scene:50 幕間 猫は頑張る(2)
感想や評価を頂きました。ありがとうございます。
頑張って書いているのですが、遅筆なのはどうしようもないようです。
ご勘弁下さい。
猫人族のハンター見習いパーティとして活動を開始したミリアたちは、地道に依頼や狩りを行い、まだ『魔力袋の神紋』を授かっていない三人の取得費用を貯める事を優先した。
一ヶ月ほどで、三人が『魔力袋の神紋』を授かった。その後も順調に狩りを続けランクアップに必要な費用も程なく貯め、ハンター見習いの全員がランクアップし序二段の正式ハンターとなった。
正式ハンターとなって間もないある日の朝、太陽が地平線から顔を出すと同時に目覚めたミリアたちは、冷たい井戸水で顔を洗い、着替えてから近くの丘に登る。
「お姉ちゃん、お空が青くちぇキレイでしゅ」
早起きに慣れたルキは、元気一杯と言う感じで上り坂をポテポテと登る。幼児体型のルキは手足が短く、不安定な身体を懸命に動かしている感じだ。それが可愛らしく見ているだけで、ミリアたちは微笑んでしまう。
ミリアとルキ、リカヤとネリが丘の頂上に到着する。準備運動をしながら少し待っていると、寝癖で髪の毛を逆立てたマポスが駆け上がって来た。
「遅いぞ。マポス」リカヤの叱咤の声。
「ハアハア……ごめん、寝坊した」
マポスがまたやってしまったと申し訳無さそうに謝る。
「明日はちゃんと起きろよ。さあ、始めるぞ」
リカヤの一声で朝の訓練が始まった。最初は素振りから始める。この一ヶ月で、リカヤとネリの武器が短槍に変わっていた。ゴブリンとの戦いでショートソードを壊し、ミリアの助言で双剣鹿の剣角を使った槍をメイン武器に変えたのだ。マポスだけは剣に拘りがあるのかメイン武器を変えようとはしなかった。
槍の素振りは、攻撃系の直突き・回し突き・すくい突き・打ち込み・薙ぎ払いの五基本と防御系の巻払い・振り回しなどを中心に行う。伊丹が学んでいる槍術の基本だ。名前は異なるが、ほとんどの槍術には似たような技があると伊丹師範が言っていた。
マポスは細い丸太を使ってひたすら立ち木打ちをしている。幕末に数多くの達人を排出した薩摩藩の示現流にも同じ練習法が存在する。達人ともなると立ち木に打ち下ろした時に煙が上がったと言われるほど激しい打ち込みを行うらしい。
素振りの後、型稽古を行う。十八手の基本的な型だ。ルキも短めの棒を手に取り型をゆっくりと繰り返している。
「敵の攻撃を想定しにゃがら、相手の得物を払うように巻払い……しゅかさず突き!」
ミリアが説明しながら型を演武すると、それを真似してリカヤとネリが槍に見立てた棒を振るう。まだまだぎこちない動きだった。それでも一つ一つの動きには力が込められ、十分な戦闘力が有るのが判る。
「ハッ」「エイッ」「シャー」「ふにょ」
最後の変な気合はルキのものだ。ルキの型は正確さに欠けていたが、六歳児にしては力強く穴兎くらいならば倒せそうだ。
最後に二人組みになって組手を行い朝練を終える。その頃になると丘から見下ろす家々から朝食の支度をする煙が立ち上る。貧民街なので小さくボロい家々だが、その一軒一軒には懸命に生きている人々の生活が有る。
マポスたちがそうだったように、迷宮の荷物運びや何らかの日雇い仕事をして小銭を稼ぎ慎ましい暮らしを送る。そんな人々の町がミリアたちの故郷なのだ。
朝練を終えたミリアたちは、朝食を済ませるとハンターギルドへ向かった。依頼票ボードの前に集まり依頼票のチェックをする。
「えーっと、ゴブリンのと・う《・》・ば《・》・つ《・》・い《・》・ら《・》・い《・》?……アッ、常駐依頼のゴブリン討伐でしゅ」
ネリから文字を習ったミリアだが、まだ上手には読めないようだ。それでも苦労しながら依頼票の一つ一つを確認していく。
「アッ、これ! ネリ、この依頼はクラウザ初等学院からの依頼でしゅ」
クラウザ研究学院から薬草採取や魔物捕獲の依頼が出されるのは珍しくないが、その附属学校であるクラウザ初等学院からの依頼は珍しい。クラウザ研究学院に憧れているネリは、この学校関連の依頼はなるべく引き受けたいと日頃から言っている。
