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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第9章 月下の光芒編
229/240

scene:226 制圧チーム

 グレーアウルに搭乗した俺たちは、ミズール大真国の米軍駐屯地を目指して飛ぶ。

 途中、クレボ峡谷へ進路を取る。

「ミコトさん、クレボ峡谷にはワイバーンが居るって聞いたんですけど」

 クロエの質問に、俺は頷き。

「その通り。クロエの為にワイバーンを狩る事にしたんだ」


 クロエの修行は新しい段階に入っていた。ボイストレーニングを続けた効果が出て来ており、増えた声量をコントロールしパワフルな歌い方も出来るようになっている。それにボイストレーナーの佐々木から厳しい指導を受け、ファルセットやビブラートなどの技術も進歩していた。

 次の段階は声に魔力を乗せる修行だ。

 俺が異世界に来てハンターを始めた頃、聞きかじった剣の奥義をアレンジして練習した事がある。魔力を込めた気合で相手を威圧し、その隙をついて倒すというものだ。

 日本に帰って古武術の香月師匠に確かめると、そんなものは奥義じゃないと言われた。そんな気合で隙を作るのは素人だけだと言うのだ。

 こうして奥義だと思っていた技は、俺の黒歴史の一部となった。


 しかし、練習した声に魔力を乗せるという技術も無駄ではなかった。その技術をクロエが必要としていたからだ。

 それは何故か。クロエは時々ゾクリと来るようなハスキーボイスを発する瞬間がある。そのハスキーボイスを調べた結果、声に魔力が乗った時にハスキーボイスが出る事が判明する。

 クロエはそのハスキーボイスを出す修行を始めたのだが、修行するには魔力量が足りないと判り、伊丹さんと俺に相談した。

 俺と伊丹さんは一緒になって検討し、今回の依頼の途中にクレボ峡谷に寄りワイバーンを倒して、クロエに大量の魔粒子を浴びて貰おうという話になったのだ。


 グレーアウルがクレボ峡谷に到着し、ワイバーンの姿を探して飛翔する。

 アカネさんと薫と来た時に、大量のワイバーンを仕留めたので、まだ居るのかと心配したが、まだまだワイバーンは居るようだ。

 操縦していた伊丹さんが、五匹のワイバーンの群れを発見。

 俺たちは岩場の間に在る草地に急いでグレーアウルを着陸させ、ワイバーンを迎え撃つ為に外へ出る。


 俺は絶烈鉈、伊丹さんは絶牙槍を取り出し構える。

「ミコト殿、油断なきように」

「心配無用!」

 俺と伊丹さんは落ち着いていた。しかし、クロエは怯えた目で迫って来るワイバーンの群れを見ている。

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

 クロエの心配そうな声に、伊丹さんが。

「我らにとって、ワイバーンなど雑魚でござる」

「そ、そうなんですか。頑張って下さい」

 絶烈鉈に魔力を流し込み絶烈刃を形成すると、ワイバーンを睨む。獲物が来たと喜ぶワイバーンの群れが一斉に襲い掛かって来た。

 絶烈刃が閃きワイバーンを切り裂く。俺と伊丹さんはほとんど一瞬でワイバーンを仕留め、その死骸を積み重ねる。


 クロエは少し下がった位置で見守っていたが、凶悪なワイバーンを俺たちが瞬殺したので、目を丸くしている。

「クロエ、こちらに来て」

 俺がクロエを死骸となったワイバーンの近くに呼んだ。

 クロエがワイバーンの近くまで来た途端、魔粒子が放たれ始める。濃厚な魔粒子はクロエの身体に吸い込まれ、身体中のあらゆる筋肉細胞を一定の割合で魔導細胞に変換していく。

