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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第7章 竜殺しの狂宴編
177/240

scene:174 元同級生は半グレ

 迷宮都市に戻る途中、港湾都市モントハルに寄って一隻の船をチャーターした。中型船だが、崩風竜の死骸を運べるだけの大きさがある。

 俺たちは崩風竜を船に載せ迷宮都市へ向った。崩風竜を解体するにはハンターギルドの力を借りるしかないが、そのまま持っていくと、どうやって持って来たのか疑われそうなので船で運ぶ事にした。

 迷宮都市に到着し、ハンターギルドのアルフォス支部長に事情を話して解体をお願いする。


 アルフォス支部長は呆れたような顔をして。

「灼炎竜を倒したばかりなのに、今度は崩風竜か。何処で狩りをしたんだ?」

「ミズール大真国に行っていたんだ。そこでね」

「ほう、ミズール大真国でね。崩風竜が出たという情報は初耳なんだが……まあいい」

「解体の方をよろしく頼みます」

「判った。それで肉はどうする。またハムにするか?」

「ええ、趙悠館では人気が有りますから、それでお願いします」

 アルフォス支部長は少し躊躇ってから。

「王都から竜肉ハムを送れと五月蝿いんだ。趙悠館で竜肉ハムを食べた王様が貴族たちに自慢した所為だ。ハンターギルドに卸す量を増やしてくれないか」

 竜肉ハムは少量だが世話になったハンターギルドにも卸している。滅多に作れないものだから少量ずつ街の料理屋に販売しているはずだ。

 俺は王都に送る分の竜肉ハムを約束した。


 崩風竜の解体を手配した俺たちは趙悠館に戻り通常通りの生活を過ごし始めた。

 その数日後、俺とアカネさんはリアルワールドに戻った。

 俺はクラダダ要塞遺跡での顛末を報告書に纏め提出する必要があり、アカネさんは働き詰めだったので、休暇を取る為である。エステに行きたいと言っていたのでのんびりするのだろう。