「ふんふん、新緑期実習のサポート役を募集しているのね。正式ハンターにゃら引き受け可能だから、引き受けようよ」
ネリがリーダーのリカヤにお願いした。リカヤは冷静に判断を下す。初等学院の低学年生たちのお守りは厄介だが、報酬もそこそこ有るので引き受けても問題ないだろう。期日は五日後で学校関係者との打ち合わせも有るらしい。
マポスとミリヤにも意見を聞いたが、リカヤに任すと言う答だった。ルキは……
「じっちゅう? たのしちょうだから、ルキもやる」
リカヤたちは新緑期演習の依頼を引き受けた後、ゴブリン討伐を行った。
その五日後、迷宮都市の南門に集まったハンターの数は十五人。初等学院ハンター養成クラス生の数は四十五人、教師が三人と言う大人数となった。
教師の一人が生徒たちに新緑期実習について説明した。三つの班に分かれた生徒たちが、雑木林の中の指定地点まで行き南門まで戻って来るまでが実習である。もちろん、魔物と遭遇すれば生徒たちが戦う事になるが、弱い魔物しかいないと言われる雑木林であっても、偶に強い魔物が迷い込んでいる場合がある。
そんな時はサポート役のハンターたちの出番である。生徒たちを守りながら戦って倒すか、生徒を逃がすかするのが役目だ。
当日の朝早く、生徒たちは三つの班に分かれミリアたちと合流した。ミリアたちと行動を共にする生徒は、人族九人と猫人族三人の合計十二人である。
「何だよこれ、僕たちをサポートするのは、こんな亜人共なのか」
人族の生意気そうな少年が大きな声を上げた。声を上げた少年は、十二歳くらいでショートソードを腰に下げている。因みに、他の生徒たちも十歳から十二歳ほどの少年少女で、革鎧と剣や槍、メイスなどを装備している。
「ナザル、失礼ですよ。この人達は正真正銘ハンターなのよ」
引率役の教師であるモウラ・ニベルディスは、生徒を叱りながらルキの方に視線をチラリと向ける。立場上、生徒を叱ったが、ナザルの言葉に共感する。本当に生徒たちの手に負えないような魔物と遭遇した時に対応出来るのか不安だ。
「でも、こいつら何か頼りない。そう思わないか、皆」
「そうだな。俺たちとあんまし歳も変わらないし、武器も変だ」
ナザルの友人らしい少年が同意した。少年たちは同じような意見のようだ。だが……
「ちょっと、この可愛い子は別として、年上に向かって失礼よ」
一人の猫人族の少女がミリアたちの味方に回った。ルキの可愛い姿に好感を持ったようだ。
「コルセラ、同じ猫人族だからって依怙贔屓するな。どう見ても弱そうだろ」
「外見だけじゃ分からにゃいわよ。本当は凄く強いかもしれにゃい」
生徒たち全員の視線がミリアたちに向く。
非常に居心地の悪い状況の中でリカヤが口を開く。
「あたしはリカヤ。このキャッツハンドの代表よ。そちらの少年が言ったように頼り無さそうに見えるのも事実だわ。実際ハンターとしては駆け出しだけど、この雑木林についてにゃらよく知っている。この雑木林を棲み家としている魔物の中で強敵にゃのはゴブリンや斑ボア位だから、心配無いわ」
「凄い、ゴブリンや斑ボアを倒せるんだ」
「本当かよ」
生徒たちがリカヤの言葉に感心する。彼らにとってポーン級中位のゴブリンであっても強敵だったからだ。
「さあさあ、皆。実習を始めますよ。先生が指示する方向へ進んで下さい」
普段は植物学を教えているモウラは、生徒たちを南東へと向かわせた。周りを見回すと他の生徒や教師たちの姿は消え、残っているのはモウラの班だけだった。
リカヤは他のメンバーに指示を出す。
「ミリアはあたしと一緒に先頭へ。ネリとマポスは殿に着いて。ルキはミリアの後ろでいいわ」
先頭を行くモウラと一緒にリカヤとミリア、ルキが歩き始める。雑木林の中に入り少し進んだ所で、数匹の緑スライムに遭遇した。
スライムはほとんど音を立てないので耳の良い猫人族と言えども遠くからは発見出来ない。
生徒が騒ぎ始めた。スライムを見付け興奮しているのだ。
「よし、僕が退治してやる」
