたら良い。

 経緯はどうであれ、君と俺の大切な子供に間違いはないんだ」


「うん、ありがとう。

 頑張って産むね」


 ダリアの笑顔を見て、俺もホッと胸を撫で下ろした。

 とりあえず、思っていたよりはショックも少ないようだ。

 彼女が元気なのを知って、羽田と杉田が俺を茶化す。


「おーおー、お二人とも熱いね!

 もう夫婦化してますぜ!

 私達、必要ないんじゃないですか?」


「いや、宋史では、医者からマトモに対応してくれないだろう。

 私達のような女子が多い方が、いろいろ詳しい状況や何ヶ月で生まれるかを把握できる。


 産婦人科なんて、男子にとっては酷な場所だ。

 興奮して、医者の話を忘れられても困るからな。

 こういうのは、女子の方が助けにはなれるものさ」


「まあ、宋史君1人じゃあ、トイレと間違えて授乳室に行って、授乳現場に踏み込んじゃうかもしれないしね。

 相手は笑って許してくれるんだろうけど、超気不味いのは間違いないよね!」


「まあ、間違った振りして入って行く可能性もゼロではないけど……」


 俺は、そこまで間抜けではない。

 一応、自分で弁明する。


「字は確認するよ!

 まあ、授乳現場に踏み込んだ事はあるけど……」


「ぶははははは、この助平!

 やっぱり危険じゃないかよ!」


 彼女達3人が笑っているので、俺も愛想笑いをする。

 横目でダリアを見るが、同じように明るい感じで笑っているのでホッとした。

 親族間での妊娠は、胎児の発育にも影響する。


(後は、ダリアの子供が無事に産まれてくる事を願うだけだ!)


 俺達は、電車で産婦人科まで向かう。

 学生服だけど大丈夫かと思っていたが、看護師にアッサリと案内されて拍子抜けした。


「意外とすんなりと検査してもらえたな……。

 もっと驚いたり、質問されるかと思ったのに……」


「まあ、そうだろうな。

 数年前までは、中学生が妊娠なんて言えば一大事だったが、今ではそれほど珍しい事でもない。


 むしろ、下手に対応をすれば、親や教師の知らぬ所で産んで、自分の子供を殺害したり、ロッカーへ捨てるケースもあるからな。

 看護師が信頼できるなら、そいつに頼ろうとするのは当然だ。


 人間は必ず何らかの失敗をする。

 確かに、失敗をしないように注意をするのも大切だが、失敗した後にどうするかも重要なのだ。


 失敗して、いきなり死ぬわけではなく、生きていかなければならないからな。

 ほとんどの人間が、失敗してからどうやって名誉を挽回できるかを探っている。

 失敗せずに、一気に人生の成功者になれる奴など、人間ではない。


 まあ、今回のダリアは、別に自らの失敗ではないのだけどな。

 そういう親や友達からの失敗を受け取ってしまう奴もいるさ。

 環境や状況が悪いから人生を諦めるというのは、やはり間違っている」


「杉田、お前も何か絶望するような事があったのか?

 俺やダリアと近い物を感じるぞ!」


「そうだな、私の場合は大した事じゃない。

 幾人かの親族が、精神病に陥って自殺したという所だ。

 助けようとしたが、幼い私では何の力にもなれなかった。


 こういう状況も、今の世の中では珍しい事じゃないよ。

 もしかしたら、私が発した言葉が引き金となって行動を決意した可能性もある。

 それから、他人を観察して助けたいと感じるようになった」


「そうなのか……」


「あくまでも可能性という話だ。

 もしかしたら全然違う理由で自殺したかもしれないし、事故かもしれない。

 心臓発作や病気で死んだ可能性もある。


 ただ、タイミングが悪くて、ずっと気になっているという所だ。

 もしかしたら、私が助けられたかもしれないと感じる時もあるよ!

 自分に納得していたが、会って真実を知りたいと感じる時はある」


 俺と杉田が話していると、ダリアの診察が始まった。

 ダリアと羽田が診察室へ入って行く。

 俺と杉田は話し込んでいた。


 30分もすると、2人が診察室から出て来た。

 どことなく羽田は喜んでいるが、ダリアは微妙な感じだった。

 無表情という感じに近い。


「どうだった?」


 杉田が出て来た2人にそう尋ねる。

 俺は、2人が話すのを待っていたが、気持ちは同じだった。


 すぐにでも結果が知りたいが、ダリアの心を傷付けてもいけない。

 結果は、羽田が教えてくれた。


「いやー、問題無し。

 全く妊娠の兆候は無かったみたい。

 まあ、直接検査薬を試した私も悪いんだけどさ……。


 ダリアも生理が来てたみたいで、全然的外れだったみたい。

 ダリアは妊娠してないよ。

 だから、安心して良いよ!」


「そっかー、じゃあ、私は帰るわ!

 お疲れ!

 3人で帰れよ、夜で暗くなっているから……」


「お疲れさん!」


 杉田が病院から出て行き、俺達は帰る準備をした。

 羽田がトイレに行っている間にダリアと話をする。

 無表情だったが大丈夫だろうか?


「おい、浮かない顔だな。

 大丈夫か?」


「うん、子供がいなくてホッとしたけど、ちょっと喪失感もあるんだ。

 子供を産んで、宋史君と育てたいと思っていたから……。

 なんか、残念という感じ……」


「まあ、若い内から子供を産むのは負担になると思うぜ。

 俺は、お前が妊娠してなくて良かったと思うよ。

 このまま中学生でもいられるし、高校も行けるかもしれないからな!」


「そっかー、子供が出来たら学校辞めなきゃいけなかったかもね。

 なら、良かったのかな?」


「ああ、子供が出来るにも時期がある。

 今は、勉強や家族との繋がりを大切にするべきだ。

 また、落ち着いたらお父さんにも会いに行こう!」


「うん、そうだよね……。

 お父さんも苦しんでいるかもしれないし……」


 俺とダリアが話し込んでいると、羽田がトイレから出て来た。

 どうやら、話に加わりたいらしい。

 明るく尋ねてきた。


「うん、2人で何を話しているのかな?」


「いや、ダリアの父親の話だよ。

 今、刑務所にいるから……」


「ああ、そうか……」


 羽田は話を一気に終わらせた。

 どうやら、あまりこの話題は話したくないらしい。

 まあ、羽田がダリアの父親を気に入らないのも無理はない。


「帰るか!」


「うん」


 俺とダリアが病院を出て行くと、羽田がゆっくりと出てきた。

 少し後ろを付いて歩く。

 しばらくしても羽田はその距離を保っているので、俺は彼女に問う。


「なあ、杉田の奴が言っていたけど、小学生の時にクラスメイトが亡くなったのか?」


「ふぁあ、何だよ、急に……」


「いや、すまん。

 ちょっと気になって……」


「まあ、良いけどね……。

 杉田や私と小学生1年の時に仲良かった男の子が消えたんだ。

 何が起こったか分からないが、一家全員が消えたらしい。


 杉田は、その男の子と喧嘩した直後だったんで、自分の所為だったと思っている。

 多少酷い事もしていたらしいが、杉田自身はその子の事を好きだったようだ。

 その後からイジメ問題を気にし始めたらしい」


「そうだったのか……」


「私に言えるのは、そこまでだね。

 後は、大して知らない」


 俺とダリアは、羽田の家まで送り届けて、その後家に帰った。

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