 日本に戻った俺は、JTG支部の自分のデスクで報告書を書いていた。

 その姿を見付けた東條管理官が近寄って来て。

「遺跡調査の件はご苦労だったな」

「大変な目に遭いましたよ。珍しく伊丹さんも怒ってました」

 東條管理官は渋い顔をして。

「そうか、でも無事で帰れたのは何よりだ」


 俺は東條管理官に視線を向け。

「アメリカは遺跡調査の結果を知らせて来たんですか?」

「いや、まだだ。アメリカから魔導技術の権威が沖縄基地に呼ばれたようだから、何か成果は有ったようだ」

 何処から仕入れてきた情報だか分からないが教えてくれた。

 俺はアメリカから詳しい報告書を出すように言われたと伝えた。

「どうせJTGにも報告書は必要だ。手間は同じだろう。それより遺跡調査プロジェクトを嗅ぎ回っている連中がいるらしい」

「えっ、何処の連中ですか?」

「判らん。だが、動いているのは東洋系の顔立ちをした連中らしい」

 沖縄のグレイム中佐から、ミコトたちも注意するようにという連絡が有ったそうだ。


 報告書を書き上げ仕事を終わらせた俺は、久しぶりに映画でも見ようと街に出た。

 リアルワールドに居る時間が少ないので、こういう時は積極的に話題の映画などを見るようにしているのだ。

 面白そうな宇宙戦争ものの映画を上映していたので映画館に入った。

 映画を楽しんでから外に出ると星が瞬く時間になっていた。

 夜の街の雰囲気を楽しみながらぶらぶらしていると前から見覚えのある三人の高校生が歩いて来た。


「鬼島じゃないか。久しぶり」

 鬼島と名字を呼ばれたのは久しぶりだった。この三人は中学時代の同級生であるのだが、あまり親しかったとは言えない。評判のいい連中ではなかったからだ。

「ああ、近藤と杉田に古畑か」

 三人の中で一番体格のいい近藤が近寄って来て酒臭い息を吹き掛けながら、俺の肩に手を回す。

「ああじゃねえよ。いきなり行方不明になりやがって、何処に行ってたんだ?」

 ちょっと説明に困った。異世界に行っていたと正直に話すと騒がれそうだ。


「仕事探してたんだ。今は働きながら通信教育で勉強している」

 軽薄な感じの杉田が大げさに驚く。

「ひょえー、それって勤労学生とか言うんだろ。鬼島は偉いね」

 言っている言葉は褒めているのだが、その軽い口調は馬鹿にされているように感じた。

「おい、お前ら酒を飲んでるのか」

 俺が咎めるように言った。

「何だ、酒くらいいいだろ。これから楽しい所へ行くんだ。お前も来い」

 俺は強引に近くにあるビルの地下に連れて行かれた。

 振り払って帰る事も出来たが、こいつらがどんな日常を送っているのか興味が湧いたので付いて行く。


 連れて行かれたのは近くのビルの地下だった。木製の洒落たドアを開け中に入る。

 元飲食店だったらしい場所だった。潰れたらしくガランとしている。照明は天井付近に裸電球が三個ぶら下がっているだけで薄暗かった。

 中には七、八人の暑苦しい男が居た。男たちはまだ若く年長でも二〇代前半だろう。

 どうやら半グレと呼ばれる集団らしい。

「ここは、俺たちの道場みたいな場所だ。リーダーの三島さんは凄えんだぜ。ヤー公二人をボコボコにした事も有るんだ」

「遅いぞ、お前ら」

 背が高く何か格闘技をしているらしいリーダー格の三島という男が近藤たちを叱る。

「すいません、途中で昔の同級生に会ったんで遅れました」

「馬鹿野郎、何で連れて来てるんだ。今日は荒らしに行くと言ってあっただろ」

「アッ」

 近藤たちは忘れていたらしい。『荒らし』って何だろう。


 その時、入口の方でドアが乱暴に開けられる音がした。

 ドカドカと六人の男たちが入って来た。

 その面構えと服装から判斷すると『ヤ』の付く職業の男たちである。

「てめらだな、うちのシマで悪さしてるのは」

 ドスの効いた声で狗頭の大男が近藤たちを脅した。

 この半グレ集団は近隣の飲食店で暴れ、店を脅して金を巻き上げていたらしい。


 近藤・杉田・古畑の三人はビビっていたが、半グレのリーダー三島が大声で。

「お前ら誰だ?」

 狗頭男が苦笑いして。

「俺たちを知らねえで悪さをしてたのかよ。ふざけやがって。大轍興業の者だ」

 昔は何とか組とか呼ばれていた組織である。


 危ない雰囲気になってきたので、俺はこっそりとドアの方へと移動し外に出ようとした。

 見付かった。

「おい、兄ちゃん。何、逃げ出そうとしとるんや」

 俺の忍び足もまだまだのようだ。

「俺は関係者じゃないんで失礼します」

 それを聞いた近藤が。

「ダチを見捨てて逃げるのかよ」

 『お前らなんか友達じゃねえ』と反射的に言いそうになった。


 大轍興業の下っ端がドアの前に移動し逃げ道を塞いだ。

「あいつら、お前の事をダチだと言ってるぞ。それにカタギだとしても外に出してサツにチクられたら拙いだろ」

 俺は部屋の隅に引っ込む事にした。

「チッ、意気地のない野郎だぜ」

 近藤たちも軽蔑するような視線を俺に向けて来た。……頭に来る。あいつらが俺を巻き込んだのに。


「そんな奴より、この馬鹿共だ。どうやって落とし前を着けて貰おうかね」

 狗頭男が趣味の悪い指輪をした手で頭を撫でながら言った。

 それを聞いた半グレの三島がムッとした表情を浮かべ。

「おいおい、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって、俺たちゃ街で遊んでただけだぜ。無関係な奴らに『落とし前』とか言われる筋合いはねえ」

「何だとガキが粋がりやがって」


 段々と昔の任侠映画を見ているような雰囲気になっている。逃げ出せないのなら楽しもうという気になっていた。

 俺は部屋の隅で『どちらも頑張れ』と心の中で応援した。

 期待通り、喧嘩が始まった。

 我慢出来なくなった半グレの背の高い奴が殴り掛かったのだ。殴られた男は鼻血を出しながら反撃に移る。

 どちらも喧嘩慣れしているのか、腰の入ったパンチを放っていた。


 映画のアクションのような華麗な動きとかはないが、迫力のある喧嘩である。とは言っても普通の者にとってはで、俺には物足りない戦いとなった。

 近藤たちも戦っているが、経験が浅いらしく腰が引けている。近藤たち三人が初めに打ちのめされ床に転がった。

 近藤は薄れていく意識の中で、ミコトの方を見た。ふてぶてしい笑みを浮かべながら戦いを見ている。何でこいつは怯えていないんだと不思議に思いながら意識が途絶えた。

 戦闘力に関して言えば、大轍興業の方が上だった。人数は半グレの方が多かったが、一人二人と半グレが倒れると圧倒的に大轍興業が優勢になる。


 立っている半グレの人数が三人にまで減った時、相手側の人数は四人になっていた。

 三島は自分たちの集団が暴力団にも負けない集まりだと思っていた。だが、その認識は甘かったようだ。

 焦った三島が部屋に置いてあった鉄パイプを手に取り構えた。何処かの工事現場から掻っ払ってきたらしい。

 それに対して狗頭男が拳銃を取り出すのが見えた。

 拳銃を見た瞬間、俺は初めてヤバイと感じた。無詠唱で<遮蔽しゃへい結界>を張る。


 三島は顔色を変え、ジリジリと後退りを始めた。

「てめえ汚えぞ」

「馬鹿が。俺たちが遊びで来ているとでも思っているのか」

 狗頭男は躊躇いなく三島の足に銃弾を撃ち込んだ。絶叫が響き渡り床が真っ赤に染まる。

 リーダーが倒れた半グレは脆かった。瞬く間に叩きのめされ床に倒れる。


 戦いが終わり、倒れた連中がボコボコにされるのを見るのは気分のいいものではない。だが、自分から進んで、こういう集団に入ったのだから、自業自得だと考えた。

 半グレ集団を袋叩きにした男たちは、次に俺の方へ寄って来た。

「忠告する。俺に手を出すな。大変な目に遭うぞ」

 俺が怯えていないからなのか。不思議そうな顔をしたが、見逃してくれそうになかった。

「おかしな事を言う奴だぜ」

 拳銃を持った狗頭男も近付いて来て言う。


 魔力を制御し<旋風鞭トルネードウイップ>を発動した俺は天井付近に有る裸電球を叩き割った。一瞬で暗闇となった部屋で大轍興業の男たちが『何が起きた』と騒ぐ声が聞こえた。奴らにとっては何も見えない暗闇だが、俺は研ぎ澄まされた感覚で、奴らの位置が判っていた。