ナザルとその友人たちが、先頭に出て剣を抜いた。初等学院の生徒たちは中流階級以上の家庭で育った子供がほとんどで、装備もそれなりのものを身に着けている。
ミリアが心配しモウラ先生に尋ねる。
「止めにゃくて良いんですか。鉄製の武器で緑スライムを攻撃すると武器が駄目ににゃりましゅよ」
モウラは溜め息を吐き、頭を振る。
「その事は授業でキチンと教えているはずなのです。魔物と遭遇して忘れたようですね。少し様子を見て……」
そう言い終わらない内に、ナザルと二人の少年がスライムに向かって突撃した。滅茶苦茶に剣を振り回し、スライムを切り刻む。だが、スライムの魔晶管にはカスリもしなかったようだ。切ったはずの傷跡は瞬時に消滅し元通りとなり反撃を開始する。
一匹の緑スライムがプルッと身体を震わせ強力な酸の塊を飛ばした。その速度は速くはない。それでも不意を突かれたナザルは慌てた。
「ウワッ!」
慌てて回避するが、革鎧に少し掛かってしまう。ジュッという音と共に革鎧の一部が変色しボロボロになる。
「ああっ、買って貰ったばかりなのに」
ナザルが半べそになる。そして、ピカピカだったショートソードがスライムの酸に因って変色しているのに気付いた。
「しまった!」
他の二人もスライムを切った剣が腐食しているのに気付き悲嘆の声を上げる。
その様子を見ていたマポスが偉そうに笑いながら。
「馬鹿にゃ奴らだ」
「何言ってるでしゅ、マポスも同じ事したじゃにゃい」
「ウッ……あの時は慌てていたから……」
ミリアの指摘に、マポスはリカヤの後ろに隠れるようにして小さくなった。猫人族のマポス、ちょっと残念な少年である。
ナザルたちが戻ってくると、モウラの厳しい声が生徒たちを叱る。
「自分たちが間違いを犯した事に、やっと気付いたようですね」
「モウラ先生……判っていたのなら止めてよ」
ナザルが泣き言を口にする。後ろの二人も賛同するように声を上げた。
「それじゃあ、実習にならないでしょ。こういう経験も実習の一部なのよ」
モウラが突き放すように言った。ナザルは悔しそうに唇を噛み締める。
「モウラ先生、ハンターならどうするべきなんですか?」
猫人族のコルセラが質問する。モウラは少し考えてからリカヤに丸投げする。
「それは本職のハンターさんに聞いてみましょう」
急に振られた質問にリカヤが驚き困ったという顔をする。困った顔をしている友人を見てネリが声を上げた。
「リカヤの代わりに私がお答えしましゅ。ほとんどのハンターはお金ににゃらにゃいスライムは無視して進む。でも、スライムの酸が効かにゃい武器を持つ者は、スライムの魔晶管に素早く止めを刺して戦いを終わらせるのが普通かにゃ」
何故か出番が来たと思ったルキが声を上げる。
「ルキがおちぇほんを見せて上げりゅ」
以前に、お手本と言いながら、楽しそうにスライムと戦う薫の姿を思い出したようだ。トコトコとホーンスピアを担いで駆け出したルキが緑スライムに向かってホーンスピアを一薙ぎする。ホーンスピアの刃が魔晶管を切り裂き仕留める。スライムは形を失い地面に広がった。
「オオッ」「凄え」「あんな小さい子が」
驚きの声に気を良くしたルキが他のスライムを仕留めようとするが、ミリアが止めた。
「ルキ、駄目よ。私たちの出番はポーン級中位以上の魔物が出てからよ」
「は~い」
素直に戻ってくるルキが担いでいるホーンスピアに、コルセラが注目した。
「ルキちゃん、その槍を見せて」
ルキはちょこっと首を傾げてから、ホーンスピアをコルセラに渡す。手にしたホーンスピアの刃の部分をじっくりと調べたコルセラはミリアに確認する。
「この刃は魔物の角ね?」
「そうでしゅ。小刀甲虫の刀角を使ってましゅから緑スライムの酸でも傷みません」
緑スライムは最も数多い魔物である。そのスライムがうようよ居る野外で生活する魔物の多くは、緑スライムの酸に負けない武器を発達させたものが多い。
その後、ネリがスライムを倒すには魔晶管を攻撃するしかない事、酸飛ばし攻撃をする前にプルッと震える予備動作が有るので、それを見たら用心する事を教えた。
