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転校性は炎の魔法使い!?

 まず憧れがあった


 天を焦がすかの如く燃え上がる炎の美しさに


 どうしようもなく憧れたのだ


 やがて炎は静まり燃え滓だけが残った


 熱く燃えていた筈の心の炎もいつしか消えて


 残骸だけが儚くも心の中に残っていた


 だから知らなかったのだ


 冷め切ったと思っていた残骸の中に


 まだ微かな熱が燻っているということを



     ☆



 教室の中は俄かにざわついていた。聞くところによると転校生が来るらしい。

 それも女子だ。可愛いという噂が既に広まっている。


「なぁなぁ円城!楽しみだよな!」


 そんな風に浮足立った言葉を掛けられたのは今日何度目か。


「そうだな」


 俺自身フワフワしそうな心を何とか抑え込みながら友人に応える。

 転校性だなんてアニメや漫画の世界ではお決まりかも知れないが、実際にはそうそうあるイベントじゃない。

 新たな仲間が増えるのだ。

 そこには今までに無かった何かが生まれるのかも知れなくて、自然と気持ちも昂るというものだ。


「相変わらずクールを気取りやがって。すぐ燃え上がる癖にさ」

「ほっとけ」

「見ろよ、さっきぶっちゃんせんせーが運んできた机だ。それがどこに置いてあるのか、お前の眼には見えないのか?」

「俺の隣に置いてある様だな。それがどうかしたか?」

「円城よ。お前、ワクワクしてる表情が隠せてないんだっつーのっ!!」


 そうこう話しているうちにHRの時間になった。『ぶっちゃんせんせー』こと担任の谷淵が教室に入ってくる。

 教室内の緊張は最高潮に達していると言って良いだろう。


「さて、皆も知っての通り転校性が我がクラスにやってくることになった。新たな仲間だ。仲良くするようにな」


 クラス内の雰囲気は今か今かと爆発を構えている火山のようだった。


「それじゃあ猶原君、入ってきなさい」


 ガラッ――と教室の引き戸が開いて、一人の生徒が入ってくる。

 同時に教室内に音にならない爆発が起こった。

 誰もが見蕩れ、そして息を呑んだのだ。

 一目で分かる整った、それでいて可愛らしい顔立ち。ショートに切り揃えられた綺麗な黒髪が底抜けに明るい太陽の様な笑顔を際立たせる。

 美しい立ち姿と、活発である事が窺える健康的な体躯。それでいてブレザーの上からでも隠し切れていないスタイルの良さは犯罪的かもしれない。

 まだ一言も発していないのに、ただ皆の正面に立っただけで人当たりの良さを窺わせる雰囲気はきっと天性のものだろう。

 誰にも文句のつけようのない美少女だった。


「『猶原このはら 火花ひばな』です。皆さん、これから宜しくお願いします!」


 彼女――猶原はひょこっと可愛らしく頭を下げた。

 火花、ね――明るくて可愛らしい猶原にはぴったりの名前だと思えた。


「こんな名前だからというわけではありませんが花火がとても好きです!」


 頭を上げた彼女の自己紹介が続く。

 男子どもがピクリと反応したのが分かる。俺もだから。

 なんと来月、地元で行われる花火大会があるのだ。

 あんな明るい彼女と一緒に行けたらさぞかし楽しい事だろう。


「それと、これはあんまり喋っちゃいけないんですけど、実は私『炎の魔法使い』なんです」


 瞬間、時間が停止した。

 ――ん?何か聞き間違えたかな?『炎の魔法使い』とかいう意味不明なフレーズが聞こえた気がしたが……


「あ、『炎の魔法、使い』ですからね!『炎の、魔法使い』じゃないですからね!」


 疑問符がクラス内に充ち満ちているようだ。

 美少女転校性が来たという興奮など一瞬消え去り、誰もが珍獣を見る様な眼で猶原のことを見つめていた。


「あ、信じていませんね!証拠を見せます証拠を!」


 そう言うが早いか、猶原は徐に持っていたカバンの中に手を突っ込むと、そこから取り出したのは――ライター。そこら辺のコンビニとかで売っているオーソドックスなタイプのライターであった。


 ――は?いや、え?……ライター常備?

