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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第6章 戦乱と陰謀編
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scene:137 巨大蟻の逃走

感想を頂きました。ありがとうございます。

興味深く読ませて貰っていますが、時間の関係でほとんど返信できていません。

申し訳ないです。

 柏木三等陸佐は部下に付近の捜索を命じた。但し発見しても攻撃しないよう指示する。部下の装備する小銃では軍曹蟻を倒せないと判断したからだ。

 本来なら十分な数の対物狙撃銃が揃っているはずだったのだ。だが、特別作戦部隊が創設された時、大量の対物狙撃銃が新設された特別作戦部隊に集められ、柏木三等陸佐の中隊は後回しになった。

「ここが一番危険な場所だと判っていたはずなのに……新しもの好きのアホ共が」

 柏木三等陸佐が愚痴りたくなるのも無理はない。


 封鎖地域を拡大し自衛官たちが捜索を開始し始めた頃、異変に気付いたマスコミが集まり始める。


 東條管理官が自衛隊の現場責任者に巨大蟻捜索の協力を申し出たが、素気無く断られた。武器を持たない民間人には危険だと思われたのだ。

 その現場責任者は、柏木三等陸佐とは違い高そうな背広を着た人物で、マスコミ対策を含め防衛省から派遣されて来たらしい。

「ミコト君は優秀な案内人で魔物についても詳しいそうなんだ。手伝って貰えれば戦力になると思うんだが」

 柏木三等陸佐が推薦してくれた。しかし、その現場責任者は怪我でもされると責任問題になると断わる。


 東條管理官が難しい顔。

「どうかしたんですか?」

「現場の自衛官に協力して魔物の情報を仕入れ、JTGとしての対策を検討しようと思っていたんだが……あの現場責任者だと難しそうだ」

「そうですね。この後、どうします?」

「お前は帰って寝ろ。私はJTG本部に戻って情報を集める」

 俺自身、ちょっと疲れを感じていたのでアパートに帰って一眠りする事にした。軍曹蟻の事は気になるが、何か有れば東條管理官が連絡してくるだろう。


 迷宮都市なら自分で判断し積極的に対処するのだけど、ここは日本だ。若輩の案内人には何の権限もない。その代わり責任もないので気軽である。

 アパートに戻って眠った俺は八時頃に起きてテレビを点ける。

 報道番組で転移門から侵入した魔物について警戒するように呼び掛けていた。番組では海外でも同じような事態が起きているのを報道している。

 ロンドンとアメリカのフロリダ州マイアミ、フランスのマルセイユに魔物が現れたと報じていた。他にも中国や韓国にも魔物が現れ戦いが始まっていた。


 俺はスマホでメールを書き薫に日本に戻って来ていると知らせる。

 コンビニで買った菓子パンを食べ腹を満たすと児童養護施設の近くにあるパチンコ屋に向かった。転移門の出現場所である潰れたパチンコ屋である。

 パチンコ屋は俺と薫が共同で購入し改装中である。転移門が出現する地点は壁で囲み八畳ほどの小さな部屋になっている。

 将来的には研究施設として活用しながら転移門を利用する予定である。

 合鍵を使って中に入り、改装工事が何処まで進んでいるか確認した。中は綺麗に何もかもなくなり新しい壁紙を貼っている最中らしい。


 外に出て何となく町並みを眺めているとパトカーと救急車が児童養護施設の方へと向かうのを目に入る。

「何か有ったのか」

 児童養護施設へ向かった。ちょっとオリガに用があったのだ。児童養護施設の周りに野次馬の群れ。

 警官が外出は控え家の中に戻るように説得している。野次馬の一人に尋ね児童養護施設で起きた事件の内容を知った。

 出た魔物が軍曹蟻だったら住民たちも外出は控えただろう。けれど、現れたのはゴブリン。恐怖心よりも好奇心の方が強いようだ。


 ガヤガヤと騒いでいる人並みを掻き分け門に近付き、警官に児童養護施設の関係者だと言うと入れてくれた。

 殺人事件とかではないので立ち入り禁止にはなっていない。警察としてはゴブリンが犯人なので通常の事件としては扱わないようだ。


 児童養護施設に入りオリガを探す。

 オリガは奥の大部屋で絵本を読んでいた。

「聞いたぞ。ゴブリンが来たんだって」

