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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第7章 竜殺しの狂宴編
165/240

scene:162 鬼退治

感想を頂きました。ありがとうございます。

 『千の蒼鬼』が二階に向かってから一〇分ほどして、俺たちも二階に上がった。

 二階も迷路のような通路が続いていた。少し歩くと前方に落とし穴が口を開けているのが目に入る。『千の蒼鬼』たちが見破ったのだろう。

 誰かが戦っている音が聞こえた。慎重に進むと『千の蒼鬼』のメンバーが歩兵蟻と戦っている。

 彼らの武器は戦槌・ウォーアックス・大剣二人・神紋杖である。意外にもゴリラ顔のリーダーは神紋杖を持っている。彼の自慢話からリーダーのボルゲルで、自称超優秀な魔導師だと判明していたが、大きな盾と神紋杖を持つ姿は魔導師のイメージから遠く離れており、神紋杖が棍棒に見える。


「ガハハハ……身の程知らずの蟻どもが」

 『千の蒼鬼』たちは俊敏な動きであるが力任せに歩兵蟻を叩き伏せ、切り裂いている。防御は盾を上手く使っている。かなりのパワーファイターらしい。

 手を出さずに見守っていると程なく戦闘が終了した。『千の蒼鬼』の圧勝である。

 ボルゲルが俺たちを見て、不機嫌そうな顔で剥ぎ取りを始めた。


 俺たちが黙って脇を通り過ぎようとするとボルゲルが呼び止めた。

「貴様ら、礼儀がなってねえな」

 首を傾げ納得出来ないという顔をすると。

「先輩が勉強になる戦闘を見せてやったんだ。礼ぐらい言わねえか」

 薫とアカネさんが呆れた顔をしている。伊丹さんは不快そうにジロリと奴等を睨んだ。


 大剣を持つ蟷螂顔の男が不機嫌そうな顔をして。

「なんだ……その眼は」

 他のメンバーも剣呑な眼に変わり。

「兄貴、こいつらもしつけが必要なんじゃねえか」

「そうだな」

 ハンターはギルドに所属していても、それぞれが独立しており、他のハンターの活動には口出ししない不文律がある。パーティを組んでいるのならまだしも、別のパーティのメンバーに躾がどうのと言う時点でおかしな話だった。

 相手は同じハンターで子供ではないのだ。しかも理由が馬鹿げたものである。


「お前ら……こいつは躾だ。盾も武器も使うなよ」

 そう言うと盾と武器を置き、蟷螂顔が近付いて来た。

「止めろ」

 冷静な声で制止するが、蟷螂顔は構わず殴り掛かって来た。その動きは早く並のハンターでは避けきれないだろう。

 その拳を手で払い防御する。蟷螂顔がムッとした顔になり連続で拳を繰り出す。その攻撃は段々と速くなり、普通の人間では目で追えないほどになる。

 だが、相手が悪かった。そのことごとくを手で払い、攻撃が止まった瞬間、相手の腹に前蹴りを入れ蹴り飛ばす。

 残りのメンバーが怒りの声を発して俺と伊丹さんに襲い掛かった。一度叩きのめすと奴等は武器を手に持った。


「馬鹿な真似は止めなさい」

 アカネさんが制止の声を上げる。奴等の耳には聞こえていないようだ。

 武器を出されたからには本気を出すしかなかった。躯豪術で溜め込んだ魔力を手足に流し始める。大剣を持つ蟷螂顔の懐に飛び込み、俺の拳が細い顎に命中し脳を激しく揺さぶった。

 蟷螂顔はクタッと倒れる。


「やりやがったな!」

 ウォーアックスを持つ男が襲い掛かって来たので、邪爪鉈を取り出し柄の部分を切断する。驚いた顔をする男には回し蹴りを脇腹に叩き込んだ。

 伊丹さんの方を見ると二人の男を倒し、最後に残ったボルゲルと戦っていた。

「クソッ、こんな狭い場所でなかったら、首長黒竜を倒した<渦雷嵐ストームサンダー>を御見舞してやるのに」

 ボルゲルは『天雷嵐渦てんらいらんかの神紋』を持っているようだ。<渦雷嵐ストームサンダー>の威力は使った者の力量にも依るが、首長黒竜にダメージを与えるだけの威力を持つ。但し仕留めるまでの威力はない。

 麻痺させるだけの威力は有るので、麻痺させた後、皆で仕留めたのだろう。


 馬鹿な事を言っている。そう伊丹さんは思ったようだ。広い場所だったとして、この接近戦では魔法は使えない。目が笑い、纏っている気配が少し柔らかくなる。それでも油断はせず、神紋杖で殴り掛かるのを躱し掌打を胸に当てた瞬間、腰をクイッと捻る。

