表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第2章 勇者の迷宮編
41/240

scene:39 迷宮の森林

 迷宮都市を離れるまで後六日、『勇者の迷宮』前でミリアたちと合流した。今日は第六階層でなるべく多種類の魔物と戦う予定である。好都合な事に、この階層の森林にはポーン級中位から上位までの魔物が活動している。

 一番の強敵はホブゴブリンらしい。ゴブリンの上位種で体格は人間並み、ホブゴブリンメイジも存在するので魔法も警戒しなければならない。


 迷宮前はいつもの様ににぎやかだった。これから迷宮に挑戦しようという探索者と彼らに群がる荷物運びの子供たちが声高に交渉している。中に見覚えのある猫人族の少年が居た。その少年はミリアの姿を見ると駆け寄り声を掛けて来る。

「ミリア、その鎧と槍はどうしたんだ?」

 ミリアとルキは、リカヤが仕立て直してくれた革鎧を装備していた。ミリアは黒大蜥蜴革製、ルキは縞狼革製である。手にドリルスピアを持っているので荷物運びではなく探索者に見える。

「革鎧はリカヤが仕立て直してくれたの。槍はミコト様に借りた護身用でしゅ」

 ミリアは、駆け寄って来た友人マポスに誇らしげに応えた。この革鎧はリカヤが徹夜して用意してくれたものだ。今朝起きた時に渡され、嬉しくて涙が出た。もちろん、ルキは喜んで感謝の舞を踊った。リカヤの周りをはずむようにスキップし、革鎧を両手でかかげ、時折くるりと回っていた。


「今日は、どの階層に潜るんだ?」

「第六階層でしゅ」

 その答えにマポスが驚いた。それも無理なかった。この前まで初心者だった奴らが、歩兵蟻が支配する第五階層を突破したのだ。通常なら、一ヶ月以上、早くても一〇日は第四階層や第五階層で苦戦するものなのだ。

「早しゅぎるだろ!……そんにゃ無茶したら死んじまうぞ」

 マポスがギャーギャー騒ぎ始めたので、ミリアは不機嫌になる。

「マポス……五月蝿いでしゅ。カオル様たちは特別にゃのでしゅ」

 ミリアは不機嫌な表情のままマポスを追い払った。


 ミリアと友人の様子を見守っていた俺たちは、騒ぎが収まったようなので出発する。第二ゲートの階段を降り第六階層へ到着した。

 昨日、ギルドの資料室で調べた結果を伊丹と薫がレクチャーしてくれた。

「この階層で気を付けねばならん魔物は、ホブゴブリンのようでござる。中にはメイジも居るようで、先手必勝の心構えで戦いに臨むべきでござる」

「宝箱は第六階層と第十二階層に多いみたい。私は迷路みたいな階層に多いものだと予想していたから意外だった。……その理由も調べてみると簡単ね。ミミックって魔昆虫なんだから、餌の多い森林や草原みたいな階層を住処としてるのは当然なのよ。それ以外の階層へは繁殖のために行くみたい」

「繁殖?」

 俺が疑問を口にすると、薫が続けて説明する。

「魔粒子のたまり場みたいな場所に卵を産み付けるらしいの」


 取り敢えず、第六階層をぐるりと周回する事にする。この階層には様々な魔物が棲息しているようで、さながら樹海のミニチュア版である。

「左前方から、化け茸が一匹。ミリア戦ってみろ」

 体長八十センチほどの松茸に小さな一〇本の足が付いたような魔物で、攻撃すると麻痺毒の胞子を放出する。

 ミリアがドリルスピアの突きを放つ。敵に当たった瞬間クイッと手首を捻る。槍の穂先がググっと魔物の胴体に減り込む。そして、素早く後退する。その瞬間、化け茸が胞子をブワッと吐き出す。

「よし、その調子だ……アッ!」

 俺が油断した隙に、ルキが突貫する。木の棒を化け茸に叩き付けたのは良いが、麻痺毒の胞子を少し吸い込んでしまう。

「にょにょにょ~」

 変な声を上げながらルキが後退して来た。素早く伊丹が駆け寄り<対毒治癒ポイズンキュア>を掛ける。

「大丈夫でござるか?」

「だいちょーぷ、ちょっとピリピリしただけ」

 ルキが無事なようなので、ミリアは化け茸を攻撃し仕留める。その後、ルキを叱った。

「ごめんにゃしゃい……」


 ほとんどの魔物は、俺と薫、伊丹の三人で倒した。弱い魔物一匹だけと遭遇した場合、ミリア(+ルキ)に戦わせた。俺が魔物の弱点や習性、攻撃の避け方を教えたので、大きな怪我をする事もなく、化け茸二匹、ゴブリン一匹、槍トカゲ一匹を倒した。

