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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第7章 竜殺しの狂宴編
169/240

scene:166 遺跡調査隊の装備

 ベニングス少将が詳しい情報を、俺達に与える事に疑問を持った。

 クラダダ要塞遺跡は兵器が絡んでいるとすれば軍事機密だろう。なのに、平気な顔で俺達に話している。どうやら何か理由が有りそうだ。


「我々が自国や同盟国の荒武者を集めているのは知っているね」

 俺達は頷いた。

「ええ、崩風竜を倒すか撃退するつもりなんでしょ」

「その通り……だが、問題が起きている。各国から集めた荒武者の装備を用意出来ないでいるのだ」

 各国から集めた荒武者たちは、自分たちで集めた武器や防具を装備して戦ってきた。

 アメリカは凄腕を駐屯地に集めたまでは良かったが、その者たちが満足する装備を用意出来ず頭を抱えていた。竜を倒すほどの強者が装備していたものである。同等のものを揃えるのは難しいのは頷けた。


「そりゃそうか。人間だけならリアルワールドに戻って飛行機で沖縄へ行き転移門を潜らせれば連れて来れるけど、装備は転移門で転移させられないから」

 俺が言うとベニングス少将が苦笑いする。

「因みに、韓国のミスター・ビョンイクが装備していたのは、ワイバーン革製鎧とコカトリスの爪で作ったグレイブだ」

 伊丹さんが、その装備を不審に思った。

「ミスター・ビョンイクと申せば、黒鎧竜を倒したと有名だが、鎧は黒鎧竜の革ではなかったのでござるか?」

「ああ、黒鎧竜の皮を鎧に仕立てるには時間が掛かるそうだ」

 俺たちは灼炎竜の皮を鎧にするのに手間が掛かったのを知っているので納得した。


「他にも将軍蟻の外殻で作られた鎧や迷宮から産出した魔導武器を装備していた者も居る」

 アメリカが簡易魔導核を求めた理由が判った。荒武者たちが装備していた魔導武器の代わりとなる物を簡易魔導核を使って作ろうと考えているのだ。

 でも、一つ不審な点が頭に浮かぶ。

「だが、崩風竜に接近戦は無理でござろう。攻撃魔法か何かで撃退するのならば、神紋杖を用意すれば良いのでは?」

 伊丹さんも同じ点に疑問を持ったようだ。

「遺跡の内部にも魔物が住み着いている可能性がある。それに防具は竜相手の戦いで必要だ」

 人の居なくなった遺跡に魔物が住み着いている可能性は高い。魔物でも雨風が凌げる場所は巣として最適なのだ。


 そこまで話して、ベニングス少将が俺たちを値踏みにするように見る。

「君たちは案内人として有能だと聞いている。特にミスター・伊丹やミコト君は、日本でトップクラスの強者だそうだね」

 少将は俺たちに遺跡調査隊が装備する武器や防具を用意出来ないかと相談した。俺たちに崩風竜を何とかしてくれと言われるよりマシだったが、装備など自分で用意するものだ。

「ビョンイクさんたちが自分で用意すればいいじゃないですか。使っていた装備も自分で手に入れたものなんでしょ」

 少将が首を振る。

「そうは言っても時間が限られている。いつまでもここに彼らを引き止められる訳じゃないからね。それに彼らとの契約で武器は我々が用意するとなっているのだ」

 荒武者の中にも自分たちで装備の素材となる魔物を仕留め用意した者もいるようだ。ただ本来の装備よりランクが一段下になるものらしい。

 例を挙げるとアメリカの荒武者チャールズ・アシュビーはワイバーンを仕留めて革と爪で装備を用意した。だが本来の装備はバジリスクの革と爪を使ったものらしい。

 以前の俺と同じ装備である。但し向こうはグレイブだったようだ。


「ところで、君らの鎧だが、どんな魔物の革かね?」

 アメリカは俺たちが灼炎竜を倒した事を知らないらしい。いや、もしかすると竜を倒したという情報は入っているが、未成年の俺が竜を倒したなどとは信じられず信憑性に欠けると弾かれたのかもしれない。