生徒たちは少し遠くから、緑スライムの体内に魔晶管が存在するのを確認して先に進む。その後も足切りバッタの群れに遭遇して大騒ぎし、また、跳兎から不意打ちされ二人ほどが軽傷を負うが、生徒たちだけでなんとか倒すのに成功する。
スライム以外は、予め魔物の気配に気付いていたのだが、モウラから生徒たちに警告するのを止められた。痛い思いをするのも実習なのだそうだ。モウラが学校の備品である傷薬などを十分用意していたので、生徒たち自身で傷の手当を行わせた。
太陽が頭の真上に来た頃、目的である折り返し点に到着した。木樹の少ない草地である。生徒たちは自分の気に入ったの場所に座り込んで休憩と軽い食事を取り始めた。
ミリアたちも手早く食事を済まそうと座り込む。そこにコルセラを含む猫人族の少年が近づいて来た。
「一緒にいいでしゅか?」
コルセラが尋ねると、リカヤが頷いた。
「いいわよ」
それぞれが自己紹介をし、猫人族の二人の少年が、オテロとダキトだと知る。オテロとダキトは商人の息子で三男と四男らしい。商家である実家は長男が継ぐので、ハンターにでもなろうと初等学院に入学したと言う。
コルセラは学院近くに在る剣術道場の一人娘だった。だが、道場主である父親が病死した後、道場は閉鎖された。母親と二人で細々と暮らすだけの蓄えは有ったが、その蓄えが尽きれば道場を売り払うしか道はない。
父親の形見とも言える道場は手放したくない。そこでコルセラはハンターになる道を選び初等学院に入学した。
「私も、リカヤさんたちみたいにゃハンターににゃりたいにゃ」
リカヤが照れたように耳をピコピコと動かす。
「あたしたちはハンター見習いから、やっと正式ハンターににゃった駆け出しよ」
「そうでしゅ。私たちじゃ無くミコト様みたいにゃハンターを目指す方がいいでしゅ」
「ミコト様?」
コルセラが首を傾げる。ミリアはミコトたちとの出会いと如何に凄いハンターであるかをコルセラたちに語った。
「本当に凄いでしゅ。たったの一〇日足らずで勇者の迷宮の第六階層に辿り着くにゃんて」
ミコトたちが褒められると、ミリアとルキは自分たちが褒められたように嬉しくなった。
「そうでしょ。今度ミコト様が迷宮都市に来た時に魔法について教えてくれると言っていたから、しゅごく楽しみにゃのでしゅ」
「羨ましいにゃ、ミリアさんたちだけじゃにゃく、私にも教えて欲しい」
ミリアの話を聞いていたのは、コルセラたちだけでは無かった。傍に座っていたモウラも話を聞き、ミコトたちに興味を持った。ミリアたちにハンターの基本を教えた人物に、教師としての才能を感じたからだ。
一方、スライムの一件で恥をかいたナザルたちが汚名を返上しようと相談していた。
「今度魔物が出たら、俺たちだけで倒してしまおうぜ」
ナザルが威勢のいい声を上げた。それに友人のカムリスが口を挟む。
「ゴブリンとかだったらまずいぞ」
「ポーン級中位だろ。跳兎と大した違いはないさ」
「そうかな?」
ミリアたちが知らない所で、フラグを立てた少年たちは帰り道に備えて準備を始めた。
休憩を終えた生徒たちが、モウラの号令で歩き始めた。迷宮都市の住人が雑木林呼んでいる地域は、南北十数キロ、東西八キロほどの広大な未開拓地だ。昔、ここを開拓して農地にしようという試みが有ったが、樹海から魔物が絶えず流入して来る為に計画は頓挫したようだ。
折り返し地点から五〇〇メートルほど進んだ時、リカヤの耳がピクッと震えた。
「何かが近付いて来るわ……別の班の生徒たちかな?」
その声でミリアたちも耳を澄ます。
「違う。ゴブリンの集団だ。数が多い」
「どうしてかしら、こちらに気付いているみたい」
マポスとネリが気付いた事を告げる。まずい状況だった。ゴブリンの足は速く、生徒たちでは逃げ切れそうにない。
ミリアが周囲の地形を確認し、リカヤに進言する。
「あそこに木立ちの少にゃい場所が有るわ。パチンコで先制攻撃しゅるには最適な地形でしゅ」
「よし、生徒たちは奥の木の陰に隠れていて貰おう」
