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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第7章 竜殺しの狂宴編
181/240

scene:178 竜殺しの犯罪者

 日付を数日戻し、ミコトがリーダー城島と一緒に転移した頃。

 駐屯地の司令官であるベニングス少将は目の前の人物を見て頭を抱えそうになった。少将の前に立っているのはハリウッドの近くで街のチンピラ一〇人以上を殺したマイルズ・スタンホープである。

 何故、犯罪者である彼がここに居るか。全てベニングス少将がクラダダ要塞遺跡に度々現れる竜王ワームを倒せる戦力を送れと要請したからである。

 アメリカ本国は竜王ワームを倒せる戦力と聞いて苦慮したようだ。そこで恩赦を条件にマイルズを刑務所から出しクラダダ要塞遺跡のプロジェクトに協力するよう約束させたのである。

 元々マイルズはアメリカ海軍特殊部隊の猛者で、両親が交通事故で亡くなったのを機に海軍を辞め、案内人の助手となったらしい。

 助手をしながら腕を磨き、属竜種である氷雪竜を倒すほどの実力を身に付けた。もちろん、マイルズが一人で氷雪竜を倒した訳ではない。現地で知り合ったハンターたちと一緒に倒したのだ。


 前回の調査で生き残ったアメリカの荒武者チャールズのマイルズに対する第一印象はかなりの自信家だというものだった。自分は必ず生き残り勝利を手にすると考えているようだ。