 槍トカゲからは魔晶管と肉、舌肉を剥ぎ取る。舌肉はミリアとルキ用のパチンコを作る為である。


 ミリアとは別に、俺たちが倒した魔物は、ゴブリン九匹、コボルト五匹、陰狼かげおおかみ六匹だった。コボルトが鋼鉄製のロングソード二本を装備していた以外は、あまり収穫はなかった。


 もう少しで一周すると言う頃、大きな倒木を見付けた。直径が二メートルほども有る巨木で根元付近に大きな穴が空いていた。

「あれ宝箱じゃない」

 薫が木に空いた穴の中に宝箱らしきものを発見する。ティッシュペーパーの箱を二つ重ねたほどの白い宝箱だった。ミミックは歳を重ねる毎に大きくなるので、この大きさだと若いミミックのようだ。

「生きてるのかな?」

 薫が俺に尋ねる。俺は首を捻り、竜爪鉈を抜いて宝箱に近付く。後二〇センチほどで手が届くという時、ガサッと音がし、宝箱が俺に襲いかかった。


「ミミックだ!」

 このセリフは一度言ってみたかった。竜爪鉈でミミックに斬り付ける。宝箱のような表面に深い傷ができ体液がこぼれ始める。最後は伊丹が剣を突き出し止めを差した。

「予想はしてても心臓に悪いよ」

 薫がブツブツ言っている。俺も同感だ。ミリアとルキも目を丸くしている。

 その後、ミミックを解体する。中には金の指輪とちょっと青みがかった銀色の金属板が入っていた。金属板ははがき大で、神紋術式のようなものが刻まれていた。


「この金属板は何でござる?」

「何かの魔道具じゃないの」

「いや、魔道具にしては魔力が全く感じられない」


 ミミックの討伐で本日の探索終了となった。迷宮の外に出るとまだ日は高く、昼を少し過ぎた頃だろう。ギルドに戻り、謎の金属板以外を精算すると金貨二枚程になった。ミリアには銀貨一枚を支払う。

 謎の金属板は正体が判明するまで保管しようと思う。刻まれている神紋術式みたいなものも調査したいと思うが、今は時間がない。



 その後、カリス工房へ行きパチンコの製作依頼をする。ミリアとルキのものだ。魔導ゴムは今日採取した舌肉から皮を剥ぎ鞣して使うよう頼んだ。

「変なものを頼みやがるな。本当にそれが武器になるのか?」

 カリス親方が不審に思っているのは分かった。試しに俺のパチンコを貸して使って貰った。カリス親方は『魔力発移の神紋』を持っているのでパチンコを使えるのだ。

「『魔力発移の神紋』を持っている人なんて初めて見たよ」

「ああ、昔、強化剣の研究をしたんで必要になったのさ」

 俺が鉛玉を渡すとパチンコにセットし七メートルほど先の樹の幹を狙う。『バチッ!』鉛玉が樹に減り込んだ。

「ふぅ~ん、結構威力が有るもんだな」

「そうでしょ」

 薫が物欲しそうな顔をしているが、魔法があるから要らないと思う。伊丹さんは……ん……あの顔は武士にパチンコは似合わないとか考えているな。


「それじゃあよろしく。……アッ、そうだ。舌肉は美味しいから食べて下さい」

「エッ、あんなのが美味いのか」

「ウェルデア市では、名物になってますよ」

「……そうか、試してみるか」


 次の日も第六階層に潜る。本日のターゲットは小刀甲虫のカブトムシ種だ。この魔昆虫は樹海にはたくさん居るが、迷宮では珍しい。確実に遭遇するのは、この階層ぐらいしか知られていない。

 迷宮の森林中心部へ進む。樹海の小刀甲虫は、てんとう虫種やタマムシ種がほとんどだが、迷宮の小刀甲虫はカブトムシ種が多い。


 暫く進んだ所で、直径一メートルほどのガルガスに似た樹が生い茂っている場所に出た。鎧豚の森に生えていたガルガス樹は、大剣甲虫が住処としていた。ここではカブトムシ種が住み着いているようだ。頭上からブーンという音がする。


 俺たちに気付いたデカい虫が、頭に生えている刀角を振りかざし襲って来た。体長七〇センチほどの黒い外殻に覆われた体で、半透明な羽を高速で羽ばたいて翔んでいる。形状はカブト虫に似ていた。

 薫の<風刃ブリーズブレード>が翔んでいる虫を地面に叩き落とした。伊丹が駆け寄り腹を蹴り上げ仰向けにして突きを放つ。正確に頭に突き刺さった剣は、魔昆虫の命脈を断った。