 強靭な鎧の上から特殊な技を発したようだ。『鎧徹し』と呼ばれる技法で鎧越しに衝撃力を肉体内部に送り込んだのだ。

「ウウッ」

 ボルゲルが苦しそうに息を漏らし崩れるように膝を突き倒れた。

 魔物相手なら強いのだろう。しかし、人間相手に戦う技術は持っていないようだ。


 五人が通路の床に蹲り俺と伊丹さんを見上げた。

「あんたら何者だ?」

 薫が誇らしそうに俺に横に並び。

「あんたたち、灼炎竜を倒したミコトと伊丹さんを知らないの」

「ゲッ」

 男たちは驚いた顔をしてから、血の気が引き顔を青褪めさせた。

 慌てたように、男たちは土下座をする。

「申し訳ありませんでした」

 この世界にも土下座が有るんだと初めて知った日だった。

 その後、ボルゲルたちは反省し、ミコトたちに難なく倒された話を広めたので、ミコトと伊丹の名声は更に高まった。


 ボルゲルたちと別れ、先に進んだ俺たちは二階を探索し幾つかの罠とゴブリンや足軽蟷螂に遭遇し撃破した。

 二階には特別なものはなく、三階に上がる階段を見付け登った。

 以前から疑問に思っていた事が有る。元は人が住んでいた遺跡のはずなのに、階段がバラバラの位置に存在するのは不便だったはずだ。

 短距離転移門の発見で住人は階段を使わず転移門で移動していたのが判明しスッキリした。

 エリュシス人にとって階段は非常時のみに使われるものでしかなく、セキュリティーの関係でバラバラに配置されたようだ。


 三階は迷路のような通路ではなかった。広大な空間が五つあり、油椰子トレントと昆虫系魔物の巣窟となっていた。

 昆虫系魔物は突撃バッタや大きな蜘蛛の類で比較的弱い魔物だった。だが、油椰子トレントは厄介である。太い幹から鞭のような蔓を伸ばし、強烈な鞭攻撃を行うのだ。しかも蔓には刃物のような尖った棘が有り、叩かれると身体が切り裂かれる。

 そして、最も厄介なのが、幹の先端に付いている小さな椰子の実を蔓を使って投擲する攻撃である。この椰子の実は焼夷弾のようなもので、命中すると中に入っている揮発性の油が爆発する。


 幸いにも<遮蔽しゃへい結界>が有るので、俺たちに対する脅威度は低いが、普通のパーティだと不意に焼夷弾のような椰子の実を喰らい、危機に陥る事も有る。

 結界を張り、三階の奥まで進む。途中、油椰子トレントの焼夷弾攻撃に遭ったが、結界が弾いたので被害はなかった。

 ただ周りが火の海となったので、大急ぎで逃げ出すしかなくなった。


 俺たちは階段の近くまで来て立ち止まった。階段の前に巨大な蜘蛛が待ち受けていたのだ。全長が四メートルほどで姿は金剛蜘蛛と似ている。

 ただ金剛蜘蛛なら体表に生えている毛が金色のはずなのだ。この蜘蛛は真っ赤な色をしている。

 たぶん金剛蜘蛛の亜種なのだろう。


「真っ赤な蜘蛛というのも不気味ね。毒蜘蛛じゃないの」

 アカネさんが不安そうに呟いた。

「関係ないよ」

 薫がそう言うと<崩岩弾>を放った。容赦ない一撃だ。赤金剛蜘蛛の頭に命中すると、巨大な蜘蛛がクルクルと空中で回転し階段の方へ飛んで行った。階段にぶち当たる寸前、足をバタつかせて姿勢制御すると階段にピタッと着地した。

「オッ、すげえ」

 素直に巨大蜘蛛のバランス感覚を賞賛した。


 だが、蜘蛛が動き出そうとした時、足をよろめかせ階段を踏み外した。手摺のない岩を削って作られたような階段である。真っ逆さまに落ち、もう一度頭を強打すると動かなくなった。