 少将の執務室にチャールズとマイルズ、オーウェン中佐が呼ばれた。

「君にはクラダダ要塞遺跡の竜王ワームを倒して貰う。それだけの実力が有ると聞いているが、間違いないね」

 マイルズは不敵な笑みを浮かべ。

「属竜種だって倒したんだ。竜王ワームくらい訳もない」

 少将はマイルズが自信有り気だったので任せようと決めた。

「それより武器と防具は揃っているのか?」

 オーウェン中佐が抓裂竜の素材から作った装備が有ると説明すると。

「ほう、そいつはいい。俺が自分で揃えなきゃならないかもしれんと心配していたんだ」

 マイルズはグレイブを使うらしい。


 少将がマイルズに尋ねた。

「竜王ワームと戦った経験は有るのかね?」

「無い。でも、高がデカイワームだろ。俺の攻撃魔法で仕留めてみせる」

 チャールズはマイルズがどんな神紋を持っているのか知らなかったが、確実に第三階梯神紋を持っていると確信した。

「処で、クラダダ要塞遺跡の調査はどこまで進んでいるんだ?」

 オーウェン中佐が顔を顰め応える。

「まだまだ最下層も完全に調査が終わっていない状況だ。……竜王ワームが遺跡内部に入って来るので安心して調査が出来んのだ」

「なるほど……地獄トカゲも居ると聞いたが」

「ああ、地獄トカゲはチャールズとビョンイクが中心となって始末した。魔導飛行バギーを使って上空から叩いたのだ」

 魔導飛行バギーと聞いてマイルズが興味を示す。

「ここには航空機が有るのか」

 チャールズがちょっと首を傾げてから。

「たぶん想像しているものとはちょっと違うと思うが、日本の案内人から購入したものが二台有る」

「ふん、日本のね。異世界で航空機を初めて開発するのはアメリカだと思っていたが、日本に遅れを取ったんだ」

 その言葉を聞いて、少将は複雑な顔をした。

「まあ、航空機の分野では遅れたが、我々はクラダダ要塞遺跡で装甲車を発見したからね。自動車に関しては一番に成れるんじゃないか」

「へえ、クラダダ要塞遺跡にはそんなものが有ったんだ。国が調査プロジェクトに力を入れる訳だ」


 翌日、マイルズは装備を支給され慣れる為に、チャールズと一緒に狩りに出掛けた。対象はぶちボアやコボルトである。

 ぶちボアに遭遇したマイルズは突進してくる魔物の前に立ち塞がり、ギリギリまで避けずに待ち寸前で飛び退きざまグレイブの刃をぶちボアの首に叩き込んだ。

 かなり危険な戦い方だったが、マイルズの顔には楽しげな表情が浮かんでいた。

 抓裂竜の爪で作られたグレイブはマイルズが思っていた以上の切れ味を示し満足した。

「このグレイブは気に入ったぜ。抓裂竜は誰が倒したんだ?」

「魔導飛行バギーを開発した案内人のミコトたちと俺だよ」

「ミコトとかいう案内人は優秀な奴らしいな」

「ああ、彼らだけで崩風竜を撃退しているからね」

 マイルズは獲物を見付けた狼のように目を輝かせた。


 数日後、オーウェン中佐とマイルズ、チャールズ、ビョンイクの四人が組んで竜王ワーム退治に向った。

 二人の兵士が操縦する魔導飛行バギーに分乗し駐屯地を離れるとクラダダ要塞遺跡へと飛ぶ。

「へえ、こいつはいいな」

 マイルズは魔導飛行バギーが気に入ったようだ。

「着陸する」

 操縦している兵士が声を上げた。遺跡の手前に在る草原に着陸した。

「もう少し遺跡の近くに着陸しろよ」

 マイルズが文句を言った。

「駄目なんですよ。崩風竜が居なくなった後、遺跡の上にワイバーンの群れが住み着いたらしくて、魔導飛行バギーで近付くと襲って来るんです」

「ハッ、崩風竜の次はワイバーンか。この遺跡はよっぽど魔物が住み易いようだな」

 それを聞いたチャールズは苦笑いを浮かべた。研究者の中には魔物を引き寄せ制御する装置のようなものが有るのではないかと疑っている者もいたのを思い出した。


 地上を移動するだけならワイバーンは襲って来ない。魔物を制御する装置が有るとしたら、まだ完全にワイバーンたちを従えられずにいるようだ。

 遺跡の中に侵入したチャールズたちは地獄トカゲと遭遇した。

「地獄トカゲは始末したんじゃなかったのかよ」

 マイルズの言葉にチャールズが応える。

「始末したのは草原にいるトカゲ共だけだ。だが、遺跡に残っている地獄トカゲは少数だと予想している」

「何故、少数だと?」

「遺跡の中には地獄トカゲの食料がない。ほとんどの奴らは草原に逃げ出したはずだ」

 オーウェン中佐以外はリアルワールドを代表する猛者たちである。少数の地獄トカゲなど容易く排除し調査を進めた。

 目的が竜王ワーム退治なので、まずは竜王ワームの進入路を確認しなければならない。

 地獄トカゲと竜王ワームが這い出て来た大きな穴が存在する倉庫に行く。


 広い倉庫の中央には巨大な穴。その周りにはスライムが這い回っていた。

「ここか……竜王ワームが出て来たって言う穴は?」

 マイルズの質問にビョンイクが頷いた。

「居るな……この奥に化け物が居るようだ」

 マイルズが嫌な笑いを浮かべ、右の手に魔力を集め始めた。その途端、周囲の空気が冷たくなった。

「ハッ」

 気合を発したマイルズの右手から大気までも凍りつくような極寒の暴風が生まれた。冷気の塊である風は穴に飛び込み、その先に居る竜王ワームにダメージを与える。

 ビョンイクは驚いた。マイルズが無詠唱で攻撃魔術<暴風氷ブリザード>を放ったのに気付いたのだ。

 だが、驚いている場合ではなかった。地面が揺れ穴の出口に向かって巨大な魔物が移動して来る気配が足元から伝わって来る。


「移動するぞ」

 マイルズが大声を上げると通路へ後退する。チャールズたちは慌てて後を追った。

 全員が懸命に通路を走る。後ろには竜王ワームが通路の壁に身体をぶつけながら迫って来る気配が感じられる。

 少しずつ遅れ始めたオーウェン中佐の背中を押しながらチャールズが毒づく。

「この野郎、相談もなしに戦いを始めやがって!」

「五月蝿えよ。死にたくなかったら走りやがれ」

 マイルズが楽しそうに言い返した。


 漸く出口に辿り着いたオーウェン中佐たちは息を荒げながら草原へと飛び出した。