「角は、小刀というより脇差しだな」

「ミコトさんは、この角でミリアたちの武器を作るつもり?」

 薫が尋ねると、ミリアが驚いた。

「エッ、私たちの武器でしゅか?」

「パワーの無い猫人族には、こういう刃物の方が向いてると思うんだ」

 カブトムシ種から魔晶管、羽、刀角を剥ぎ取った。羽は建築材料として売れる。窓ガラスの代わりに使われるのだ。外殻も鎧の素材となるのだが、俺たちが持ち帰るほどの価値はない。こういう取捨選択の能力がハンターには必須なのだ。


 それから七匹のカブトムシ種を倒し、合計八本の刀角を手に入れた。終点である階段近くまで行き、俺一人で偵察に向かう。階段付近にはホブゴブリンが巣食っていると情報に有ったからだ。

 木陰を利用しながら静かに進み、階段が視認出来る位置まで来た時、探していた相手を見付けた。情報通りホブゴブリンが居た。濃い緑色をした鬼だった。頭に五センチほどの角が有り、ガッチリとした体格をしている。装備は革鎧と剣を持つ奴が多いが、二匹だけローブを着ている奴が居る。


 通常のホブゴブリンが七匹、メイジらしい個体が二匹。厄介な相手だった。その時馴染みのある魔力を感知した。メイジの一人が顔を上げ、俺の方を指差して叫んだ。ホブゴブリンが一斉に動き出す。

「ヤバイ! 逃げなきゃ」

 俺は必死で逃げ、何とか巻くのに成功した。


 薫たちの所に戻ると状況を説明する。

「そうすると、奇襲は難しのでござるな」

「ああ、あの二匹のメイジどちらかが<魔力感知>の使い手らしい」

「何か作戦を考えないと第六階層の攻略は難しいのね」

「もう少し人数が居れば力押しで攻略可能なんだけど、今更だしな」

「ここは宿に帰ってゆっくり考えるでござる」

「賛成ぃ~、昨日今日連日の迷宮で少し疲れた。こんな時、甘いモノが有れば幸せなんだけど」


 この異世界にも甘いお菓子は存在する。希少品だが砂糖も有るのでビスケットのようなお菓子や栗や甘藷サツマイモのような樹の実や芋も店で売っている。しかし、洗練されたスウィーツはほとんど無かった。貴族や王族の食卓に行けば有るのかもしれないが、俺は知らない。

 何だか俺も甘いモノが食べたくなった。伊丹さんは甘いモノより酒に興味が有るみたいだが、未成年の俺は断然お菓子の方がいい。


 この異世界に居ると、無性にハンバーガーやお好み焼き、ラーメンに炭酸飲料が欲しくなる時がある。ホームシックなのかもと思う。ファンタジー小説で、料理スキルを持つ主人公が、リアルワールドの料理を異世界で再現する場面が出て来るが、生憎、俺に料理スキルは無い。

 チラッと薫の方を見る。薫が料理をした記憶は無いので、無理だろう。


 取り敢えず、迷宮を出てギルドに戻り精算する。カブトムシ種の刀角以外を全部売ったが、銅貨数十枚にしかならなかった。

 カリス工房へ行き親方にホーンスピアの製作を依頼する。カブトムシ種の刀角は、長さ三〇センチほどなのでグレイブというより槍に近い。カリス親方が刀角を受け取る代わりに、完成したパチンコ二個を俺に渡した。

「オッ、もう出来たのか。さすが仕事が早いな」

「こんなもん片手間でチョチョイのチョイよ」

 褒められて嬉しそうな親方が、変な照れ方をしている。……正直思った。禿頭のオッさんが照れても可愛くない。


 俺はパチンコをミリアとルキに渡し、親方に工房の裏庭を練習に使わせてくれるよう頼んだ。親方の了承が取れたので、パチンコ球ほどの小石を拾い集めてから裏庭に行く。

「二人共、俺がパチンコを使ってるのを見た事あるだろ。パチンコは強力な武器になるから人には絶対向けるなよ」

 それから練習を始める。まずは魔力を制御し、体の中心から肩・腕・手・パチンコへと魔力を導かねばならない。やはり最初は苦労する。

「ミコト様、上手く魔力がにゃがれません」

「手からパチンコへ魔力を流す時は、少し圧力を掛けるんだ。魔力を押し出すように」

「ルキ、よくわかりゃにゃい」

 ミリアは二時間ほどの練習で、パチンコを撃てるようになった。ルキはもう少し練習が必要なようで今日は時間切れとなる。


2017/10/13 修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