 クロエは身体中が熱を持ち力が溢れ出すような感覚と共に息苦しさを感じているはずだ。

 突然、クロエがバタリと倒れた。

「大丈夫でござるか?」

 伊丹さんがクロエを抱える。

 魔粒子の放出が止み、伊丹さんはクロエを抱いてグレーアウルへ運び入れた。

 俺はワイバーンの死骸から爪と皮を剥ぎ取る。慣れたもので、一時間もしない間に全部のワイバーンから剥ぎ取りを完了させる。


 俺がグレーアウルに戻ると、クロエが目を覚ましていた。

「迷惑掛けたみたいで、済みません」

「いや、誰でもああなるんだから、気にしなくていい」

「そうでござる」

 伊丹さんがクロエの体調を確認する。問題ないようだ。

 ワイバーン五匹分の魔粒子を吸収したクロエの身体は、魔導細胞が相当増えているはずだ。同時に使える魔力量も増えたはずなので、ハスキーボイスを出す修行が進むだろう。


 ミズール大真国の米軍駐屯地に到着し、制圧チームを乗せた。

「皆、ごつい奴らばかりでござるな」

 総勢七人の制圧チームは、元アメリカ海軍特殊部隊の隊員だったらしい。

 ツルツル頭の大男がチームリーダーだ。その男は俺を完全に無視して、伊丹さんに手を差し伸べ。

「私はロバート・スミス、制圧チームのリーダーをしている」

 伊丹さんは差し伸べられた手を握り。

「伊丹でござる。こちらが案内人のミコト殿です」

 ロバートは意外だという顔をする。

「失礼。若過ぎるので勘違いした」

 どうせ見習いか何かと勘違いしたのだろう。


 制圧チームは鎧などの防具と魔導武器を持ち込んでいた。それだけではなく魔法薬と野営装備も持ち込んでいる。

 鎧は抓裂竜の革を使ったもので、魔導武器は俺たちが売った簡易魔導核を元に作製したもののようだ。

「飛行予定はどうなっている?」

 ロバートが確認する。

 俺たちもミズール大真国の米軍駐屯地から西へ行った事がないので、中国やバングラデシュから仕入れた情報を元に大体の飛行経路を設定している。

 大まかな飛行経路は先に伝えてあるので、もう少し詳しい経路が知りたいのだろう。しかし、俺たちも詳しい経路は決めていなかった。

「ここから西は、俺たちにとって未知の領域なんです。少ない情報を元に飛行経路を設定しましたが、実際は飛びながら飛行経路を決める事になるでしょう」


 俺と伊丹さんで交代で操縦しながらグレーアウルを飛ばし、夕方近くになってイスタール帝国とボルデル王国との国境付近まで辿り着き、国境手前の草原に着陸した。

「本日は、ここで野営でござる」

 伊丹さんがロバートに告げた。

「ここはどの辺りなんだ?」

「イスタール帝国の端。もう少しでボルデル王国に入る所でござる」

「明日の昼頃には、砦に到着出来るか。よし……野営の準備をするぞ」

 制圧チームはテキパキと野営の準備を始めた。


 俺と伊丹さんもテントと寝袋を取り出し野営の準備をする。クロエだけはグレーアウルの中で寝る予定だ。

 その夜、一匹の斑熊が野営地に迷い込み、制圧チームによって手際よく仕留められた。

「結構やるようでござるな」

「そうですね。砦に待ち構えている犯罪者程度なら、大丈夫なようです」

 制圧チームが戦う様子を見ていた俺と伊丹さんは、感想を言い合う。


 翌朝、簡単な食事をした俺たちは、ボルデル王国に向け出発した。

 目的の砦はボルデル王国の北部に位置する場所に存在する。元々は隣国との境だったのだが、その隣国が竜の襲撃で滅び、砦だけがポツリと残されたのだ。

 もちろん、必要のなくなった砦は廃止され、砦を守っていた兵士は居なくなった。

 その砦にいつの間にか一癖ある者たちが集まり、水滸伝に出て来る梁山泊のような場所になったのだ。但し、梁山泊のように豪傑や軍師が集まっている訳ではない。

 そこらの小悪党や野盗が集まり暮らすようになったのだ。それが最近になって変わった。外国人だと分かる奴らが、その砦を乗っ取り小悪党や野盗を組織化した。


 俺たちが、その砦を発見したのは昼を少し過ぎた頃の事だ。

 アメリカ軍から知らされていた地形と一致する場所を探し当て、砦を発見する。グレーアウルはリアルワールドの飛行機ほど騒音を出さないので、砦の人間には気付かれなかったようだ。

 グレーアウルは砦から四キロほど離れた森の中の空き地に着陸させる。

「装備を着けろ。魔法薬を忘れるな」

 制圧チームが出発する準備を始めた。これから出発し偵察などを行って、十分に調査し最終的に制圧するらしい。

 その間、俺たちはここに三日ほど待機する事になる。


 制圧チームが出発した後、伊丹さんがクロエを連れて狩りに出掛けた。

 俺は残ってグレーアウルの見張り番である。

「暇だな。何か魔物でも現れないかな」

 何だか物騒な事を言っていると、魔物以上に厄介な奴が来た。

 デビルスカンクだ。中型犬ほどの大きさで黒毛の中に一筋の真っ赤な毛が生えている。

「ヤバイ、何でこいつが来るんだ」

 このデビルスカンク、リアルワールドのスカンクと同じで強烈な悪臭を発する分泌液を噴出して敵を攻撃する。


 こいつは野生動物で魔物ではない。だが、魔物以上に恐れられている。

 デビルスカンクが俺を見て唸り声を上げた。

「何で唸ってんだ。お前には何もしていないだろ」

 魔物は問答無用で殺すが、野生動物は食べる目的以外では殺さないと決めていた。

 異世界は野生動物が貴重なのだ。魔物が蔓延はびこる世界では野生動物が生きていける場所は多くない。但し、このデビルスカンクだけは例外で、魔物もこいつにだけには手を出さない。


