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ある子猫たちの場合

 とある町にいる、賢い二匹の子猫のお話です。

 二匹の名前は深夜の暗闇のような毛並みを持つ方が『クロ』、雪のような毛並みを持つ方が『シロ』です。

 クロとシロは散歩とおしゃべりが大好き。いつもいろんな場所を冒険しています。



 今日は病院前のお庭をおさんぽです。

 てとてと、てとてと。

 窓からは疲れた顔のおじいちゃん、おばあちゃんが見えます。


「……人間ってかわいそうだな」


 シロはポツリとつぶやきました。


「へえ、どうして?」


 クロは不思議そうに聞き返します。


「だってアイツら色々悩んだ末に、死んだ魚みたいな目をしながら生きてるじゃないか。そんな考え込まないで楽に生きれば、生きることも死ぬことも辛くないだろうに」

「そう?私はそう思わないわ」

「どうしてだい?」

「だって何も考えなかったら、生きる意味も死ぬ意味も全くない、空っぽの人生になっちゃうじゃない。私だったら嫌よ」


 シロとクロは考え方が違います。わかり合うことはできませんでした。

 その後二匹は落ち葉のプールを楽しんで帰りました。


 ■


 次の日。

 今日は商店街をおさんぽです。

 てとてと、てとてと。

 すると美味しそうな匂いがしてきました。ここはラーメン屋の前です。


「にゃーーん、にゃーん!」

「おっ猫ちゃん!らっしゃい!今日も煮干し食べるかい?」

「にゃん!」

「うん、よーしよし。ほら」


 シロはラーメン屋のお兄さんから煮干しを貰いました。

 ただ、クロは近くことすらしません。


「クロは貰わないのかい?」


 シロは不思議そうに尋ねます。


「嫌よ絶対!」


 クロは力強く言いました。


「なんで私が人間に媚び売らないといけないの?それじゃあまるで私が弱いって認めているみたいじゃない」

「そう?僕はそれでいいけどなあ」

「どうして?」

「だってそうすれば美味しい煮干しが貰えるだろう?ちょっとにゃーにゃー鳴くだけいいなら、泥棒するよりよっぽど素敵だと思うよ」


 シロとクロは考え方が違います。今日もわかり合うことはできませんでした。

 その後二匹は早めのイルミネーションを見てから帰りました。


 □


 また次の日。

 今日は住宅街をおさんぽです。

 てとてと、てとてと。

 するとリンゴみたいな顔をしたおさげの女の子とそのお母さんが歩いてきました。


「にゃーん、にゃーん」


 シロはねだるように擦り寄ります。


「あ、子猫ちゃん!これ食べる?」


 そう言って差し出されたおやつカルパスを、シロは美味しそうに食べました。


「あ、この子猫、首輪ついていない。野良猫だ!ねえお母さん!この子飼いたい」

「ええ?でも普通に買った方が」

「いや!この子がいい!」

「うーん……仕方ないわねえ。いいわよ」

「やったー!」


 シロはそのままだき抱えられ連れていかれました。

 隠れていたクロは一人ぽつんと残されて、その後とぼとぼと帰って行きました。


 ■


 しばらくたったある日のこと。

 クロはひさびさに住宅街をさんぽしていました。

 てと、てと。

 すると向こうから見覚えのあるネコが歩いてきました。


「久しぶり、クロ」

「シロ!」

 歩いてきたのはシロでした。


「今までどこ行ってたの、シロ!心配したのよ!」


 クロは怒った口調で言いました。


「ごめんごめん。僕はあの女の子のペットになったんだよ」

「ペット?」

「ああ!三食昼寝付き、自由に外出も許されている彼女のペットさ。最初はいきなり大きな家に連れて行かれたり、大事な所を無理矢理取られたりしてびっくりしたけど、慣れたらすごくいい暮らしだよ。今までみたいに明日のご飯のことなんて気にすることもなくなったしね。それに新しい名前ももらったんだよ。今の僕の名前は『タマ』さ」

「……へえ」

「どうだい?君も来ないかい?きっとみんな喜ぶよ」

「絶対嫌!」

「どうして?」

「どうしてもこうしてもないわよ!生きるってのは自分の意思で自分の四本足で立ってこそ意味があるの!私は絶対に誰かに養われるだけの生き方なんてしたくない。オリの中の小鳥とは違うの!それに大事な所や名前を捨てるなんてありえない!」

「……そっか残念」

「シロの気が変わらない限り、もう会うことはないわ」

「ああ、こっちこそ。クロの気が変わらなければ会うこともないよ」


 シロとクロは考え方が違います。二匹は最後の最後まで分かりあえませんでした。

「さようなら」と挨拶をして。別々の方向に去っていきました。


 □


 おおよそ一年たったある日のことです。

 とある路地裏で一匹の真っ黒なネコがひっそりと死んでいたそうです。

 そのお話はシロの耳にも入りましたが、泣いたり動揺したりすることはありませんでした。

 なにせシロは自由に考えたり喋ったりできない普通の猫、タマになってしまったのですから。

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