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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第6章 戦乱と陰謀編
145/240

scene:142 伊丹の抜刀術

「これが竜閃砲か、銃の形にはしなかったのでござるか」

 伊丹さんが竜閃砲を手に持ち念入りに確かめる。

「取り敢えず竜炎撃と同じ形にしてみた。後で使い易い形を研究するつもりだよ」

 異世界において銃というものが知られた以上、銃という形の武器を避ける必要はなくなった。


 風がほとんど無いので海が穏やかな表情を見せている。その海を見渡し、竜閃砲の的になりそうなものを探す。

 沖合に黒い岩礁が有った。距離は八〇〇メートルほどだろうか。波間に丸く黒い岩の塊が見え隠れしている。

 伊丹さんには少し離れて貰い、竜閃砲を構えた後に<遮蔽しゃへい結界>を張った。竜閃砲が突き出た部分だけを除いて結界を張る。このような結界は制御が難しく、今の俺には大量の魔力を使って力任せに制御するしか無い。

 竜閃砲の照準を岩礁に合わせ発射ボタンを押した。


 魔力供給筒から大量の魔力が流れ出し源紋を秘めたランスの部分が青白く光り始める。その青白い光が揺らいだ時、竜閃砲の先端から青白いビームが発射された。

 発射された瞬間、竜閃砲の周りにビームから放射された熱が溢れる。結界を張っていなければ火傷したかもしれない。

 竜閃ビームは岩礁を逸れ水平線の彼方へと飛んで行く。竜閃砲を少し下に振ると岩礁に命中し火花を散らす。ビームは岩礁を貫通し水蒸気爆発を起こした。

 突然、岩礁が海面から飛び上がった。

 岩礁だと思ったのは鎧セイウチの甲羅だったらしい。突然攻撃された鎧セイウチは、一旦海に潜った後、俺たち目掛けて突進して来た。


 体長五メートルは有りそうな巨大なセイウチで牙だけでも一メートルを超える長さが有った。

「伊丹さん、戦闘準備!」

 俺は竜閃砲を魔導バッグの中に仕舞い、邪爪鉈とマナ杖を取り出した。

 横を見ると伊丹さんが豪竜刀を抜き油断なく構えている。俺と同じように『竜の洗礼』を受けた伊丹さんは、無詠唱で応用魔法が使えるようになっていた。

 伊丹さんは躯豪術に独自の工夫を加え『鎮星躯豪術』と『鎮星妙刀術』という技を編み出していたが、今回これに抜刀術の剣理を加味し強力な威力を持つ技を創り出した。


 この技は抜刀術と強化武器の源紋の力を組み合わせたものである。

 伊丹さんは近付いて来る鎧セイウチを睨んで。

「ミコト殿、拙者に任せてくれぬか」

 俺は自信が有りそうな伊丹さんの顔を見て。

「いいけど、手強いようなら加勢するよ」


 伊丹さんはベルトに差した豪竜刀の鞘を握るとスッと腰を落とす。鎮星躯豪術により大量の魔力を生み出し、鞘を握る左手から鞘に魔力を流し込んだ。魔力は豪竜刀の刀身に纏い付き赤光を放ち始める。