 俺はどう答えるか迷い、伊丹さんとアカネさんを見た。伊丹さんが何か考えが有るのか誤魔化した。

「首長黒竜の亜種でござる」

「首長黒竜にオレンジ色の亜種がいるのか。知らなかったよ。だが、凄いな。君らが狩った竜なのだろ」


「そうでござるが……ここに集められた荒武者の方々は、それ以上の竜を倒した者たちなのではござらんか」

 ベニングス少将は何故か溜息を吐いた。

「そうなのだが、癖の強い者が多くてな。苦労させられている。───そうだ。彼らを紹介して上げよう」

 余計なお世話だと思ったが、少将が厚意? で紹介してやると言うのだ。断れなかった。


 荒武者たちが宿泊しているログハウスに行くと入口近くにあるダイニングルームに九人の男たちが寛いでいた。

 中の一人はビョンイクである。彼はミスリル合金製ロングソードを手に持ち眺めていた。

「少将、何とかならないのか。こんな武器じゃ私の実力を発揮出来ない」

「判っている。もう少し待ってくれ」

 そう言ってから、ベニングス少将が俺たちを紹介した。


「オヤッ、日本で会ったお嬢さんじゃないですか」

 ビョンイクがアカネさんを見ると声を上げた。すると少し後ろに座っていた同じ韓国人らしい男がニヤッと笑って近付いて来た。大男で無精髭を生やしている。

「何だ。ビョンイクの知り合いか。俺にも紹介しろよ」

 ビョンイクが嫌そうな顔をしてから。

「こいつは、韓国から招かれたもう一人のハンター、チェ・バンヒョンです。粗野な男なんで勘弁して下さい」


 バンヒョンが舌打ちをする。

「チッ、そんな紹介があるか。この駐屯地、食事は兎も角、女が少ねえんだから独り占めは許さねえぞ」

 俺はムッとして、バンヒョンを睨んだ。

「なんだ小僧。お前の女じゃないんだろ」

 チェ・バンヒョンは韓国で竜を倒したと名乗り出た二人目で、アメリカは多額の報酬を約束し、ここに招いていた。


 ベニングス少将がバンヒョンを止めた。

「ミスター・バンヒョン、こちらはお客様なんだ。口の利き方には注意してくれ」

「ふん。まさか、遺跡調査に参加させるつもりじゃないだろうな。女と小僧は足手纏あしでまといになるだけだぞ」

 そこに大柄な白人の男が割り込んだ。

「止めろ。弱い犬ほどよく吠えると言うことわざが日本にあるそうだが本当だな」

「なんだと!」


 ベニングス少将が大声を出す。

「止めないか! ……ミスター・バンヒョンは自分の部屋に戻っていてくれ」

 少将に睨まれたバンヒョンはダイニングルームから出て行った。

 残った白人男性が自己紹介を始めた。

「俺はチャールズ・アシュビー、アメリカ人だ。……君は正式な案内人なのかい?」

 俺が若い為なのか疑問に思ったようだ。

「ええ、案内人です。チャールズさんはワイバーンを仕留めたそうですね?」

「ああ、<水散弾アクアショット>で撃ち落として<鉄水槍アクアスピア>で串刺しにしてやった」

 <水散弾アクアショット>と<鉄水槍アクアスピア>は『水神武帝の神紋』の応用魔法である。<水散弾アクアショット>は水に魔力を充填した胡桃ほどの水の玉を数個飛ばす攻撃魔法で、<鉄水槍アクアスピア>は魔力を充填した水槍を飛ばす攻撃魔法である。

