scene:214 R再生薬と中国製若返り薬
感想や評価を頂きました。
ありがとうございます。
二人の王子とムアトル公爵の死は、カザイル王国とマウセリア王国の間に緊張感を作り出した。
カザイル王国では、ムアトル公爵を殺した犯人探しが懸命に行われたのだが、犯人の痕跡すら見付からない。苛立った公爵家の人間が、マウセリア王国の人間を詳しく調べ始めたのだ。
その為、カザイル王国で不快な目にあったマウセリア王国の人間が大勢現れ、マウセリア国王へ訴えたので、国王ウラガル二世はカザイル王国に抗議した。
両国間の緊張は高まったが、結局犯人不明のまま犯人探しは終わる。
戦争を終えたばかりで国力に不安があるマウセリア王国は、カザイル王国との関係を修復する為に、クロムウィード宰相を派遣した。
それで漸く二国の関係は修復され、元の状態に戻った。
クロムウィード宰相が不在の間に、マウセリア王国で王子たちの葬儀が大々的に行われた。王子たちが死んだ原因は、競い合った二つの空巡艇が接触事故を起こし墜落したと発表される。
王子同士が殺し合ったと発表出来るものではなかったのだ。
この発表は国民の間で納得された。あの二人の王子なら、ありそうな事だと思われたようだ。
王家に残った男児は、第三王子のシュマルディンと第四王子のコンデリットとなり、二人のどちらかが王位を継ぐ事となる。
ただコンデリット王子はまだ幼いので、シュマルディン王子が王位継承者だと思われ始め、多くの貴族たちが第三王子派に擦り寄り始めた。
シュマルディン王子と親しく付き合っている俺にも注目する貴族が現れ、王都へ行くとお茶会などに誘われる事が多くなった。
王子たちの葬儀が終わり、騒ぎが静まった頃。
俺はR再生薬の件が進んでいるか確かめる為に日本に戻った。
日本に戻った俺は、カザイル王国での出来事を報告書に纏め東條管理官に提出。
その報告書を斜め読みした東條管理官は、王子たちの死よりグレーアウルの完成と試験飛行の成功を重要視した。
「アメリカから、異世界で長距離飛行が可能な魔導飛行船が早く欲しいと要望が出ているのだ」
マウセリア王国とカザイル王国が戦争になるような事はないと判明したので、東條管理官としてはアメリカの要望の方が気に掛かるのだろう。
「アメリカが開発していると言っていた兵器は、どれくらい開発が進んでいるか知っていますか?」
「詳しくは知らん。だが、噂では順調に開発は進んでいるらしい」
アメリカはクラダダ要塞遺跡で発見した魔導兵器に組み込まれていた補助神紋を読み取る事に成功し、その補助神紋図を記憶しアメリカ本国に持ち帰った。
『魔導眼の神紋』の応用魔法<記憶眼>を使って知識や情報をリアルワールドへ持ち帰る事は、アメリカでも盛んに行われているらしい。
そして、アメリカが組み上げた解析システムを使い、その機能を解析する事に成功したようだ。
薫の神紋術式解析システムとは違い、基本となる神意文字や神印紋の知識が不完全であるのに、解析を成功させるとは凄い技術力だと感心した。
将来、マナ研開発のライバルとなる会社が、アメリカで出現するかもしれない。
「グレーアウルの事は、政府経由でアメリカに知らせる事になるが、問題ないか?」
問題ないかと訊かれると問題ありそうな気がする。
画期的な魔導兵器を開発している国に、その運搬手段を教える事になるのだ。アメリカが覇権主義に傾けば、恐ろしい結果を招きそうだ。
その危惧を東條管理官に伝えた。
「それはアメリカに限った事じゃない。科学技術を使って兵器を作り、異世界の国家を侵略しようと考える国が出て来ないとも限らんからな」
東條管理官の答えを聞いて、陰鬱な気分になった。
冷静に考えてみると、転移門に制限がなければ、確実に異世界で覇を称えようと考える国が出たはずだ。転移門の制限が有る御蔭で、そういう国が思い留まっている。
「何か怖いですね。国連とかで対策を考えていないんですか?」
「国連でも議題に上がっているらしいぞ。何らかの監視機関と抑止機構が必要なのではないかとな」
話は少し逸れたが、アメリカにグレーアウルの同型機を渡しても、渡さなくとも大した違いはないというのが、東條管理官の意見らしい。
アメリカが本気になれば、短期間でプロペラ機くらいは開発するだろうと東條管理官は断言した。
「でも、向こうの世界で石油を見た事がありませんよ」
「本格的に探していないだけじゃないのか。それに石炭や石油の代わりに、魔光石や魔粒子が有るだろ」
「確かに」
魔光石は多数の迷宮で産出される。それに黒翼衛星プロジェクトは異世界でも可能なはずだ。大量の魔粒子をエネルギー源として、産業革命も夢ではない。
