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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第7章 竜殺しの狂宴編
176/240

scene:173 臭気爆弾

 話はオーウェン中佐たちが地獄トカゲと竜王ワームに遭遇した直後に戻る。

 竜王ワームに追い掛けられた地獄トカゲは二手に別れ、一方は上へと登る階段を見付けて駆け上がった。

 そして、最上階で俺たちと遭遇する。


 俺たちは資料室に戻り扉を閉めた。

「こいつは爪に毒を持つ魔物ではござらんか?」

 伊丹さんも地獄トカゲを知っていたようだ。

「ええ、素早い上に兇悪な毒を持つ魔物です。数が多いと厄介ですよ」

 扉に何かがぶつかる音がする。地獄トカゲが中に入ろうと体当たりをしているらしい。


 薫が耳を澄まし外の気配を探る。

「<缶爆マジックボム>を投げるのはどう?」

 巨大ゴキの群れを<缶爆マジックボム>で一掃した時の事を思い出した薫は提案した。

「どうかな。あの時は巨大ゴキが閉鎖された空間に居たから全滅させられたけど、今度は結構広い所に地獄トカゲが散らばっているからな」

「でも、試してみる価値は有るんじゃない?」

 薫が言うのももっともなので試してみる気になった。


 呼吸を合わせ、薫が扉を少し開けたタイミングで<缶爆マジックボム>を投げた。一投目の<缶爆マジックボム>は数匹の地獄トカゲを吹き飛ばした。

「もう一回」

 薫が再攻撃を指示し、扉を開け<缶爆マジックボム>を投げた。

 その時、扉から少し外に出た俺の手を飛び掛かった地獄トカゲが毒爪で引っ掻いた。

「アッ」

 身体の中を悪寒が走り抜けた。身体から力が抜け床に膝を突く。

「ミコト殿!」

 外で爆発が起きたが、仕留めたのは地獄トカゲ一匹だけだった。<缶爆マジックボム>を覚えた地獄トカゲは素早く避けたのだ。見掛けと違い頭のいい魔物らしい。


「早く、<対毒治癒ポイズンキュア>を」

 薫が顔を青褪めさせ声を上げた。その声を聞きながら段々と息苦しくなるのを感じた。

 伊丹さんが素早く<対毒治癒ポイズンキュア>を掛けてくれた。

 その途端、呼吸が楽になる。

「心配させないでよ」

 薫が涙目になって心配してくれた。


 薫の膝枕で横になり、暫くすると身体にも力が戻った。俺は起き上がり、伊丹さんに礼を言う。

「ありがとう。助かりました」

「地獄トカゲの毒は本当に強烈なようでござるな」

「本当だよ。死ぬかと思った」

 伊丹さんに<治癒(キュア)>も掛けて貰い手の傷も回復した。


 扉の向こうでは、多くの地獄トカゲが扉に向って体当たりを繰り返している。扉が壊れない保証は無かった。

 俺たちは作戦を再検討した。

「<閃光弾フラッシュボム>で目潰しはどうでござる?」

「いや、地獄トカゲは目よりも鼻が利くらしいから、あまり効果がないかもしれない」

「ねえ、毒には毒をと言うのはどう?」

 薫が言い出した。何を言っているのか一瞬分からなかったが、『魔力変現の神紋』を使って毒ガスを合成出来ないかと言っているのだ。

「強烈な毒だと扱いが面倒でござるぞ」

「そうね。間違って吸ったら大変か」

「そうだ、臭いはどうだ?」

 俺が提案した。

「臭い……ああ、スカンクの攻撃ね。いいんじゃない」

「確か、スカンクの臭いはブチルメルカブタンのはずよ」

 何故、薫が知っているのか聞くと、俺が考えた<閃光弾フラッシュボム>に刺激され、<臭気爆弾>というアイデアを研究したらしい。

