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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第9章 月下の光芒編
233/240

scene:230 転移門と受信装置

 円盤状の転移門にはヒビが入り、完全に壊れている。

 俺は転移門の金属盤に刻まれている太陽のようなマークに魔力を流し込んだ。ここに魔力を流し込めば、金属盤と地下にあるアウルター源導管が分離するはずである。

 何の前触れもなく、金属盤が回転しながら上に上昇し、カチリと音を発した。取り外せるようになった金属盤を伊丹さんと二人で外して、床に逆さまにして置く。

 金属盤の裏側には神意文字と神印紋がびっしりと刻まれている。だが、記憶しているエヴァソン遺跡の転移門のものとは何か違うような気がした。

 ここの次元転移陣の方が刻まれている神意文字と神印紋が少ないように感じたのだ。


「この次元転移陣は何かが省略されているのか?」

 伊丹さんが首を捻り。

「ここの転移門は、他の転移門より古いような気がするのでござる」

「ここのは型式が古いのかもしれないな」

 次元転移陣は多くの研究者が調査研究している。だが、中々研究は進んでおらず、一番研究が進んでいるマナ研開発でも四割ほどを解明したに過ぎない。その四割を元に転移門初期化装置を開発出来たのは、手本となるオークの装置が有ったからだ。


「これを修復するのは、可能でござるか?」

「……難しいかな。ヒビが裏面にまで達している」

「もう一つの転移門が手に入るのかと期待したのでござるが、無価値でござるか」

「いや、この次元転移陣は調べる価値が有ると思う。エヴァソン遺跡の転移門と何処がどう違うか調べれば、何か判るかもしれない」

「ふむ、そんなものでござるか」

 俺は<記憶眼>を使って次元転移陣を記憶する。俺の『魔導眼の神紋』は、薫から教わり『魔導数理眼の神紋』に改造していた。その御蔭かもしれないが、その応用魔法である<記憶眼>は以前以上に強力なものになっていた。

 短時間で次元転移陣を記憶した俺は、地下室の調査を始めた。伊丹さんは時計回りに、俺は逆回りに調べる。地下室は約三〇メートル四方の広さが有り、何かの残骸が床に散らばっていた。その残骸の正体はもはや調べようがない。それほどボロボロだった。


「ミコト殿、そちらに何かござったか?」

「いや……ん……これは。伊丹さん、ちょっと」

 壁に地図のようなものが描かれているのに気付いた。風化して色が薄くなっている。<冷光>の魔法を使って明るい光で地図を照らした。

「何の地図でござろうか?」

「これはオークが住処にしている瘴霧の森じゃないか」

 その地図によると、瘴霧の森と戦争蟻の巣である蟻塚山脈の間に、神意文字で中央塔と書かれた施設があったらしい。戦争蟻の巣の近くに重要な施設を建設するなど考えられないので、戦争蟻の巣が作られる前に建設されたものだろう。


「中央塔……アメリカが発見したクラダダ要塞遺跡のようなものでござろうか?」

「あそこよりも古いんじゃないかな」

 古いという事は中身が風化し、価値のあるものが無くなっている可能性が高い。しかも蟻塚山脈の近くでは危険過ぎて探索にも行けない。


 結局、地下室で発見したものの中で役に立ちそうなのは、壊れた転移門だけだった。地上に戻った俺たちは、目的であるブラッドユニコーンを探し始める。

 <魔力感知>には幾つか反応が有るのだが、その中のどれがブラッドユニコーンか不明だ。

 取り敢えず直感で選んで近付く。俺が選んだ奴は、トロールだった。身長三メートルを超える巨体、片手には丸太を削って作ったような棍棒を持っている。

「俺が仕留めます」

 俺が選んだ獲物なので、自分で仕留める事にした。

 絶烈鉈を取り出し、魔力を流し込む。形成された絶烈刃を上段に構えたまま近付く。トロールが棍棒を振り下ろしてきた。サイドステップして躱す。大きな棍棒が身体の横を風を巻き起こしながら通り過ぎ、地面を叩いた。

