こんな私と初めての先輩
「お疲れ様ー」
今日も今日とて訓練室でカムイを暴発させた後、生徒会室に顔を出す私。
もう完全にカムイの補習ではなくカムイの暴発と言ってしまっている辺り、
自分でもまともに使えるという気が無くなっているのかもしれない。
「お疲れさんー」
私の声にヒルコちゃんが答えてくれる。
今日は何故かソファーの上でカノの頭を膝枕しながらカノの頭を撫でていた。
最近この二人はなんていうか妙に馬鹿ップルぽい行動が多い。
どうやらこの間の反省室送りが相当こたえたらしい。
「今日はどんな暴発させてきたん陽花はん」
今日試したカムイかー……。
今日試したカムイは炎流というカムイ。
普通の効果は炎の流れを操るカムイで水流の炎版と言った感じ。
なので、なんとなく使う前から暴発する傾向は何となく読めていた。
キクリ先生が火呼で召喚した炎を私の炎流でコントロールしようとする。
けどコントロールした結果、キクリ先生の召喚した炎は渦を巻いて火災旋風と化した。
まぁ……水流が渦をまくんだから炎流がこうなるのは当然と言っちゃ当然か。
そんなわけでまた私は訓練室を半壊させかねないことをやらかしてしまったのだった。
いやー……頑丈だよね、この学園の訓練室。
キクリ先生のフォローも的確だしね。
「まぁいつも通りっていえばいつも通りだよ……」
私が言葉を濁して答えると、
「ヒルコ、陽花の顔に書いてあるわよ、今日も訓練室を半壊させかけてきましたって」
ヒルコちゃんに頭を撫でられながら、カノに笑いながら言われてしまった。
「ま、そんなトコやろなー。伊達に『歩く天変地異娘』なんて呼ばれてないわな」
「だからそれやめてえええええええええーーーーーー」
生徒会室に私の叫び声が響き渡る。
二学期になってからというもの放課後の補習のたびに訓練室を半壊させかけているというのが、
とうとうアカリの耳にも入ったらしく私のあだ名も『歩く天変地異娘』にランクアップしてしまった。
まぁ以前の『恐怖の殺戮少女』よりは幾分かマシな気がしないでもないのだけど。
でもその『歩く天変地異娘』っていうやっぱり物騒極まりないあだ名を
受け入れてしまってきている自分が何だか悲しい。
「で、今日はこれからどうするの?陽花」
「特に仕事がないなら、高千穂によって帰ろうかなぁって」
「あら、そうなの。社会人は大変ね、おつかれさま」
そう言ってカノは私を労ってくれる。
「カノ。お姉ちゃんの場合、仕事じゃなくて遊びに行くだけだから別にそんなこと言わなくて良いよ」
会長の席でサクヤちゃんと隣り合って宿題をしていた月依がそんなことを言う。
「どういうこと?」
「お姉ちゃんは、高千穂でゲームと通販しにいくだけだからね」
「それはそうだけど……でも今そのカノが寝っ転がって頬張ってるハチミツ黒砂糖飴もそこで通販してるんだからね!ある意味ちゃんと仕事してるっていえばしてるよ!」
そう言って私はカノが手を付けているハチミツ黒砂糖飴を指さす。
「今日は特に仕事もあらへんから遊んできてええよー」
カノの頭を撫でながらヒルコちゃんは私に言う。
「じゃ、またね陽花。ゲーム楽しんでらっしゃい」
そう言って幸せそうに目をつぶるカノ。
「ヒルコちゃんとカノまでそんなこと言うー……」
うう……もうやだこのイチャイチャバカップル……!
ヒルコちゃんは私にキスまでしたっていうのにさ!!
私のサードキスを返せえええええええ!!!
半分涙目で私は生徒会室を後にするのだった。
―――
で、高千穂のタカマガハラ課。
「お疲れ様です」
事務員のお姉さんに挨拶をすると
「今日は珍しいお客さんがいらっしゃってますよ」
と声をかけられる。
珍しいお客さん?……誰だろう。
そう思いながら部屋の奥、作業部屋へと歩を進める。
「お疲れ様ですー」
言いながら制服を翻し部屋に入るといつもの如く那直兄さん一人きり。ではなく。
事務員のお姉さんが言った通り、眼鏡をかけた黒髪ロングのスレンダーなスーツが似合う美人なお姉さんが
私の隣の席に座っていた。
「お疲れ様、陽花ちゃん」
「お疲れ様ー」
那直兄さんと共に私の声に応えてくれるお姉さん。
私の隣の席に座っているってことは私の先輩さんかな。どうしよう。
私がその場で戸惑っていると、那直兄さんが私の所に来て
「柚木、この子が陽花ちゃんだよ。仲良くしてあげてね」
そう紹介してくれる。
すると柚木と呼ばれた先輩は
「言わなくても知ってるよ、那直。半年前の体育祭で見てたから。あれは本当に良い見世物だったね」
そう言ってクスリと微笑む。
そして椅子から立ち上がり、私の前に来て
「ボクの名前は宮内柚木。柚木って呼んでもらっていいよ、陽花ちゃん」
ボ、ボク?