 だが、それを使用するにはガスマスクみたいなものも開発しないと使用者もダメージを受けると気付き開発を中止したらしい。


「その<臭気爆弾>を使えるのでござるか?」

「実験する機会は無かったけど、理論的には完成してる」

 いきなり実戦というのも怖い気がしたが、臭いだけの爆弾だから試してもいいかという気になった。

「それじゃあ、試してみよう。今度は<魔力感知>で地獄トカゲの位置を確認してから扉を開けるから」

 一度犯した失敗は繰り返さないのが、生き残る秘訣である。


 薫の準備が整うと地獄トカゲの位置を確認してから、扉を少し開けた。

 その隙間から、薫が<臭気爆弾>を放り投げる。

 俺は急いで扉を閉めた。

 外で爆発する音。<缶爆マジックボム>に比べると控えめな音である。


 扉の外から地獄トカゲの盛大な悲鳴が聞こえた。

「成功したようよ」

「良かったでござる」


 ………………


「……何か臭わないか?」

 扉の方から脳天を刺激するような臭いが漂って来た。

「クッ、クサッ、クサッ……」

「うわーっ、目に染みる」

「こ、こりゃ、いかん」

 強烈な臭いが俺たちの居る資料室まで侵入し、三人の鼻と目を直撃した。

 吐き気が込み上げてくるような臭気に耐えるしか方法が無かった。外なら風を起こして吹き飛ばす事が出来るのだが、室内では無意味だ。


 五分ほど涙を流しながら耐えていると臭いが消えた。

「ああ……酷い目に遭った」

 俺が心の底から言うと薫と伊丹さんが同意した。魔系元素として作った臭気だから短時間で消失したが、本物なら一ヶ月ほどは臭いが残ったはずだ。スカンク恐るべしと思った。

 伊丹さんが深呼吸してから反省する。

「臭いを見縊みくびっておった」

「<臭気爆弾>は失敗ね。でも、外が静かになってる」

 先程まで扉に体当りしていた音が止んでいる。


 <魔力感知>で探ると魔物の気配はない。扉を開け、外を確かめると死んでいる地獄トカゲ以外の姿はなかった。下の階に逃げたらしい。

「最後に金庫室だけ調べてから戻ろうか」

 俺たちが造船所の隅にある部屋を金庫室だと思ったのは、銀行の金庫室のような扉が有ったからだ。

 問題はどうやって開けるかであるが、扉に付いている三つのダイヤルを弄っているとダイヤルがポロリと外れた。それと同時にガチャッと言う音がして鍵自体が壊れたようだ。

 気も遠くなるような長月が精密なロック機構を壊していたようだ。


 重そうな扉が開き中を見ると箱型の何かの製造装置が有った。近くに説明書みたいな冊子があり、読んでみると『逃翔水』を精製し、より上昇力のある『飛翔液』を製造する装置だと記載されていた。

「だから、造船所に有ったのか。軍事機密に関係する装置なのかもしれないな」

 魔導飛行船での戦闘において、上昇力は武器になる。

 俺たちはその装置を持ち帰ろうと考えた。方法は二つ、<圧縮結界>で小さくして運ぶか、魔導バッグに入れて運ぶかである。

 <圧縮結界>は使用中常時魔力を消費するので、魔導バッグに入れたいのだが、問題が発生した。

 魔導バッグの出し入れ口が装置が通れるほど大きくないのだ。


「何悩んでいるの。装置を縮小してから魔導バッグに入れたらいいじゃない」

「なるほど」

 <圧縮結界>で縮小したものを魔導バッグの中に入れると元の大きさに戻るのは判っている。それは最初心配していた空間を扱う魔法同士が干渉するという訳ではなく、単に<圧縮結界>を維持する魔力を送れなくなるので元に戻るようなのだ。