 ドカッという凄まじい音がして、地面の土が爆発したように四方に飛び散る。


 俺は飛び上がってトロールの首に絶烈刃を滑り込ませる。絶烈刃は大根でも切るようにスパンと首を刎ね飛ばした。

「お見事!」

 伊丹さんの言葉に頭を下げて応える。

 俺たちはトロールから高く売れそうな部位を剥ぎ取り、次の獲物を探す。次は伊丹さんが選んだ。

「トロールの次は、雷竜か」

 伊丹さんが選んだのは、トリケラトプスのような頭に二本の角を持つ四足歩行の恐竜だった。但し、角の先から放電しているので、魔物である。

 伊丹さんは魔導バッグから絶牙槍を取り出し構える。

 瞬殺だった。雷竜は二本の角を切られ、首が皮一枚で繋がっている状態になっている。伊丹さんが滑るように近付き、絶牙槍が消えたように見えた次の瞬間、そうなっていたのだ。

「改めて思うけど、伊丹さんが味方で良かった」


 迷宮帝国と呼ばれる迷宮は、他の迷宮より魔物の密度が濃いようだ。ブラッドユニコーンを発見する前に、トロール、雷竜、独角竜、首長黒竜と続けざまに魔物と遭遇する。

 やっとブラッドユニコーンと遭遇した時、俺と伊丹さんは少し疲れていた。

「やっと、ブラッドユニコーンか」

 真っ赤な毛並みに竜のような顔、馬と言うより麒麟に近い感じの魔物だった。

 俺たちを見たブラッドユニコーンが身を引いた。俺達の身体には、それまでに殺した魔物の血の臭いが染み付いていたようだ。その臭いを嗅ぎ付け、逃げ出そうとしている。

「ここで逃してなるものか」

「まったくでござる」

 俺たちは血に飢えた獣のようにブラッドユニコーンに襲い掛かった。


 斬撃が舞い、刺突が肉を貫く。ブラッドユニコーンも瞬殺だった。

 俺たちは目的の角を手に入れ、引き返した。迷宮帝国は予想していた以上にハードなようだ。ナイト級区画で、これほど疲れるのなら、ビショップ級区画に行けば返り討ちに遭うかも。俺たちにそう思わせるほど、魔物の密度が濃かった。

「この迷宮を探索するのなら、気配を消し、魔物に見付からないようにする技術が必要なようでござる」

「そうですね。ちょっと疲れたので、早く帰りましょう」

 俺たちは急いで帰り、迷宮都市に戻った。


 趙悠館に戻る途中、アマンダとキャッツハンドのメンバーに道で出会う。狩りから戻って来た所らしい。

「ミコトお兄ちゃんだ」

 ルキがトコトコと駆けて来て、俺の足に抱きついた。

「ルキね。ホブゴブリン、倒したんだ。すごいでしょ」

 ルキの年齢で、ポーン級上位のホブゴブリンを倒すのは凄い。伊丹さんが鍛えた成果が出たのだろう。

 俺がルキを褒めるとルキは嬉しそうに笑う。

「伊丹師匠たちは、何処に行っていたんです?」

 アマンダが尋ねた。

「迷宮帝国でござる」

「この辺では一番難易度が高い迷宮ですよね。どうでした?」

「魔物の密度が濃いようでござる。そなたたちはもう少し勇者の迷宮で修行してからでないと、ポーン級区画でさえ危ないかもしれん」

 ミリアたちも迷宮帝国の話を聞きたがったので、俺と伊丹さんは遭遇した魔物たちについて語りながら、趙悠館に向かう。


 趙悠館に戻った俺は、集めた材料を使って魔導反応金属の製作を始めた。材料の一つであるブラッドユニコーンの角を粉末にして、他の銀などの材料と混ぜたものを簡易炉で溶かす。

 そこに<触媒反応>の魔法を掛け、魔導反応金属を作り上げた。

 炉から出した合金を型に注ぎ入れて冷やす。魔導反応金属の色は乳白色である。

 魔導反応金属を使った表示装置は、魔導反応金属を金箔ほどではないが、薄く伸ばしたものを小さな四角い点に切り分け、ドットマトリクスのように魔力伝導板の上に並べ、神意回路技術により魔力の流れを制御する事で文字を表示させると御手洗教授が言っていた。

 俺の理解力の範囲を越えていたので詳しくは聞かなかった。


 俺たちが始めた高速空巡艇の開発は、イギリス・アメリカ・フランスが参加を表明し規模が大きくなっていた。

 まだ日本が主導権を持っているが、アメリカは多額の資金や多数の人材を投入し、開発計画を乗っ取りそうな勢いである。

 そんな中で、俺たちはグレーアウルを少しずつ改良する事で開発を進めていた。今回の表示装置もその一つである。

 アメリカとフランスは独自の高出力推進装置を開発しているそうだ。御手洗教授たちも新たな推進装置を開発している。但し、その推進装置はより速くではなく、燃費を改良する方向で開発が進められている。