 待て待て教師止めろよ――そう思ってぶっちゃんせんせーの方を見ると、そちらはそちらでありえない事態にフリーズしているようだった。


「いきますよー」


 そう言いながら彼女は筒状にした左手の中にライターの火が出る部分を突っ込んだ。

 何してるんだ?――と思いながら見ていると、猶原はそのままライターのフリントホイールの部分を右手でカチッと回し、すかさずパッと左手を開いた。


「《ファイアー》!!」


 瞬間、一瞬だけ猶原の手の上に火の玉が浮かび、ブワッと燃え上がった。

 ……不覚にもちょっと格好良いと思ってしまった自分が憎い。


「ふふーん。これはね、炎の魔法の基礎でね――」

「はい、ライターは没収します」


 そんな風に猶原が得意気に解説を始めようとしたところで、どうやら正気に戻ったらしいぶっちゃんせんせーが猶原からライターを奪い取った。


「あ!ちょっと、私の魔法のステッキを返して!」


 どうやら猶原は先程の手品を魔法だと言い張るつもりらしい。


「ダメです。危険な上に不必要、そもそも校内は火器厳禁です!」


 有無を言わさぬぶっちゃんせんせーの迫力に対し猶原は「でも……」と食い下がる。


「ダメなものはダメ。火災報知器が作動してしまいますし、もしそうなったら我々全員スプリンクラーでびしょ濡れになってしまいます」

「まさか、水の魔法使いがもうここまで入り込んで……」

「いません」


 ばっさりだった。


「さて、それじゃあ猶原君の席はあそこです」


 何事も無かったようにぶっちゃんせんせーは猶原の座る席を指し示す。

 「はーい」と諦めたように軽く言って歩き出す猶原の目指すその先は――何を隠そう俺の隣である。


 ――うっわ、やっべ忘れてた……

 先程までの興奮もどこへやら、俺はただただ猶原が隣の席に来るという事態に困惑していた。


「それでは朝のHRは終わります。すぐに教科書は用意しますが、用意できるまで一先ず猶原君は隣の円城君に教科書を見せてもらってください」


 俺かー!!――と叫びたかった。


「宜しくね。えっと……」


 気付かないうちに隣まで来ていた猶原に話しかけられる。

 名前を教えて欲しい様だ。

 さっきぶっちゃんせんせーが名字は言ってたはずだが、いやまあ良い。名乗りは円滑なコミュニケーションの基本だからな。


「お、俺か?俺は『円城えんじょう 司馬しば』だ。よ、よ、宜しくな」


 しどろもどろになって応える。

 情けない事だが、どうにも俺は女子が苦手なのだった。

 はっ円滑なコミュニケーションがなんだって?こんな可愛い子とスムーズに話が出来る童貞がいるかよってんだ。


「へー炎上芝だなんてよく燃えそうな名前だね」


 馬鹿にされてるのかと思った。

 ――いや、馬鹿にされてるよな!?


「いや燃えねぇから!『円』い『城』に『司』る『馬』だからな!?」


 気付けば俺は思いっきり猶原にツッコミを入れていた。

 いきなり転校性を怒鳴ってしまったかと思い猶原を見ると、猶原は嬉しそうな表情でにこやかに笑っていた。


「キレッキレのツッコミだね!そういうの好きよ」


 そう言って猶原は悪戯っぽく笑う。

 その笑顔と『好き』というフレーズに心が跳ねる。


 ――いやいや落ちつけよ俺。こいつは炎の魔法使いとか名乗っちゃって、しかもライター常備の変人だぞ!?


「フフン、緊張はとれたかしら?」

「え?あ……」


 手玉に取られたことに漸く気付く。

 どうやら猶原は俺の緊張を解す為にわざとふざけたことを言ったらしい。


「始めから緊張なんてしてねぇよ。ま、宜しくな猶原」


 悔しいので、せめてこれ以上は醜態を晒すまいと平静を装い右手をスッと差し出す。

 握手だ。隣の席になった特権に、これくらいはクラスの他の奴らに先んじる権利くらいあっても良いだろう?

 猶原も躊躇うことなくすかさず応じてくれる。


「ええ、宜しくね、炎上君」

「まるで問題発言ばかり見たいな呼び方はやめてくれないかなっ!?やっぱり俺の事馬鹿にしてんだろっ!」

「冗談よ。円城君」


 美少女との握手なんて事態に跳ね上がりそうだった心臓は、やはり猶原によって半ば強引に落ち着かされてしまった。

 どうやら猶原は人の心の機微に聡いらしい。

 意識してるのかしていないのか、いやきっと殆ど無意識にやっているんだろう、猶原はきっと誰とでも簡単に仲良くなれるタイプの人間なんだろうな、と何となくそう思った。


 ――まあ、それはそれとして猶原の手、スベスベしてて柔らかくて……暖かい……やっべぇ、めっちゃドキドキする。


「そう言えば猶原さ」

「ん?なになに?」


 握手をし、驚くほど柔らかい感触にどぎまぎする心を抑えながら、俺は一つ気になったことを聞くことにした。


「さっきのさ、手品」

「うん?炎の魔法?」

「いや魔法って言うか、あの掌の上でボッと火燃やす奴。あれどうやったの?」


 そう質問した瞬間だ。

 グワシッ!――と握手をしていた俺の右手を握り潰さんばかりに猶原が両手で握りしめてきた。


「円城君、炎の魔法に興味があるのね!」


 目が爛々と輝いている様子という奴を俺は生まれて初めて目にした気がした。


「いや魔法って、手品だr」

「良いわ炎の魔法を教えてあげる!」


 はちきれんばかりの何て楽しそうな顔をする奴なんだろうと思った。

 こんな笑顔が見れるなら、多少おかしな発言をするくらい大目に見る事も出来るかと、そう思った。

 ――思ったんだけどなぁ。


「あーでもライターは没収されちゃってたよな」

「大丈夫よ。ほら、私沢山持ってるから」


 全く、美少女が隣の席に来た事に結局俺も舞い上がっていたのだろう。

 そうでなきゃ、こんなことになってるわけない。


「は?え……」


 いきなり手品のようにどこからともなく大量に取り出されたライターを一本ずつ指と指の間に挟みながら見せびらかす猶原。

 そして猶原が開けて見せてくれているカバンの中にはぎゅうぎゅうに詰まったライターの他に、チャッカマンやらジッポライター、果てはガスバーナーやら火打石やら大量の炎を扱う器具がこれでもかと詰め込まれていたのだった。


「楽しくなるわ!」


 猶原は最高に輝かしい笑顔で笑っている。


 ――全く……多少おかしな発言をする変人……ね…………

 そんな生易しい物では断じて無かった。

 明るくて人当たりの良い美少女、それに僅かな好奇心――たったそれだけの事で、このぶっちぎりにイカレた女に話し掛けてしまった事を俺は早くも全力で後悔していたのであった。

自身の内に湧き上がる衝動に従って書いてみました

久しぶりの小説投稿です。

もし宜しければ感想など書いていただけると幸いです。

2章更新は未定ですが、一応展開だけは考えてあるのでその内更新すると思います(コラ

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