 薫がトコトコと歩いて行き、「えい」と邪爪グレイブを振り下ろした。

 息の根が止まった赤金剛蜘蛛から濃密な魔粒子が溢れ出す。

「なんか魔物が可哀想になるくらい容赦ないな」

 感想を言うと薫に睨まれた。

「魔物に情けは無用よ」

「ごもっとも」

 金剛蜘蛛の外殻は人気の防具となるので、この赤金剛蜘蛛の外殻も高く売れそうだった。剥ぎ取りを済ませ、階段を上がる。


 四階から六階は再び迷路のような通路に戻り、出て来る魔物もルーク級程度だったので問題なく倒した。

 ただ六階の大きめの部屋を探索した時、召喚罠を作動させてしまい。ホブゴブリン九匹が突然現れた時には驚いた。

 まあ、驚いた後は瞬殺したので被害はなかったが、ホブゴブリンではなくルーク級上位の魔物だったら危なかったかもしれない。

 この階における特別な収穫は六階の『メダルキー』を発見した事である。


 階段を見付け七階に上がると三階と同じような広大な空間が三つ有り、それが東西に並び通路で繋がっていた。

 目的の『鬼王樹』は一番奥の空間に生えているようだ。

 八階に上がる階段は一番手前の空間の左奥に有り、通常は鬼王樹が生えている空間までは行かないらしい。

 だが、俺たちの目的は鬼王樹にある。


 <魔力感知>でチェックすると魔物の分布が判明した。

 この階に居る魔物はオーガだった。それも群れをなし、鬼王樹のある空間でじゃれ合っている。

 その数は三〇匹ほどで高ランクのハンターでさえ尻込みするだろう。

「何か作戦は有るの?」

 薫が尋ねた。俺は首を振り。

「ない。本気の本気で戦うのみ。いいでしょ、伊丹さん」

 伊丹さんが笑い頷いた。

「久しぶりに全力で戦うのも楽しそうでござる」

「そうこなくちゃ、カオルとアカネさんは援護を頼む」


 俺と伊丹さんが武器を出し、躯豪術を始める。

 二人の体から覇気が溢れ出し、周りの空間を侵略していく。近くに居たスライムや小物の昆虫型魔物が少しでも遠くへと逃げ出し始めた。

 邪爪鉈を構えた俺は、<風の盾(ゲールシールド)>を使い左手から渦巻く風の盾を出す。

 真ん中にある大空間まで来た時、突撃バッタを追い掛けて来たオーガと遭遇した。


 足に魔力を送り込んで強化した脚力でオーガの懐に飛び込み、邪爪鉈を袈裟懸けに振るう。オーガの胸から血飛沫が飛び大きな声で吠えた。

 オーガはタフである。これくらいでは死なない。血を流しながら掴み掛かろうとするオーガの首に邪爪鉈の刃を滑り込ませ振り切った。

 オーガの頭がゴロリと地に落ちる。


 伊丹さんが先行し鬼王樹の有る空間へと突撃して行く。俺も急いで追い掛ける。

 豪竜刀が振られオーガの首が飛ぶのが目に入った。

 この頃になるとオーガの群れも俺と伊丹さんの存在に気付き騒ぎ始めていた。オーガが集団で近付いて来る。かなり興奮しているようで、しきりに大きな咆哮を上げ威嚇している。


 突然、オーガの一匹が吹き飛んだ。薫が<崩岩弾>で吹き飛ばしたらしい。

 それからは乱戦となる。左に跳び右に跳びながら邪爪鉈を閃かせオーガを切り裂いていく。身体が温まり調子が良くなると五芒星躯豪術を使い始めた。

 そうなるとスピードが上がり、薫やアカネの目でも追えないほどの動きとなった。

「何なの……あの動き。もう人間じゃない」

 薫が失礼な事を口にする。アカネさんも頷きながら俺たちの動きに見惚れていた。


 伊丹さんが疾翔剣を使い始めた。飛翔刃が飛びオーガを切り裂いていく。

 俺は向かって来るオーガに風の盾をぶち当て仰け反らせると懐に飛び込んで喉に邪爪鉈を叩き込んだ。

 後ろから殺気を含んだ気配を感じ、左に飛び跳ねるようにステップし身体を捻る。その脇をオーガが振り下ろした棍棒が通過し地面を叩く。棍棒を握る腕に邪爪鉈を振り下ろして切断、風の盾を顔面に叩き込む。

 悲鳴を上げるオーガに止めとして飛び上がると頭に邪爪鉈を叩き付けた。


「ハアハア……だいぶ少なくなった」

 オーガの数は一桁台になっていた。そこにアカネさんの<雷砲弾サンダーキャノン>が放たれた。バチバチッと音を立てる雷球はオーガを感電させ一時的に行動不能にさせる。

 数が少なくなったオーガは程なく全滅する。剥ぎ取りを行ってから鬼王樹の林の前に集まった。


 鬼王樹からは甘い香りが漂っている。

「どうやって樹液を集めるの?」

 薫の質問に、俺が答える。

「皆は幹に傷を付けてくれ。俺が樹液を集める容器を縛り付けるから」

 魔導バッグの中から鉄製の容器と紐を取り出した。

 鬼王樹はクラゲの触手のようなものを枝から下げており、近付いたものを捕らえて餌食とする。歩ける訳ではないので近付かなければ危険はないが、樹液を採取するには近付くしかない。


 薫は<風刃ブリーズブレード>で、アカネさんは穂先の欠けた剛雷槌槍で、伊丹さんは飛翔刃で傷を付けていく。幹に付けられた傷から樹液が溢れ出す。

 俺は<風障壁ゲールバリア>で触手を防ぎながら容器を括り付ける。作業は二時間ほどで終わり、少し時間を置いてから容器を回収した。

 集まった樹液の量は二〇リットル程だろうか。二台の魔導飛行バギーに防風処置を施せる量だ。


 目的を達成した俺たちは短距離転移門がある部屋を探し、一階に戻り迷宮の外へ出た。

 こんな便利なものが有るのに、何故、他のハンターは使わないのだろうと疑問に思う。短距離転移門の有る部屋は見つけ難いのは事実だが、偶然見付けたハンターも居たはずなのだ。

 後で迷宮ギルドで訊いてみると、魔導迷宮に挑戦する者の間で小さな何もない部屋は罠の部屋で、入ったら二度と戻れないという噂が広まっているらしい。

 メダルキーを持たない者が短距離転移門を使うと警備員室みたいな部屋に飛ばされ閉じ込められるので、これを罠だと勘違いしたようだ。


 外に出ると日が暮れていた。急いで迷宮都市に戻った。



2017/2/20 誤字・表現修正

2017/11/22 誤字修正

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