 グレーアウルの同型機が製作され、アメリカに販売された。アメリカはデヨン大南洋に存在する島を探し、そこを中継基地とする事で、アメリカ本国の転移門から行ける異世界の国までの飛行航路を開拓しようとしているようだ。

 その試みは将来成功する。アメリカはデヨン大南洋に五つの島と二つの諸島を発見し、南東の大陸への飛行航路を発見するのだ。

 アメリカの動きを見たイギリスとフランスもグレーアウルの同型機を購入し、飛行航路の開拓に乗り出した。この二国は港湾都市モントハルに広い屋敷を買い、飛行場の代わりとしているようだ。

 イギリスとフランスは大陸の沿岸沿いに北上し共同で飛行航路を開拓する予定らしい。

 飛行航路を開拓した後は、俺たちから、浮揚タンクと魔導推進器、魔力供給装置を購入し、独自の高速空巡艇を開発しようと考えているようだ。

 その為だろうか。最優秀な人材を日本の開発チームの下へ送り込み、日本の持つ技術を学び取ろうとしている。


 俺がJTG支部で事務仕事をしていた時、薫から連絡があった。

 仕事を終えてから、マナ研開発に行く。そこには薫が待ち構えていた。

「迷宮帝国の地下室で発見した転移門だけど、大変なものだった」

「特別な転移門だったのか?」

「特別と言えば、特別かな」

 薫の微妙な返事に、俺は説明を求めた。

「あの転移門は、私たちが使っている転移門より、二世代くらい古いものだった」

 薫の話によると、世代の違う転移門を比較する事で、新たに判明した事が有るらしい。転移門としての機能はほとんど違いはなかったが、新しい転移門には魔力波の受信装置が組み込まれていたそうだ。


「それが重要なのか?」

 俺の疑問に、鼻息を荒くした薫が声高に言い放った。

「突然、転移門が一斉に起動したのは、『起動せよ』という魔力波の信号を、その受信装置が受信したからじゃないかと思うのよ」

「何だってー!」

 薫の推測に驚いた。そして、気になる疑問が浮かぶ。

 誰が『起動せよ』という魔力波の信号を送ったかだ。


「信号を送ったのは誰だと思う?」

「何処かの国が、信号の送信施設を発見し、信号を送ったんじゃないかと思うんだけど」

「送信施設?」

「世界全体の転移門に信号を送るには、規模の大きな送信施設が必要よ」

「なるほど、何処に……」

 そう考えた時、地下室の壁にあった地図を思い出した。

「中央塔か」

 薫が首を傾げる。

「何それ?」

 俺は地下室にあった地図の事を薫に話す。


「ふーん、蟻塚山脈の近くにね。可能性としては有りだけど、そんな場所に近付ける人なんて居るの?」

 蟻塚山脈には何万という戦争蟻が巣食っている。そんな場所に近付けば、間違いなく全ての戦争蟻が襲って来るだろう。誰だろうと生きて帰れる者は居ない。

「俺たちでも難しいな。中央塔に入るだけならグレーアウルを使えば可能だけど。戻れるかどうか」

 誰かが中央塔に入れば、それに気付いた戦争蟻が中央塔に入って来るのは予想出来る。もしかすると、塔の中も戦争蟻の巣になっている可能性もある。


「オークという可能性は?」

 俺は顔を顰めた。魔力波の信号を送信したのがオークだった場合、最悪だ。全ての転移門に干渉する方法をオークが持っているという事になる。

「その受信装置を無効化する方法はある?」

「簡単よ。アンテナ部分を切断すればいい」

「転移門の機能に障害は?」

「受信装置は独立しているから大丈夫」

「俺たちが管理している転移門は、アンテナ部分を処理するか」

「私も、その方がいいと思う」


「上に報告するべきだろうか?」

「政府にという事」

「そうだ」

 薫が深く考え込んだ後。

「もしかすると、人命に関わる発見かもしれない」

「そうか、政府に報告しよう」

 俺たちはマナ研開発の研究成果の一つとして政府に報告する事にした。


 話が終わった俺と薫は、夕食を一緒に食べようと外に出た。

 日は沈み、外は暗くなっている。

「何が食べたい?」

「そうね。洋食より和食っていう気分かな」

「じゃあ、寿司屋。それとも寒くなったから鍋とか」

「お魚が食べたいから、寿司屋にしましょう」

 俺は寿司屋に向かう途中、誰かが付けているのに気付いた。


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