 どちらの魔法も魔粒子を魔系元素の水に変化させ望みの形にした後、魔力を充填する事で鉄ほどに強度と硬さを持たせ敵にダメージを与える。

 マウセリア王国には存在しない神紋なので詳しくは判らないが、第三階梯の神紋らしい。


 竜を倒すほどの強者だと、やはり第三階梯の神紋を授かっているようだ。

「ところで、ヒクリス高原に行く方法は見付かったのですか?」

 チャールズが少将に尋ねると。

「彼らの御蔭で輸送手段を手に入れたよ」

「良かった。これで抓裂竜を仕留めれば、欲しかった装備が手に入る」

 ベニングス少将たちは魔導飛行バギーに乗ってヒクリス高原へ行き抓裂竜を狩るつもりのようだ。抓裂竜の素材で装備を作りたいのだろう。


「待て、チャールズ。お前はワイバーンの装備を手に入れただろ。今度は俺たちの分なんだろうな」

 スペインから来ているカルデロン兄弟が横槍を入れた。三人兄弟でセシリオ・ヘルマン・リベルトである。

 チャールズが溜息を吐き。

「だったら、お前らが抓裂竜を仕留めろよ」

「馬鹿言うな。装備を用意するのはアメリカ軍だろ。碌な装備もない状態で竜を相手するほど馬鹿じゃねえぞ」

 世間では荒武者が無鉄砲な戦闘バカだと思われがちだが、本当の荒武者は臆病なほど慎重な面がある。

 装備は欲しいが、リスクの高い狩りはしたくないようだ。


 俺も彼らの考えは理解出来る。竜という魔物の攻撃を一回でも受ければ、自分が死ぬのだ。失敗が許されない戦いなら、装備一つでも疎かに出来ない。

「抓裂竜を狩りに行く者は決まったのですか?」

 チャールズが心配そうに訊いた。自国の軍隊なので気に掛けているようだ。

「そこで、ミスター・伊丹に相談なのだが、手伝ってくれないか?」

 突然の申し出に伊丹さんは驚いたようだ。

「拙者がでござるか」

「ミスター・チャールズも手伝うと申し出てくれたのだが、彼と初めて竜と戦う部下たちだけだと不安なのだ」

 少将が俺たちに事情を詳しく話していたのは、伊丹さんに手伝わせたかったからのようだ。


 伊丹さんだけに依頼したのは、俺が未成年であり、アカネさんが女性であるという点を考慮したそうだ。

 ハンターギルドのランク付けで抓裂竜とワイバーンが同じになっているのを、伊丹さんは知っていた。だが、ワイバーンのランク付けには、単なる強さだけではなく、空を飛ぶ事も考慮されランクが上げられているのも承知している。地上で抓裂竜とワイバーンが戦えば、圧倒的な強さで抓裂竜が勝利するだろう。