 鞘の鯉口こいくちから赤光が漏れた時、伊丹さんが地面を滑るような独特の歩法で走り出し瞬く間に鎧セイウチに肉薄する。

 セイウチが巨大な身体を仰け反らせ、伊丹さんに叩き付けるように上半身を振り下ろした。

 右手を豪竜刀の柄に添えた伊丹さんはセイウチの上半身を掠めるように移動し豪竜刀を鞘走らせる。その動きは目にも留まらぬ速さであり、威力が尋常ではなかった。


 俺が気付いた時には豪竜刀が抜かれ振り切られていた。

 鎧セイウチの首の辺りに赤い線が浮き出たかと思うと真っ赤な血が吹き出した。巨体を身悶え、鎧セイウチがのた打ち回り、最後には痙攣を始める。

「一撃……」

 思わず驚きの声が出る。

 セイウチの身体には満遍なく分厚い脂肪が付いているので、仕留めるのには苦労すると思っていた。


 後ろから『ウォーッ』という歓声が起きた。

 異変に気付いて遺跡の犬人族たちが集まって来ていたのだ。

 息絶えた鎧セイウチを調べると、竜閃砲による傷がかなりのダメージを与えていたのが判った。鉄よりも硬そうな鎧の部分が融解しビームの軌跡に沿って割れ目が出来ていた。

 しかも内部の筋肉は炭化し真っ黒になっている。


「あのまま水蒸気爆発が起こらなければ鎧セイウチを真っ二つにしていたな」

「威力は十分でござるな」

「そうだね……威力と言えば、伊丹さんの技も凄かったよ」

 伊丹さんが少し照れたように笑い。

「あれは刀身に魔力を纏わせ、源紋の力を衝撃波として放つものでござる」

 豪竜刀には『断裂斬』の源紋が秘められており、その力を衝撃波として放った事になる。


「へえー、俺の邪爪鉈でも出来るかな?」

 伊丹さんは首を傾げ。

「鉈だと、ちと難しいかもしれん」

 残念だが真似するのは諦めよう。

 竜閃砲には問題点が有るのが判った。結界を張っていなければ火傷していた可能性が高かったからだ。

「迷宮都市に帰ってから対策を考えよう」


 セイウチの肉は美味いが硬く、人には人気が無い。だが、顎の力が強い犬人族は喜んで食べるようだ。

 魔晶管と魔晶玉は回収し、後の肉は犬人族に譲る。

 鎧セイウチの解体を始めた犬人族を海岸に残し、伊丹さんと二人で遺跡に戻った。

 四階テラス区に行くと農地としての整備が進み、犬人族の多くが農作業をしていた。育てている作物は芋や大豆がほとんどだが、小麦も育て始めたようだ。

 現在は五階テラス区の地下空間に犬人族たちは住んでいるが、五階テラス区から出入りする六階テラス区の地下も整備が進んでいる。


 里長のムジェックに尋ねると樹海に住む犬人族の一部がエヴァソン遺跡に移住したいと言っているらしい。里長には四階テラス区から六階テラス区までは自由に使っていいと言ってある。

 但し、古い魔導寺院らしい区画は勝手に使わないように命じていた。

 薫が幾つかの神紋付与陣を修復したが、修復していない神紋付与陣も多くあり、知識のない者が触るのは危険だった。


 来月には二〇〇人ほどが移住する予定になっており、ここで暮らしている犬人族の人数は三〇〇人ほどに増えるらしい。どうして移住する事になったのかと尋ねると隠れ里が灼炎竜によって焼かれたからだと言う。

 現在は戦士長ムルカが率いる一〇人ほどの救援隊が食料品などを持って向かっているそうだ。


 ムジェックと打ち合わせをし、剛雷槌槍が追加で一〇本欲しいと要請された。ガルガスの林に実や樹液を採取に行く時、護衛の者に持たせたいらしい。

 俺は承知した。剛雷槌槍の一〇本や二〇本、エヴァソン遺跡の整備に必要なら安いものだ。

「ミコト様、今月分の塩が用意出来ましたが、如何が致しますか?」

 犬人族は今月九トンの塩を生産していた。

「先月と同じで、迷宮都市近くまで運んでくれ。受け取りに行くよ」

「分かりました」

 犬人族たちが生産した塩は太守館で買い取るように取り決めていた。その代金で小麦や布などの必要なものを買いエヴァソン遺跡に運んでいる。


 犬人族たちは迷宮都市との関わりを通して文明社会を知り、自分たちが多くの事を学ぶ必要があると気付いた。それは犬人族にとって良かったのかどうかは判らない。ただ犬人族はミコトたちの存在に希望を見出していた。



 俺と伊丹さんが迷宮都市に戻った頃、王都のエクサバル城では国王ウラガル二世と軍部が会議をしていた。

 出席者は国王と宰相クロムウィード、それにカウレウス将軍と副官である。

「将軍、準備は出来ておるのであろうな?」

「もちろんでございます、陛下」

 カウレウス将軍は弓隊の中から精鋭二〇〇人を選び、シュマルディン王子が持参した竜炎撃一本をサンプルとして新しい魔導武器の性能を教え込み、厳しい訓練を課し鍛えていた。