リカヤはモウラにゴブリンの集団が近付いて来ている事を話し、生徒と一緒に隠れているように指示を出した。生徒たちが不安な様子で指示に従い木立ちの陰に隠れる。
準備が整いミリアたちが藪に身を潜ませた直後、ゴブリンの集団が現れた。緑色の醜い小人たち、ほとんどが腰布だけで手には剣や槍、棍棒を持っている。ミリアが素早く数えると九匹のゴブリンが居た。
ミリアとルキは藪に隠れながらパチンコを取り出し鉛玉をセットする。狙いは先頭を歩く二匹のゴブリン。躯豪術の呼吸法で魔力を制御しパチンコに魔力を流す。魔導ゴムを引き絞り姉妹で呼吸を合わせ同時に鉛玉を放った。
二個の鉛玉がヒュンという音を響かせて宙を翔び二匹のゴブリンの額に当たった。
「ゴチッ」「ガチッ」
頭蓋骨に穴を穿つ音がしてゴブリンが倒れた。その途端、ゴブリンの驚きと怒りの声が周囲に響き渡る。その声に生徒たちが怯えた顔をする。
ルキはその場に残り次の鉛玉を取り出す。ミリアとリカヤ、ネリとマポスはそれぞれの武器を抱えて突撃を開始した。その姿を見付けたゴブリンが騒ぎ出す。
ミリアたち四人と残りゴブリン七匹の戦いが始まった。
まずマポスと槍を持つゴブリンとがぶつかった。ショートソードを上段に構えたマポスが、ゴブリンの槍を払い懐に踏み込む。ゴブリンが力任せに槍を振り回しマポスの肩を払う。その攻撃をショートソードの根本で受け止め力比べとなった。
次にミリアが参戦する。棍棒で殴り掛かる敵の足元を薙ぎ払い、ゴブリンを転ばせ、その後ろにいるもう一匹に掬い上げるようにホーンスピアの穂先を上げながら右足を踏み込む。槍の穂先がグゥンと伸び敵の喉を突き刺した。
「グギャー!」
転ばせたゴブリンが気合を発しながら起き上がり、再び棍棒を振りかざす。ミリアはクルリとホーンスピアを振り回し棍棒を受け流す。
リカヤとネリも参戦し戦いは混沌としたものになった。そこにミリアたちの背後から甲高い気合の声が上がった。
「助太刀だ!」「ウオオオッ!」「オオッ!」
剣を抜いた生徒三人が戦いの場に参加しようと駆けて来る。
「アッ、駄目、戻りなさい!」
モウラの叫び声が上がる。
ゴブリンの中で一匹だけ戦いに加わらず様子を見ていた奴が居た。そいつは他のゴブリンとは異なり武器として杖を持っていた。その杖が振り上げられた。
「後ろの奴の魔法に気を付けて!」
ゴブリンの杖に気付いたミリアが警告の叫びを上げた。
ゴブリンの放った魔法は、風の刃となって三人の生徒たちに襲い掛かった。リカヤが厳しい声で命じる。
「横に飛べ!」
ぎりぎりで魔法に気付いた生徒三人が慌ててリカヤの命令に従う。風の刃がナザルの頬をかすめ地面を掘り返す。大きな土煙が上がり魔法の威力を見せつけた。三人の生徒は顔を青褪めさせ震え始める。
ゴブリンメイジがもう一度杖を振り上げる。
「ルキにお任しぇ!」
ルキのパチンコが再び鉛玉を撃ち出した。鉛玉は十五メートルほどの距離を飛翔し、ゴブリンメイジの右目に吸い込まれるように命中した。ルキの大手柄である。
戦況は一気にミリアたちの有利に傾く。マポスが力比べの末にゴブリンを袈裟懸けに切り落とし、リカヤのホーンスピアが敵の喉を切り裂く。そして、ネリのホーンスピアが相手の腹を穿つ。
後は短時間で残った敵に止めを刺し戦いを終わらせた。
休む間もなくゴブリンの剥ぎ取りを行い、ゴブリンメイジからは魔晶玉を得た。
「凄い、魔晶玉を取り出す所を初めて見た」
生徒たちが騒ぐ中、あの三人組だけはモウラから説教を食らっていた。
戦いの直後は指示に従わなかった三人を怒っていたリカヤたちだったが、初めて自分たちの力で魔晶玉を手に入れ、怒りも霧散する。
ゴブリンとの戦い以後、ミリアたちのサポートが必要な事態は起こらず、無事に南門に戻り着いた。
ミリアたちのパーティは、この依頼で評価を高め期待の新人パーティと呼ばれるようになる。そして、知り合った教師や生徒たちを通じて、学校関係者との親交を深めた。
2015/3/5 誤字・脱字修正
2016/6/16 誤字修正
2016/6/30 誤字・脱字修正