「こいつの分泌液は、リアルワールドのスカンクより強烈だという話だからな。関わり合いたくないんだけど、何で? ……まさか」

 俺は怒っているらしいデビルスカンクを見てから、グレーアウルが着陸した場所を確認した。

「……巣穴がある」

 どうやらデビルスカンクの巣穴の上にグレーアウルが着陸したようだ。

「移動する。移動するから、ちょっと待て」

 俺は慌ててグレーアウルに乗り込み、機体を少し離れた場所に移動させた。

 グレーアウルが移動したので、デビルスカンクは巣穴の中に消えた。


 一方、制圧チームは砦が見える地点まで辿り着く。

「特に変わった動きはありません」

 部下の報告にロバートが頷いた。

「出入り口を確認したか?」

「南東の狭い坂道と北側にある階段だけのようです」

「見張りはどうだ?」

「どちらも三人の見張りが居ます」


 以前から砦を調べていたアメリカ軍は、三〇人ほどの男たちが生活しているのを突き止めていた。

 制圧チームは夜中に南東の狭い坂道を登り、砦の門近くまで到達。石造りの防壁内部に櫓があり、そこに三人の見張り番が居る。

 制圧チームの三人が音を立てないようにして近付き、魔力の衝撃波を出す魔導武器を使って見張り番の三人を仕留めた。

 砦の内部に潜入する事に成功した制圧チームは、元兵舎だったらしい建物に忍び寄り内部を探る。この中に目的の国友信行が寝ている可能性が一番高い。


 兵舎の扉をロバートが開け中に入った。月明かりも入らない兵舎の中は真っ暗で何も見えない。制圧チームのメンバーは懐中電灯のような魔道具をそれぞれが取り出し使う。

 一階には大きな食堂みたいな区画と部屋が四部屋あった。

 その部屋の一つから気配がして男が一人出て来た。トイレにでも行こうとしているのか眠そうな顔でふらふらと廊下を歩き出す。

 ロバートが部下の一人に合図する。その部下は背後から男に近付き、口を押さえると胸にナイフを突き立てた。

 小さな呻き声を出した男は廊下に倒れる。

 チームは部屋の一つ一つを制圧していった。一階全ての部屋で寝ていた男たちを始末したが、その中に国友信行は居なかった。


 二階に上がり部屋数を確認すると九部屋ある。ロバートたちは一部屋ずつ制圧する事にした。二つ目の部屋に入った時、その気配に気付き。

「誰だ!」

 寝ていた男が声を上げた。

 その後は起きてきた砦の住人たちと制圧チームとの乱戦となる。

「殺せ、殺せ!」

「一人も生かして帰すな!」

 野盗らしい男たちが口々に叫び、制圧チームを襲う。

 装備を着けていない男たちと制圧チームでは、勝負にならなかった。制圧チームは敵わないと知り逃げようとする男たちを仕留める。


「クニトモだ!」

 ロバートの部下が国友を発見し声を上げた。

 アジア人らしい初老の男が怯えた顔をして逃げようとしている。ロバートは襲い掛かり国友信行を捕らえた。

 後で尋問する為に国友を縛り上げる。ロバートたちは国友を捕らえ、奪い取られた魔導兵器の情報が何処に有るのか聞き出すように命じられていた。

 その時、制圧チームの一人が奇襲を受け顔面を陥没させ廊下に倒れた。

「トーマス!」

 ロバートが部下の名前を叫ぶ。新たに現れた敵は三〇代の中国人らしい男だ。


「チッ、アメリカ人か。クニトモを追って来たんだな」

 この男、中国人の荒武者で名をウェン・ハオランという。

 元々中国マフィアの一員で異世界を金儲けに利用する為に、組織が養成した荒武者だった。ウェンは仲間と共に三つ首竜に挑み倒している。

 この男は正真正銘の竜殺しなのだ。

 ウェンは制圧チームに襲い掛かり一人また一人と倒していく。

「撤退だ!」

 ロバートが状況を判断して命じ、国友を担ぎ上げると撤退を開始した。砦を抜け出した時、制圧チームは三人に減っていた。

「隊長、撤退して下さい。我々が奴を抑えます」

 部下の二人が殿しんがりとして残ると言い出し、ロバートは唇を噛み締め許可を出す。


 夜明け頃、ロバートは国友を引き摺るようにして、グレーアウルが着陸している場所へ戻って来た。



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