「其の者たちが竜炎撃を手にし公国軍に立ち向かえば、勝てるのか?」

 カウレウス将軍は厳しい表情を作り、正直に答える。

「判りませぬ。実戦において新しい魔導武器がどれほどの威力を発揮するか判断できぬのです」

 国王が沈痛な表情を作り拳を握り締める。

 沈黙した国王に申し訳なさそうな顔でクロムウィード宰相が報告をする。

「領主軍から、竜炎撃が完成したならば自分たちにも配備を願う声が上がっております」

「何ッ……竜炎撃については軍事機密とするよう申し付けたはずではないか」


 シュマルディンが竜炎撃を持ってきた時、その威力に国王や将軍は驚いた。けれども、一本だけでは戦局を変えられはしない。

 だが、竜炎撃が一〇〇本ほど生産可能だと知った時、将軍は衝撃を受けた。それなら戦局を変えられる可能性が有る。

 それを国王に告げると。

「それは本当か……ならば、迷宮都市の職人に生産を急がせよ。そして、この武器の事は口外を禁ずる」

 と国王が命じたはずなのに、領主たちが知っているのは軍や閣僚の中に思慮の浅い者が居たという事だ。


 国王は溜息を吐き、将軍に尋ねる。

「どう思う?」

「領主軍が威力の有る武器を欲しがるのは理解出来ます。ですが、敵軍を打ち破るには集中運用する必要が有ると考えます」

「領主軍には悪いが、今のままで時間を稼いで貰うしかないのか」


 その後、フロリス砦の状況を確認した後、国王が王都の様子を宰相に尋ねた。

「貴族に続いて裕福な商人たちが家族を西方の地方都市へ避難させ始めており、高級商店街などは人通りが少なくなっています。更に街では喧嘩や暴力沙汰が増えており治安が悪化する懸念が出ております」

 国王は眉をひそめ。

「何か対策を打っているのか?」

「警邏兵の巡回を増したくらいでございます」

「他には何かあるか?」

「物流が停滞しており、食料品や生活雑貨の値上がりが始まっています」

 クロムウィード宰相が渋い顔で答えると国王は深刻な顔になる。食料が値上がりすると低所得層であるスラムなどの住民が暴動を起こす危険が出て来る。

「戦争の影響が少ない西方地方から食料や生活雑貨を王都へ運ぶよう命じよ」


 国王がそう指示を出した時、城門の当番兵からシュマルディン王子とダルバルが城に到着したと知らせて来た。

 国王は練兵場に向かわせるように命じた。


 ディンとダルバルの一行は魔導飛行バギーに乗ったまま城門を潜りエクサバル城に入った。

 当番兵が国王へ知らせに走り、練兵場に向かうよう命じられたと聞くと、城の中庭を飛び練兵場へ向かった。

 城の人間も漸く空を飛ぶ小型の乗り物の存在に慣れてきたようで注目される事が少なくなった。それでもすれ違う兵士や官吏たちの多くは立ち止まって魔導飛行バギーを見詰める。


 練兵場で訓練している兵士たちが不意の侵入者に気付いて声を上げる。

「おい、シュマルディン殿下とダルバル殿だ」

「もしかして新しい武器を運んで来られたのか?」

「灼炎竜の竜炎棘を元に作られたという魔導武器が間に合ったのか」

「そ、それなら公国軍を撃退出来るかもしれんぞ」

 竜炎撃はもはや軍事機密ではなくなっていたようだ。


 ダルバルは不機嫌な顔で兵士を一人捕まえ、カウレウス将軍を呼んで来るように頼んだ。

 間も無くカウレウス将軍が新しく編成された弓部隊の精鋭二〇〇人を引き連れ練兵場に現れた。

「シュマルディン殿下、竜炎撃が揃ったのですか?」

 ディンが頷き魔導飛行バギーの屋根に載せられている魔導武器を指差した。

「ああ、フロリス砦は大丈夫なの?」

「落ちたという知らせがないので、おそらくは各領主軍と我軍が奮戦していると思われます」

「魔導飛行船の用意は終っているのだろうな」

 ダルバルが確かめるとカウレウス将軍が肯定した。


 予定では竜炎撃一〇〇本が揃った時点で魔導飛行船に乗って訓練場所まで行き、竜炎撃の射撃訓練を行った後フロリス砦へ飛ぶ事になっていた。

 国王が竜炎撃一〇〇本を確かめる為に練兵場までやって来た。それだけ新しい魔導武器を重要視しているのだろう。

 ダルバルが指示を出し魔導飛行バギーに積まれている竜炎撃を下ろした。

 本来なら槍を立て掛ける場所に竜炎撃が並べられていくのを見て、国王が満足そうに頷き、ディンとダルバルの所まで歩み寄る。

 国王はディンをハグし褒めた。

「シュマルディン、よくやった」


 ディンは照れたように笑ってから。

「当然の事をしただけです、陛下。それより竜炎撃は全部をフロリス砦に持っていかずに少しだけ王都に残した方が良いかもしれません」

 国王は意味が分からず首を傾げる。そこにカウレウス将軍が口を挟んだ。

「まさか、公国軍が魔導飛行船で王都を強襲するかもしれないと考えておられるのですか?」

「ミコトに相談していた時に、その可能性もあると言っていたのです」

 国王とカウレウス将軍が苦虫を噛み潰したような顔をして顔を見合わせた。

「陛下、魔導兵のほとんどがフロリス砦へ行っております。四本ほど王都に残しましょう」

「判った」



2016/10/1 誤字修正

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