「アメリカが長距離飛行が可能な魔導飛行船を欲しがるのは、オーク帝国との戦いで必要だからだ。人間同士の戦いに使う気はない」
地獄トカゲの群れをオークの奴らが送り込んで来た事件は、イギリス、フランス、中国、韓国、アメリカでも起きており、韓国とアメリカでは数多くの死者が出たらしい。
アメリカは魔物が侵入したというニュースを聞いた一般市民が銃を持って狩りに向った。日本では考えられないが、そんな国民性なのだろう。
しかし、地獄トカゲは予想以上に凶悪な存在で、毒爪で負傷した一般市民が手当てが間に合わず死亡した。
後日、日本では伊丹が治療したのを知り、そんな存在が居たのかとアメリカの医療関係者は驚く。それと同時に伊丹をアメリカに呼べば、治療も可能だったのではないかと政府は非難されたらしい。
政府非難と同時に、またオーク帝国の攻撃を受けるのではないかと不安が広まった。
アメリカ大統領は、事件の根本的原因であるオーク帝国を転移門から排除する作戦を、急ぐよう命令を出したそうだ。
韓国は日本と同じように軍が出動し、地獄トカゲを駆逐した。だが、駆逐作戦の途中で逃げ回った地獄トカゲが競輪場に逃げ込み、パニック映画のような騒ぎを引き起こし多数の死傷者を出したと聞く。
アメリカの騒ぎは日本でニュースとして報道されなかったが、韓国の騒ぎはカメラで映像を録画していた者が居て、その映像が日本のニュース番組で流された。
「伊丹が韓国に行こうかと申し出てくれたので、神代理事長が韓国の転移門管理組織に打診したら、必要ないと断られたそうだ」
「何故です?」
「さあな。韓国の医療技術で何とかなると判断したんじゃないのか」
実際は有効な解毒剤が開発されたのは、一ヶ月後である。毒に侵された犠牲者のほとんどは亡くなったらしい。
俺は気が滅入って来たので、R再生薬のオークションについて尋ねた。
「準備は進んでいる。オークション会社が世界中の金持ちに連絡し、三日後から世界各地の大都市にあるオークションハウスで競売に掛けられる手筈となっている」
一回目は、三人分ずつ一〇箇所のオークションハウスに出品される事になっていた。小分けしたのは、R再生薬の効能を信じられず、最初は高い値段が付かないのではと考えたからだ。
最初のオークションでR再生薬を購入した者が、日本政府が用意した異世界の施設でR再生薬を服用し、リアルワールドに戻って来た時に、その価値が認められるだろう。
二回目のオークションから、R再生薬が高値で落札されると俺は考えていた。
一回目のオークションが終わり、予想以上の高値で落札された。落札金額は億単位とだけ言っておこう。日本政府の保証があったからだろうか。
落札した資産家は日本へ行き、自衛隊が確保している転移門から異世界に旅立った。
日本政府が用意した転移門は、マナ研開発の転移門初期化装置を使って獲得した転移門だ。異世界側の受け入れ施設は、俺と伊丹さんが協力して作り上げた。
その施設は『神行操地の神紋』を使って作り上げたドーム型建造物を元に改造した建物で、広い空間を石壁と木材で仕切り二〇人ほどが生活可能な宿泊施設となっている。
同じ規模のドーム型建造物をもう二つ作っているのだが、そちらはドームだけで中身が何もない風雨を凌げるだけの建造物となっている。
元々自衛隊の駐屯基地として使う予定だったのだが、短期間だけR再生薬の落札者を受け入れる施設として使用する事になった。
落札者全員が異世界に転移し、R再生薬を飲みリアルワールドに戻るまで一ヶ月が必要だった。
資産家の中には主治医も連れて行けとゴネる者も居て、世話係となった厚生労働省の役人たちは大変だったようだ。
そして、落札者が二〇歳若返ってリアルワールドへ戻ると、世界中が大騒ぎとなった。
世界中の報道機関がオークションに出品されたR再生薬の情報を調べ回り、日本政府から誰が作ったものなのか聞き出そうとした。
だが、政府関係者でもR再生薬について詳しく知っている者は限られていたので、聞き出す事は出来なかった。
ただR再生薬と命名されている事から、再生薬の調合に何か工夫しているのではないかと思い付いた者が現れ、研究が始まったようだ。
因みに上級再生薬を作るのに必要な材料は、ヒュドラの魔晶管内容液・竜霜花の種・九神樹の実・竜種の血清が主要なものとなる。
竜霜花はワイバーンの群れが住む場所に咲いている花、九神樹の実は樹海に生息する妖樹の実である。どちらも手に入れるのが困難なものだ。
以前から上級再生薬を作ろうと考えていた俺は、それらがギルドに持ち込まれた時に買い取り保存していたので、R再生薬を作れたのだ。
俺と薫は二回目のオークションの結果をマナ研開発の研究室で知った。この研究室は薫専用で、薫が可愛いクッションやヌイグルミを飾っているので研究室とは思えない。