見た目に反してボクっ子なのがすごい違和感。
「あ、はい。わかりました柚木先輩」
「先輩……。先輩、かぁ……なんかむずがゆいけど、悪くないね」
えへへへと言った感じで笑みを漏らす柚木先輩。
「二人は趣味も似てるからきっと仲良くできるよ」
そう言って那直兄さんは自分の席へと帰っていく。
「それじゃ立ちっぱなしもなんだし席に座ろっか」
そう言って柚木先輩は自分の席に戻る。
私もそれに続いて自分の席へ。
そして柚木先輩のパソコンの画面に映っている画像に目を見張る。
「あ、それ刃物のやつのゲームですよね」
「お、さすが陽花ちゃん。噂通りのオタクっぷりだね」
え゛。そんな噂になってんの私のオタクぶり。
あー……でも会社宛てに漫画本やら、自分とキクリ先生用のアニメ円盤やら頼んでればそりゃ噂にもなるか……。
基本的に日本のタカマガハラ本社経由でここに届いてるわけだし。
「柚木先輩は刃物のやつのゲームやってるんですね」
「ん?てっきり陽花ちゃんもやってるんだとおもってたけど、違うんだ?」
「そのゲームちょっと拘束時間長いから今の環境だとちょっと難しいんですよね」
「そっかー。確かにキラ付けとか周回とかめんどくさいしねー」
「ですです。そんなわけで私はこっちのゲームやってます」
そう言って私は植物のゲームの画面を開く。
「ほほー、陽花ちゃんの趣味はそっち系かー……うんうん」
なんかキクリ先生以来だなぁこんなオタクトークできる人って。
先輩だけどすごい親しみもてる人だなぁ……。
「で、この子が私のお気に入りのヨツバちゃんです」
「へー。確かこの絵師の人、外国の人じゃなかったっけ」
「ですです。外国の人なのに日本人好みの絵が描けるってすごいですよね」
最近はそうでもないけど、絵にはやっぱりどこかお国柄というかそういうものが滲み出てしまう所があるんだよね。
だから、こんなに日本人にクリティカルにヒットするような絵を描ける外人さんは貴重だったりする。
「ボクも別ゲーでさ、この人の描いたキャラもってるんだ」
そう言って柚木先輩が開いたゲームは任侠もののゲームだった。
「あ、この子もヨツバちゃんとはテイスト違うけど可愛いですねー。ちょっと欲しいかも」
「このゲームはシナリオがパロディだらけで結構通好みなんだよね」
「へ~……そうなんですね」
そっかーパロネタメインのシナリオだと広く浅い(所々深い)知識の私だと結構楽しめるのかも。
「じゃ、今度やってみますね」
「うんうん。是非是非楽しんでみてね。と……それじゃあボクはそろそろ日本に帰る事にするよ」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
「うん。今日はこれからちょっと野暮用でね。でもこれから週末にはここに来ることになってるから、会いたいときは来週また来ると良いよ」
「はい、わかりました」
「それじゃ、またね陽花ちゃん。那直もまたね」
そう言ってひらひらと手を振って部屋を出ていく柚木先輩。
「はい、またです柚木先輩」
「お疲れ様。柚木」
那直兄さんは柚木先輩を送り出した後、私の机の傍に来て、
「なんだか随分と楽しそうに話してたけど仲良くなれそう?」
そんな風に問いかけてくる。
「それはもう。キクリ先生と同じくらい趣味が合う人に出会えちゃいました」
「そうかい。それはよかったよ。それじゃ、僕もそろそろ帰るから戸締りよろしくお願いして良いかな」
「はい。わかりました。お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様。またね陽花ちゃん」
那直兄さんもそう言って作業部屋を後にする。
ふう……なんか嵐の様な一時だったなぁ。
柚木先輩かぁ……一見スーツの似合う大人な女性だったけど、
言葉遣いは何だか中性的で、見た目に反してボクっ子だしで、不思議な感じの人だったなぁ。
でもキクリ先生とはまた違った感じの大人の女性って感じ。
そしてキクリ先生と同じくあんなにオタクトークができる人だなんて。
ここに来る楽しみがまた一つ増えてしまった。
来週は補習は早めに切り上げてもらって早めに来てみようかな。
とまぁ柚木先輩のことを思い返すのは後にして。
通販やら週課のゲームを済ませてしまおう、そうしよう。
第5章の開幕です。
5章は新キャラ多めになってきます。
でも本筋にはあまり関わらない程度にしたいなーと思ったり思わなかったり。
どうなるかはわかりませんが。
楽しんでいただければと思います。