 チャールズやアメリカ兵の強さが分からないので、単独で抓裂竜を倒せるか考えてみた。絶牙槍を使ったとしても不安が残る。


「そうでござるな。拙者としてはお引き受けしても良いのだが、万全の戦力を整えようと考えるのなら、ミコト殿やアカネ殿にも参加して貰うのが一番でござる」

 少将は驚いた顔をして。

「どうしてミコト君たちも参加させた方が良いのか、理由を教えてくれるかな?」

「我らの中で最大の攻撃力を持つのがミコト殿で、アカネ殿が持つ神紋は竜との戦いで有用だと判断したからでござる」

 少将は二人に視線を向け。

「失礼だが、二人の実力が判らんので迷っている。判断基準となる情報を教えて欲しい」


 俺は少し考えてから。

「先日、俺とアカネさん、それにもう一人がクレボ峡谷でワイバーンの群れに襲われ撃退しました。仕留めたワイバーンは十数匹になります」

 少将とチャールズが驚きで声を失った。

「……少将、それだけの実力が有るのなら、連れて行った方がいい」

「ワイバーンの件が本当なら当然だ。高額の報酬を出そう」

 ベニングス少将と正式な契約を結んだ。狩りに参加するだけで五万ドル、成功報酬がそれ以上となった。

 成功報酬が具体的な金額でないのは、貢献度を少将が判断して査定すると決めたからだ。最後に止めを刺したなら、数十万ドルの報酬が手に入りそうだった。


 その日は駐屯地に宿泊し、翌朝ヒクリス高原へ向かう事に決まった。

 翌朝、三台の魔導飛行バギーに乗った俺たちは、ヒクリス高原へ飛んだ。狩りの人員は、俺たち三人とベニングス少将、チャールズ、それに少将の部下四人である。

 ヒクリス高原は北へ一時間ほど飛んだ位置に在った。標高八〇〇メートルほどの高原で周りが崖となっているので徒歩で行くのは困難なようだ。


 俺は<魔力感知>で抓裂竜を探した。高原の広さは四国の半分ほどで広大である。その中から一匹の魔物を探すのは困難だと最初は思っていた。

 ところが、探査範囲が半径八キロほどの<魔力感知>に次々に大型魔物の魔力が引っ掛かった。

 この高原は魔物の宝庫らしい。ぶちボアや荊棘けいきょく水牛、炎角獣、斑熊などが多く、それらの魔物が大型魔物の食料となっているらしい。

 俺は炎角獣を発見し進路を変えた。ベニングス少将から簡易魔導核と組み合わせて魔導武器が出来る素材が欲しいと言われていたからだ。


 炎角獣は十数匹の群れだった。それらの頭上を飛んで、伊丹さんとアカネさんが<缶爆マジックボム>を落とした。

 続けて二回大爆発が起き、数頭の炎角獣が倒れ、残りは逃げた。

 伊丹さんとアカネさんの<缶爆マジックボム>も威力が増し、至近距離での爆発でルーク級下位の魔物なら倒せるほどになっていた。

 倒れている炎角獣の近くに着陸した。

 少将が近付き、呆れたような声で。

「君たちの狩りはああいうものなのか。まるで爆撃機を使って狩りをしているみたいじゃないか」

「時間が勿体無いので、一番簡単な方法を取りました」

 少将の部下たちが倒れている炎角獣に止めを刺し、その角を剥ぎ取った。


 チャールズが歩み寄り、炎角獣の死体を検分する。

「骨が折れ、内臓が潰れている。かなりの威力だな……とは言え、抓裂竜に通用するとは思えん」

 伊丹さんは肩を竦め。

「あれは第一階梯『魔力変現の神紋』の応用魔法でござる」

 チャールズと少将が目を見張る。

「馬鹿な、第一階梯……それでルーク級が」


 二人はどういう魔法なのか詳しく知りたがり、仕方なく説明する。

 そうしている間に、何度か<魔力感知>を行い、大きな魔力の塊が近付いて来るのに気付いた。炎角獣が流した血の臭いに誘われたようだ。

 だが、この<魔力感知>により気付いた魔力の塊が予想以上に大きく、時々ブレるように感じる事に違和感を覚えた。

「大型の魔物が近付いている」

 俺が呟くように言うとチャールズが口を閉じ気配を探る。

 遠くで重々しい足音が聞こえ始めた。

「この足音、大物に間違いない」

 チャールズが警告の声を上げた。

 兵士たちが武器を取り周囲を見回す。

 俺は北西の方角を指差し。

「向こうから大きな魔物が近付いている。魔導飛行バギーは後ろの林の中に退避させて」

 魔導飛行バギーで戦う事も考えたが、竜だった場合、強烈な咆哮を放つ奴が居るので危険だった。俺たちやチャールズなら、咆哮の衝撃に耐え戦闘を続けられそうだが、兵士たちには難しいかもしれない。

 灼炎竜と戦った時、竜の咆哮を浴びて気を失いそうになったのを思い出していた。


 アカネさんと兵士二人が魔導飛行バギーに乗って林に向かった。

 足音は次第に大きくなり、木が折れるバキッという音が響いた。

 ベニングス少将とチャールズが寄って来て。

「最初の攻撃は、俺に任せてくれ」

 チャールズが言う。

 少将が承認した。

 俺はマナ杖を出し<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>の準備をする。相手が抓裂竜クラスだと<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>でないと仕留められないと判断したのだ。


 高原に生えている背の高い木々を押し退けながら、二匹の竜が姿を現した。

 ベニングス少将が顔を青褪めさせ声を上げる。

「そんな……二匹の抓裂竜と遭遇するとは」


2017/3/14 誤字修正

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