今回のオークションではR再生薬五〇人分が出品され、一回目とは桁違いの高値で落札される。
「……」
俺は届いたメールで落札金額を知り、言葉も出ないほど驚く。そんな俺を見て、薫が。
「これくらいで驚いちゃ駄目よ。たぶん三回目、四回目となるほど落札金額は高くなると思う」
オークションは四回に分けて行う計画である。
R再生薬のオークションは、マナ研開発の事業の一つとして行われた事になっている。日本政府に協力を要請した時に、そういう形式にしてくれと頼んだのだ。
個人で行った事にすると税金が凄い事になると薫が言い出したからだ。
オークションで稼いだ資金は、黒翼衛星プロジェクトに投資する。こちらの事業は急ピッチで建設予定地の造成が進んでいるが、その費用が莫大なものになっていた。
「黒翼衛星プロジェクトの進捗状況はどうなんだ?」
「順調そのもの。第一期建設予定地の造成が終わって、実証研究館の建設が始まった所よ」
実証研究館では小型の実証実験用黒翼衛星装置を作り、実際に宇宙空間を飛来する魔粒子の捕獲を行う予定になっている。
黒翼衛星プロジェクトについて話している所に、マナ研開発の若い男性研究者が来た。
「た、大変です。二人ともテレビを見て下さい。中国でも若返り薬の販売が始まったそうなんです」
「中国でだって……中国の連中もヒュドラモドキを仕留めたのか?」
薫がテレビの電源を入れた。
報道番組で中国の企業が、若返り薬の販売を始めた事を報道していた。
その企業名に聞き覚えはない。
「へえ、若返り効果は一〇歳なのか。R再生薬とは別物なんじゃないか」
「でも、嫌なタイミングで販売を始めたものね。次のオークションに影響するんじゃないの」
「中国の若返り薬はオークションじゃないんだな。販売価格は……R再生薬の落札価格と比べて滅茶苦茶安いな。若返り効果が一〇歳だとしても、一〇分の一というのは安過ぎないか」
薫が難しい顔をして。
「ねえ、オークションを延期しようか」
「どうして?」
「タイミングが不自然なのよ。私たちがR再生薬をオークションに掛けた直後に、若返り薬の販売を始めるなんて」
薫は中国の若返り薬が偽物じゃないかと疑っているようだ。
「そうだな。今オークションに掛ければ、中国の若返り薬の値段が基準となって落札されそうだな」
俺は東條管理官にも連絡し、オークションを延期するよう手配した。
R再生薬のオークションが延期になった事で、中国の若返り薬が世界中で注目された。
凄い数の資産家が若返り薬を購入した。その数は二〇〇人を完全に超え、一〇〇〇人以上となる。
東條管理官も疑い始めた。こんなに大量に若返り薬を作る為の材料をどうやって集めたのか疑問に思ったのだ。
R再生薬をオークションで落札した資産家から、こんな事なら中国の若返り薬を二回分買えば良かったと不満の声が上がった。
その声に同調する者が増え、効果を保証した日本政府にも抗議する者まで現れた。
若返り薬を飲む為に、中国の転移門から異世界へ転移した資産家が帰還する日。
俺たちは若返り薬が本物かどうか注目し、結果を待つ。
若返った資産家たちが無事に戻ったという情報がテレビニュースで流れた。
「へえ、本物だったんだ」
日本に戻っていた俺とアカネさんは、偽物騒動が起きるかと期待していたので肩透かしを食らった感じだ。
「この中国の会社は、まだまだ若返り薬の販売を続けているようね。もしかすると仙人みたいな人が、異世界で仙丹を作って販売しているのかもしれない」
アカネさんが適当な意見を口にする。
俺は少しだけ肩を落とし、R再生薬を高値で売る計画を諦めた。
それから数日が経った頃、若返り薬を販売していた会社が消えた。
やはり詐欺グループが作った会社だったらしい。若返って帰って来た資産家というのは、詐欺グループが用意した役者だったと判明した。
最後の客寄せに役者を使ったのだろう。
日本の資産家の中にも詐欺に引っ掛かった者が居たらしく、警察は何をしていたんだと騒ぎ始め、最後には代わりにR再生薬を寄越せと馬鹿な事を言う奴も現れたようだ。
警察は日本で詐欺グループの手先となって働いていた連中を逮捕し、金の流れを調査した。だが、売上金は中国へ送金された以降、何処に消えたのか分からなくなっている。
裏で大きな組織が動いているのではないかと噂が立った。
中国の若返り薬が詐欺だった事で、R再生薬も詐欺なのではないかと疑われた。
効果を保証している日本政府は、一回目と二回目の落札者を調べて判ったデータを公表し、R再生薬が偽物ではないと宣言する。
それでも世間の疑惑は払拭せず、数人分のR再生薬を使って、もう一度効果を実証する羽目となった。