 それを追って竜王ワームが出口の落ちている瓦礫を吹き飛ばしながら草原に這い出して来た。明るい場所で見る竜王ワームは白い鎧に身を包んだ巨大な芋虫のように見えた。

 マイルズが<鉄水槍アクアスピア>を放った。魔力を充填した水槍が宙を飛び巨大ワームの背中に突き刺さった。

 それを見たチャールズは、自分と同じ『水神武帝の神紋』をマイルズが所有しているのを知った。


 マイルズの攻撃魔法でダメージを負った竜王ワームが身を捩って暴れる。逃げ遅れたオーウェン中佐が跳ね飛ばされた。

「ガハッ」

 肺から息を吐き出したオーウェン中佐は草原を数メートルも転がり、何とか立ち上がると千鳥足でふらふらと歩み始めた。脳震盪を起こしたらしい。

 オーウェン中佐がマイルズに近付き何か言おうとした。

「邪魔だ。どけ!」

 マイルズはオーウェン中佐を手で押し退け、グレイブを掲げ竜王ワームに斬り掛かる。グレイブの刃は竜王ワームを切り裂き体液を流させる。

「チッ、奥まで刃が入らねえ」


 チャールズはオーウェン中佐を助け起こし竜王ワームから離れた場所に運んだ後、後方に中佐を残しマイルズに駆け寄る。

「貴様、何を考えている。中佐を殺すつもりか」

「そんな事より奴を攻撃しろ」

 マイルズはもう一度<鉄水槍アクアスピア>を放つ。竜王ワームに水の槍が突き立った。

 チャールズも<鉄水槍アクアスピア>を放ち竜王ワームにダメージを与える。


 一方ビョンイクは<崩岩砲爆>の魔法を放った。上空に炎を上げる火山弾のようなものが出現し竜王ワームを目掛け落下を始める。竜王ワームは気配に気付いて逃げ出した。

 火山弾ようなものは竜王ワームが逃げ出した地点に命中すると盛大に爆発した。その炎や爆風が竜王ワームにダメージを与えるが、直撃ではないので致命傷とはならない。

 爆風はマイルズたちにも襲い掛かり、彼らの身体を運び去ろうとする。三人は踏ん張り耐えた。

「何だよ。外したのかよ」

 マイルズの言葉にビョンイクはムッとする。

「お前だって仕留められなかっただろ」

「ふん、俺はまだまだ本気を出しちゃいねえ」

 巨大な化け物を前に、マイルズは楽しそうな笑いを浮かべた。


 竜王ワームは敵の三人が集まっているのに気付き、素早く移動すると蛇のように鎌首をもたげ上から襲い掛かった。巨大な口がマイルズを呑み込もうと迫る。

 三人は左右に跳んで躱した。

 竜王ワームは雑草が生えている地面を土ごと喰らい大きな穴を空ける。今の攻撃を喰らえば即死間違い無しである。

 三人は距離を取り魔法の準備をする。

 ビョンイクが<豪風刃ゲールブレード>を放ち風の斬撃で竜王ワームを刻む。だが、鎧のような皮が威力を削ぎ掠り傷となる。チャールズは<水散弾アクアショット>で傷口を狙う。その狙いは有効だった。

 水散弾が傷口を抉りダメージを負わせた。

 竜王ワームはまたも鎌首をもたげチャールズを狙って襲い掛かる。必死で逃げるチャールズ。


 その隙にマイルズが切り札と言うべき魔法を準備した。

 マイルズが頭上に掲げた右手の先に巨大な水の槍が生まれた。その槍に魔力と雷撃の二種類の力を注ぎ込む。雷撃は、マイルズが持つ二つ目の第三階梯神紋『天雷嵐渦てんらいらんかの神紋』から引き出された力である。

 その攻撃魔法の名前は<天雷重水槍デュアルアクアスピア>、二つの力を帯びた槍はバチバチと火花を飛ばして力を誇示したかと思うと竜王ワーム目掛けて飛翔した。

 頭部のすぐ後ろ付近に突き刺さった槍は竜王ワームの内部に雷撃を放出した。その結果、内部の組織が焼け竜王ワームがのた打ち始めた。


 数分後、竜王ワームは息絶えた。竜ほどではないが濃密な魔粒子が放出され、マイルズたちが吸収する。

 オーウェン中佐は魔導飛行バギーで待機している部下たちを呼び、竜王ワームの剥ぎ取りを手伝わせた。

 竜王ワームから剥ぎ取るのは皮と魔晶管である。もちろん魔晶玉も入っていた。

「肉は持って帰らないのか?」

 ビョンイクがオーウェン中佐に尋ねた。

 オーウェン中佐が微妙な顔をする。

「肉を持って帰ってどうするんだ。食うのか?」

「食用ミミズとかいるくらいだから食えるんだろ」

「まさかとか思うがハンバーガーにしようとか言うんじゃないだろうな」

 ビョンイクは何故中佐がハンバーガーとか言い出したのか分からなかった。食用ミミズのハンバーガーとか有るのだろうか。

 中佐は竜王ワームの肉は持って帰らない事に決めたようだ。後で現地のハンターに聞くと竜王ワームの肉は最高級に美味い肉なのだそうだ。


 竜王ワームを倒した翌日は、休養日という事でマイルズたちはのんびりしていた。

 昼過ぎ頃、少し身体を動かしたくなったマイルズは、狩りに出掛けようと外に出た。

 駐屯地の入口から岩山の方へ向かおうとしたマイルズは不審な気配を感じて視線を鉱山都市ガジェスがある方へ向けた。

「そこに隠れている奴、出て来い」

 マイルズの威圧を込めた声が響いた。

 その声に動揺したような気配を感じたが、姿を見せない。

「出て来ないなら攻撃する」

 マイルズは<氷槍アイススピア>を放った。

 木陰に隠れていた不審者三人が慌てて飛び出して来た。

 東洋人らしい顔つきの男たちである。

「何者だ?」

 マイルズの詰問に応えず、二人の男が逃走しようとした。マイルズは『凍牙氷陣の神紋』の応用魔法である<暴風氷ブリザード>を放った。

 これは竜王ワームに向け最初に放った攻撃魔法である。

 魔法に依って作り出された極寒の暴風に捕まった二人は急速に体熱を奪われ凍えて倒れた。


 マイルズは残った一人に向け<氷弾アイスブリット>を放つ。

「待ってくれ、敵じゃない」

 残った一人が声を上げたが遅かった。氷弾は声を上げた男に向け飛んでいた。

 もう少しで氷弾が命中しようという時、男の前に少年が現れ<風の盾(ゲールシールド)>で氷弾を弾いた。

「ほう、中々やるじゃないか」

 マイルズは楽しそうに笑い、次の攻撃魔法を準備する。


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