 スルリと狗頭男の懐に滑り込むと掌打を胸に叩き込んだ。掌の中で肋骨が砕ける感触を感じて力を抜く。

 二度目の『竜の洗礼』は考えていた以上に、肉体をパワーアップさせていたようだ。

 驚いている男たちに素早く移動しながら掌打を一発ずつ浴びせる。それだけで終わった。必要のない制裁だったが、ドヤ顔のオッさんたちに何だかムカついたのだ。

「呆気ないな」

 俺は倒れている男のポケットから携帯を取り出し、救急車を呼んだ。ビルから外に出ると会社帰りのサラリーマンたちが家路を急ぐ普通の風景が広がっていた。

 久しぶりにテレビでも見ようと帰路についた。

 今夜の件は、これで万事解決だと思っていた。次の日、その考えが浅かったのを思い知るまでは。



 翌日、俺は東條管理官に呼び出された。

 鋭い目付きで俺を値踏みするように観察した後、東條管理官が新聞を俺の前に広げた。

 そこには昨日の半グレ集団と大轍興業の騒ぎが書かれていた。

「お前の仕業だろ?」

「ええーっ、暴力団と半グレ集団との抗争だと書いてあるじゃないですか」

「私を甘く見るなよ。警察から詳しい情報を仕入れたのだ。重傷の四人はいずれも胸に掌打の一撃を食らって肋骨が砕けているそうだ」

「き、きっと相手に武術の達人が居たんじゃないですか」

 東條管理官がフッと笑い。

「救急車で運ばれた中に高校生が居たんだが、その連中が現場に元同級生が居たと証言している」

 ……近藤たちか。余計な事を。

「警察は偶然居合わせた少年には興味がないようだったが、名前を確認して驚いた。……ミコト、悪い事は出来ないんだぞ」

 ちょっと嫌な汗をかき始めた。

「正当防衛を主張いたします」

馬鹿者ばかもん、貴様の能力なら逃げる事は容易かったはずだ。お陰で警察に圧力を掛け、お前が現場に居なかった事にするのに苦労したんだからな」


 バレてしまったのなら仕方がない。迷惑を掛けたようなので素直に謝った。

 東條管理官がギロリと俺を睨んだ。

「そこで、罰として……お前には他の案内人の手伝いをして貰う」

「そんな……趙悠館だって忙しいのに」

 年間契約を結んだ大学病院から大勢の患者が趙悠館に来る予定になっているのだ。

「自業自得だ。お前には案内人の城島の手伝いをして貰う」

 名前に覚えのない案内人だった。

「何処の案内人ですか?」

「沖縄のうるま市だ」

「えっ、また沖縄」

「文句を言うな。ミズール大真国だけに存在する神紋を授かる為に団体客が来ているのだ。その世話で城島の所は大変らしい」

 ミズール大真国だけに存在する神紋というのには興味が湧いた。詳しく聞いてみると『数理の神紋』と『透視眼の神紋』というのがミズール大真国の魔術寺院には有るらしい。


 『数理の神紋』というのは計算が早くなる神紋として商人や経理関係の仕事をしている者には人気がある。

 もう一つの『透視眼の神紋』は読んで字の如くの神紋らしい。

 神紋の説明を聞いた俺はニヤリと笑った。

「なるほど、人気の神紋か……なるほどね」

 東條管理官がジト目で俺を見た。

「ミコト。絶対、お前は勘違いしているぞ」

「でも、『透視眼の神紋』でしょ。男のロマンじゃないですか」


 東條管理官が溜息を吐き。

「『透視眼の神紋』というのは医療機器のMRIのように物の断面を見通す魔法が使えるようになるそうだぞ」

「えっ、MRI……」

 俺はテレビドラマで見た医者が内蔵とかを撮影した画像を見ている場面を思い出した。……クッ、男のロマンじゃない。

 俺はちょっと肩を落とし、手伝いの内容を聞いた。

 内容は依頼者の護衛が主な仕事らしい


「沖縄の転移門から直接現地に転移してくれ」

 東條管理官から言われた言葉に不審を覚えた。

「それだと自分の武器を持ち込めませんけど、改造型飛行バギーで飛んだ方が良くないですか」

「竜の相手をしに行く訳じゃないんだぞ。普通の武器で十分だ」

 そうかと納得した。この事はアカネさんに伝え趙悠館の事を頼んだ。


2017/7/11 誤字修正

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