「アッ、ミコトお兄ちゃん」

 オリガが駆け寄り体当りするように抱き付いて来た。オリガの頭にはヘアバンドが有りサイトバードが止まっている。俺がオリガの頭を撫ぜると嬉しそうな笑顔を見せる。

「ここの皆は大丈夫だった?」

「うん、タケシ兄ちゃんがゴブリンと戦おうとしたけど、おまわりさんが助けてくれたの」

 オリガの顔の表情が曇る。警官が怪我をしたと聞いたので、タケシを庇って負傷したのかもしれない。


 そこにタケシが部屋に入って来た。しょんぼりして肩を落としている。

「タケシ、ゴブリンと戦おうとしたんだって」

「ミコト兄ちゃんまで説教かよ。師範に散々説教されたからいいよ」

「師範が説教するのは当然だ。小学四年の子供がゴブリンに勝てる訳ないだろ」

 タケシが不満そうな顔をする。

「ミコト兄ちゃんがゴブリンは弱いって言ったんだぞ」

「エッ、俺が?」

 全然記憶にないが、子供たちと話している時にポロリと言ったかもしれない。

「そうだよ」

「まあ……魔物にしては弱いという意味だ。人間相手だとそこそこ強いんだ」

「早く言って欲しかったよ。おまわりさんが居なかったら、オレ斬られてたぞ」

「そのおまわりさんは命の恩人だな。お見舞いに行けよ」

「絶対行くよ」


 そんな話をしていると薫からのメールが着信。

 会って話がしたいとメールにあったので、学校の帰りに待ち合わせる約束をする。ちょっとテンションが上がる。オリガに薫と会うと話すと自分も会いたいと言い出した。

 オリガに頼み事も有り、一緒に出掛けるつもりだったので丁度いい。

「そうか。なら師範の許可を取らなきゃいけないな」

 香月師範の許可を貰い、俺とオリガは児童養護施設を出た。


 俺はオリガに軍曹蟻の捜索を手伝って欲しかったのだ。雷鳩を使って上空から探せば軍曹蟻が見付かるかもしれない。

 軍曹蟻は山の方へ穴を掘り地上に出た後は山岳地帯へ逃げたようだ。

 自衛隊もヘリを使って上空から探しているが、周辺には山々が連なっており苦戦中である。


 俺たちは電車で最寄りの駅まで行きタクシーで捜索エリアまで行く。特別作戦部隊も到着し共同で山狩りをしている。この情報は東條管理官から仕入れた。

 自衛隊は山へと続く道を封鎖していた。バリケードの近くには何台ものマスコミの車が停車し取材している。

 そこでタクシーを降り、暫くマスコミを眺める。


 俺たちはマスコミの後ろの方に有る大木の切り株に座って昼飯を摂る事にした。駅前の店で買って来たサンドイッチと炭酸飲料で腹を満たす。

 オリガは小さな口でサンドイッチを美味しそうに齧る。リスが樹の実を齧っているようで可愛い。

「美味しい?」

「うん、キャンプみたいで楽しいね」

 自然に囲まれた場所で食事すると異世界での生活を思い出し嬉しいようだ。

「ミコトお兄ちゃん、また迷宮都市に連れて行ってくれる?」

「ああ、学校が休みの時に行こうか」

「じゃあ、夏休みだ。ルキちゃんに会いたいな」


 オリガは自衛官の人たちを指差し。

「あの人たち何をしてるの?」

「この辺に大きな蟻が出たんだ。そいつを狩る為に探しているんだ」

「ふーん」

「オリガにも手伝って欲しいんだ」

「いいよ」


 俺は雷鳩を召喚し軍曹蟻を探すように頼んだ。オリガはサイトバードの召喚を解除し、改めて雷鳩を召喚する。

マスコミが居る場所から距離が有るので彼らは気付かない。

 オリガは<感覚接続《センスコネクト》>で雷鳩の視覚を共有する。次の瞬間、雷鳩は空高く飛び立った。

 上空で一周回ってから山の方へと飛んで行った。

 オリガには風で揺れる樹々の枝や下草の上で獲物を狙っている蟷螂、野ネズミを狙って這い回る蛇などが手に取るように見えた。

 雷鳩は山並みを舐めるように飛び、その全てをチェックする。一時間ほど飛んで栴檀の大木の梢で休憩してから、また飛び立った。

 四つ目の山を調査している時、木陰に黒光りする軍曹蟻の足を見付けた。雷鳩は風を操り方向転換する。軍曹蟻の群れだった。六匹の軍曹蟻が木陰で身体を休めている。


 雷鳩は一旦戻る。

「見付けたよ」

 オリガが誇らしそうに告げる。

「よくやった。何処に居るんだい?」

 オリガに軍曹蟻が潜んでいる場所を教えて貰った。東條管理官に電話を掛け軍曹蟻の居場所を伝える。東條管理官はどうやって調べたのか知りたがったので、山を駆け回って探したと答えた。