 手で握っている限りは<圧縮結界>は健在で、魔導バッグに入れ手を離した瞬間、元に戻る。

 だから、魔導バッグの能力以上の容量があるものは入れられず、崩風竜も縮小して改造型飛行バギーの荷台に括り付けてある。

 俺は飛翔液精製装置を魔導バッグに入れた。


「地獄トカゲが戻って来ないうちに帰ろう。もう一度<臭気爆弾>を使うなんていうのは絶対嫌だからね」

 薫の言葉で撤収となった。

 格納庫に戻り、改造型飛行バギーに乗って遺跡を離れた。


 駐屯地の近くまで飛び、着陸出来る場所を探して下りた。

 ここでアメリカ軍人の死体を魔導バッグから取り出し、最後部座席に積み重ねるようにしてロープで固定した。

 三人の死体を一つの座席に積むのは大変だった。

 俺と薫が真ん中の座席を半分ずつ分けて座る。いわゆる半ケツ状態である。

 その状態で伊丹さんが操縦し駐屯地に着陸した。


 俺たちが着陸すると駐屯地の兵士たちが集まって来た。そして、後部座席に積まれている死体を見ると顔を顰めて、死体を運び始めた。

「二人はここに残っていてくれ。俺がベニングス少将に報告してくる」

「分かった。気を付けてね」

 薫の返答を聞いてから、兵士の一人を捕まえてベニングス少将の所へ案内して貰う。


 ベニングス少将の部屋に入ると少将とグレイム中佐が居た。

「無事だったんだな。良かった」

 グレイム中佐が五体満足な俺を見て喜んでくれた。

 一方、ベニングス少将は調査チームの方が心配らしく。

「オーウェン中佐たちはどうなった。チームは遺跡に入れたのかね?」

 俺はオーウェン中佐の名前を聞き不機嫌な顔になって返答する。

「オーウェン中佐たちは遺跡に入りましたよ」

「そうか、良かった」

 少将と中佐はホッとしたようだった。だが、俺が仏頂面をしているのに気付いたグレイム中佐が。

「何か有ったのか?」


 俺は崩風竜と遭遇した直後からの状況を語り始め、荒武者たちやオーウェン中佐たちが俺たちを残して逃げたと伝えると二人が複雑な表情をした。

「そ、それは済まなかった。彼らは遺跡調査が第一だと命令されているのだ。だから、そんな行動に出たのだろう」

 グレイム中佐が同僚たちを庇うが、納得出来るものではなかった。

「初めに逃げたのはバンヒョンとビョンイクなのだな。奴らがそんな真似をしなければ、中佐たちも君らを置いて遺跡に向かう事はしなかっただろう」

 少将は苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てるように言った。


 俺は崩風竜との戦いを報告した。但し伊丹さんの竜閃砲と薫の<光翼衛星フレアサテライト>については秘匿し、退治したとは言わず撃退したと報告する。

 僅か三人で崩風竜を撃退した実力を、少将と中佐も高く評価し絶賛した。

 だが、倒したのではなく撃退しただけというのを残念がり、不安に思ったようだ。

「それでは崩風竜が戻って来る可能性も有るのだね?」

 グレイム中佐に俺は頷いた。

「ですが、かなりのダメージを与えたので、それが回復するまでは戻らないと思います」

「そうか、ご苦労だった」

 俺が帰ろうとするとグレイム中佐が。

「済まないが、リアルワールドへ戻ったら、ちゃんとした報告書を提出してくれないか」

「分かりました」

 最後に少将から、崩風竜に殺された部下を持ち帰ってくれた事に対して感謝された。


 俺が去った後、ベニングス少将とグレイム中佐が話を続けていた。

「韓国人の二人は、竜を殺した猛者では無かったのか」

 少将は韓国人二人を疑っているようだ。

「それなのですが、竜の一部らしい素材を剥ぎ取って持ち帰ったのが確認されていますから、間違いないと思われます。ですが、ランクの低い竜だった可能性が有ります」

「スペイン人たちはどうなのだ?」

「奴らが竜種を倒したのは事実です。ですが、大勢の現地人と協力してと報告に有りますので、あの三人の実力は今ひとつ把握出来ていませんでした」

「崩風竜に匹敵する竜を倒す実力が有るのは、ミコトたちだけだった可能性が有るのか」

「ええ、我が国で一番の猛者が問題を起こさなければ協力させたのですが……」

 ベニングス少将はグレイム中佐が誰の事を言っているのか判った。属竜種を倒した猛者がアメリカには居る。但し、その人物は刑務所の中である。

 ハリウッドの近くで街のチンピラと諍いを起こし一〇人以上を殺したのだ。


 翌日、遺跡調査チームが四人だけになって帰って来た。

 オーウェン中佐から報告を聞いたベニングス少将は目眩を起こしそうになった。

「何故……最後の最後に油断したんだ?」

「崩風竜の所為です。<魔力感知>が出来る者が奴に殺され、地獄トカゲに気付けなかった」

「クソッ、また一からメンバーを揃えなきゃならん」

 少将が激怒するのも理解するが、オーウェン中佐としては今回の調査では成果も上がっているので、そこを評価して欲しかった。そうでなければ、死んだ仲間たちが浮かばれない。

「持ち帰ったものを調査すれば、必ず本国もクラダダ要塞遺跡の重要性を認識し協力が下りると思います」

 オーウェン中佐はそう言うと装甲車から取り外して持って来た搭載武器が置いてある机の方を見た。


「判っている。その点については評価しよう。だが、遺跡調査は今回の一回だけではなく、今後も続くという事を理解しておいて欲しかった」

「申し訳ありません」

 少将は溜息を吐いて。

「魔導技術の権威を招き、その武器を研究させよう。そうすれば、軍上層部もクラダダ要塞遺跡に資金と人材をつぎ込む価値が有ると判ってくれるだろう」

 ベニングス少将の予想は当たり、装甲車の搭載武器を研究した結果、クラダダ要塞遺跡の調査プロジェクトの優先順位が上がり、何としてもクラダダ要塞遺跡の全てを調査しろと命令が下った。


 ただアメリカは、ミコトたちが重要な情報や遺物を回収し迷宮都市に持ち帰ったとは全く気付いていなかった。

 一方、ミコトたちは置き去りにされ、自分たちだけで崩風竜を倒したのだから、これくらい持ち帰ってもいいだろうと考えていた。

 樹海の中に有るクラダダ要塞遺跡は、アメリカの所有物ではないのだから。


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