 東條管理官は本気にしていないようだ。ハンターに秘密は付きもの。その事は東條管理官も承知している。


 その情報は東條管理官から特別作戦部隊に伝えられた。

 まだ、薫との待ち合わせ時間までに余裕が有ったので、のんびりとマスコミの様子を眺めていた。

 暫くしてから、四駆のオフロード車に乗った東條管理官が現れた。予想外の事態である。東條管理官が来るとは思っていなかった。

 当然、オリガと一緒に居るのを疑問に思われる。

「なんだ……どうして、その子が居る?」

「この後、一緒に出掛ける予定なんです」

「山を駆け回って巨大蟻を探してたんじゃないのか?」

「探した後、オリガと合流したんです」


 苦しい言い訳をしている隣で、オリガが胸の前で腕を組みうんうんと頷きながら話を聞いている。

 そして、ちょっと噛みながら、唐突に意外な言葉を告げる。

「ふふふ……ボロを出しちゃわね。犯人はあなたよ」

 小さな指で俺を指差した。

 俺と東條管理官は『ハイッ?』と驚いてしまう。


 ニコニコしているオリガに何の事か尋ねると。

 オリガはテレビが見れるようになって二時間サスペンスに嵌ってしまったのだ。もちろん、アニメなどにも夢中になったのだが、俳優の演技や顔の表情が面白いそうである。

 俺と東條管理官の様子を見ていて、俺が動揺したのを感じたらしい。そこで透かさず二時間サスペンスで聞き覚えたセリフを言ってみたのだ。

 子供らしい意味不明の行動である。だが、オリガに動揺したと気付かれるようでは、俺もまだまだである。


 東條管理官が何だかバカバカしくなったようで、溜息を吐いている。

「東條管理官はこれからどうするんです?」

「巨大蟻が仕留められるのを確認に来た。ここも私が管轄する地域だから当然だろ」


 その頃、特別作戦部隊は困難な任務を開始しようとしていた。

 出動したのは特別作戦部隊第二小隊で、隊長は織部三等陸佐だった。この小隊に課せられた任務は巨大蟻を倒すというだけではなく、研究用に一匹か二匹捕獲するというもの。

 その為の装備を揃えるのに時間が掛かり出動が遅くなった。

 JTGからの知らせで軍曹蟻の居場所が特定出来た。小隊は巨大蟻を囲むように進み、山の中腹に居る軍曹蟻を上から追い立てるように攻撃を始める。


 対物狙撃銃を持つ隊員は六名、その他の隊員は小銃で巨大蟻を撃ちながら、時たま手榴弾を投げる。手榴弾は爆風と散らばる破片により人を傷付ける。だが、頑丈な外殻を持つ巨大蟻には手榴弾は無力だった。

 大したダメージは受けずとも、巨大蟻は逃げ出した。それは敵の数が圧倒的に多かったからでもあるが、逆襲しようと隊員に向かった軍曹蟻を対物狙撃銃の狙撃手が攻撃し確実なダメージを与えたからである。

 その逃走経路に予め隠れていた対物狙撃銃の狙撃手は、巨大蟻を狙い一匹ずつ仕留めていく。

「B5地点通過、目標は三匹に減少し予定通りの経路を逃走中」

 無線連絡を受けた織部三等陸佐は、用意した鉄の檻の方へと巨大蟻を誘導する。


 山から下りた巨大蟻は一時的にパニックを起こす。闇雲に逃げ場を探し動き回り、地面に丁度いい大きさの穴を見付けた。

 一匹が穴を見付け潜り込むと他の巨大蟻も続く。その穴の先は鉄の檻に繋がっていた。鉄の檻に巨大蟻三匹が入ると入り口の扉が織部三等陸佐の手により閉められる。

 鉄の檻に捕らえられた巨大蟻は何とか外に出ようと暴れた。それを満足そうに眺めた織部三等陸佐は、作戦終了を部下に告げる。


 自衛隊が封鎖していた地点で待っていた俺たちは、山の方から何台かの車両が近付いて来るのに気付いた。特別作戦部隊の車両とトラックである。

 逸早く気付いたマスコミがカメラを向ける。トラックの荷台には大きな箱のような物が載せられており、幌が被せられていた。

 バリケードの前でトラックが一時停車する。その荷台に有る箱がガタッガタッと音を出して揺れた。マスコミは音に気付き荷台に何が居るのか悟った。

「おい、巨大蟻を捕獲したみたいだぞ」

「ちょっと、その幌をどけて下さい」

 マスコミが群がって騒ぎ始めた。トラックが走り出すとマスコミも車で追い掛け始める。マスコミ同士が競争を始めた。一台のマスコミ車両がトラックを追い抜き横から撮影を始める。その時対向車線にワゴン車が迫って来た。

 慌てたマスコミ車両がトラックを追い抜こうとスピードを出し無理やり前に割り込む。トラックはマスコミ車両に追突しそうになり急ブレーキを踏んだ。

 追走していた他のマスコミ車両がトラックに追突し、トラックの荷台にある鉄の檻が荷台から投げ出された。道路に投げ出された鉄の檻が二転三転し扉が開く。


 トラックを追って来たマスコミは事故現場の周りに集まりカメラのシャッターを切る。幌がめくり上がり中に居る巨大蟻が少しだけ見えていた。

 二匹の巨大蟻が開いた扉から這い出して来た。トラックの前を走っていた自衛隊車両が急停車し、対物狙撃銃を持った隊員が走り寄る。トラックを運転していた隊員も頭に手を当てながらトラックを降り、マスコミが近付かないように警告する。

「駄目だ……近付くんじゃない!」

 巨大蟻が素早く対物狙撃銃を構える隊員に駆け寄る。それはダメージを与えられる武器を持つ敵が判っているような動きだった。


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