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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第6章 戦乱と陰謀編
137/240

scene:134 盗まれた補助神紋図

 日が昇ると同時に王都を出発した俺たちは、その夕方に交易都市ミュムルへ到着した。途中、交易都市から逃げ出し王都へ向かう人々を見た。それだけ戦禍が広まっているのだろう。

 探し出した宿屋は人気がなくほとんどの部屋が空いていた。俺たちは二階の角部屋を選んだ。二階に上がって窓から街を眺める。街全体がざわざわとして行き交う人々の顔が険しい。

「戦況はどうなんだ?」

 装備を解いて身軽になった東條管理官が尋ねた。

「ヴァスケス砦での戦いは熾烈を極め、王国側に大勢の死傷者が出ています。目当ての銃に似た武器を持つ部隊は砦の東南に布陣しているそうです」

 ディンから聞いた情報だった。ダルバル爺さんが配下の者を使って集めているのだろう。


「防衛体勢はどうなっているんだ?」

 国境線は二つの砦が支えている。その第一陣であるヴァスケス砦が陥落寸前らしい。第二陣が建設途中のフロリス砦である。以前からヴァスケス砦の背後に在るフロリス村を要塞化し砦とする計画が有り、少しずつ建設していたのだが、今回の戦いが始まり、急遽国を上げて完成を急がせている。

 フロリス砦は外堀と防壁が完成し、兵舎や倉庫などを作っている最中である。既に五〇〇〇人の兵士がテントを張って生活している。


 翌朝、魔導飛行バギーに乗った俺たちは、ヴァスケス砦へ向かった。フロリス砦には近付かず、大きく回り込んでルゴス大湿原の上を通過してヴァスケス砦の近くにある国境線まで到着した。

 国境線とは言え、万里の長城のような壁が有る訳ではない。自然の地形である川や山などを元に国境線が決められている。

 国境線を越えようと思えば簡単に越えられる。但し、それは数人単位の話しで、軍隊として考えた場合、大量の補給品を運ぶには道が必要だった。

 戦時中である現在は、兵士が国境線付近を守っているので少人数での越境も難しくなっている。


 俺たちは空から山を超え国境を超える。

 魔導飛行バギーを国境付近の山中に隠し、俺と東條管理官は銃に似た武器を持つ部隊が居る場所へと向かった。歩いて二時間ほどで、その部隊が陣を張っている空き地に辿り着く。

 ヴァスケス砦から二キロほどの荒れ地で、比較的平らな場所にテントを張り兵士たちが休んでいた。この世界の一般的兵士と同じ胴鎧を装備している。

 俺たち二人は忍び寄り、灌木の茂みに隠れて敵兵を観察する。

 武器は腰に山刀のような短い刃物と中折式の単発銃だった。火縄や火打石などが無いので、何らかの起爆薬を製造し散弾銃の弾のような形の銃弾を造り上げたようだ。


 兵士たちの話し声が聞こえて来た。

「おい、ヤベ・イットウリクイ殿は女の所へ行ったのか?」

「あの人、敵を殺すと血が騒いで一人じゃ眠れないんだと」

「全くしょうもないな」

「いいじゃねえか。この銃を作ったのは、あの人たちなんだろ」

 兵士の一人が大切そうに銃を撫で回す。


「俺はこいつで敵の指揮官を一人殺ってるんだ。報奨金をたんまり貰ったぜ」

「チェッ、運のいい奴だぜ」

 暫くの間、敵兵士の交わす言葉を聞いていて重大な事が判った。銃を作り出した者たちが自衛隊の人間だという事だ。それも一人二人ではなく大勢の自衛官がミスカル公国に味方している。

 俺たちが所属するJTGには日本に存在する全ての転移門の情報が集まって来る。しかし、ミスカル公国に転移する転移門の存在は知られていなかった。


 その時、兵士の一人がある人物の名前を上げた。自衛隊のリーダーが『イザヨイ』と呼ばれていたのだ。それを聞いた東條管理官のコメカミがピクリと痙攣した。

 東條管理官が離れようと合図をする。

 同時に一人の兵士が立ち上がって俺達の方へと近付いて来た。生理現象を催したのかベルトを緩めながら歩いて来る。

 こういう場合は見付からないようにと祈るしか無い。念の為、パチンコを取り出し鉛球をセットする。


 俺の祈りは天に通じなかったようだ。その兵士は俺たちを発見し大きな声を上げようとした。俺はパチンコで兵士を狙い素早く発射する。

 鉛球は兵士の胸に当たり昏倒させる。急所は外れたので死んではいないはずだ。俺と東條管理官は素早く撤退する。背後で兵士たちが騒ぎ始め、誰かが俺たちを発見した。

「敵だ。敵が居るぞ」

 大勢の兵士が追って来た。


「拙いぞ。どうする?」

 東條管理官が厳しい顔で尋ねる。

「俺が追撃を食い止めます。先に魔導飛行バギーの所へ行って」

 東條管理官を先に逃がす事にした。

 俺は立ち止まりパチンコで兵士を狙い撃つ。二人の兵士が倒れた。

「魔法だ。敵は魔法を使っているぞ」

 急に仲間が倒れたので魔法が使われたと勘違いしたようだ。兵士たちは散開し岩や灌木の影に身を隠し銃を構える。このままでは東條管理官まで撃たれてしまう。

 無詠唱で<閃光弾フラッシュボム>を発動させる。敵兵士が散開している真ん中に投げた。<閃光弾フラッシュボム>の激烈な光は兵士たちの眼を攻撃し一時的に盲にする。


 兵士の何人かが反射的に銃を撃った。殆どの弾は明後日の方角に飛んでいく。ただ一発だけが東條管理官の肩を貫いた。東條管理官が倒れるのが見えた。

 傷口から血がだらだらと流れ出し、東條管理官が苦痛に顔を歪めている。

「チクショウ、運の悪い……」

 俺は悪態をついてから、東條管理官を助け起こしベルトポーチから治癒系魔法薬を取り出して東條管理官に飲ませた。

「異世界に来て……じゅ、銃で撃たれるとは思わなかった」

「しっかりして」

 東條管理官に肩を貸して逃げ始める。眼が回復した兵士たちが銃を撃ち始めた。

「あいつら皆殺しにしてやろうか」

 俺はマナ杖を取り出し<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>を放つ用意をする。

「駄目だ。殺すんじゃない」

 JTGの職員としては部下に人殺しをさせるのは非常に拙い。JTG上層部にありのままを報告すれば、正当防衛だと認められる可能性が高い。しかし、問題にはなるだろう。更に大勢の人間を殺した案内人としてミコトの経歴に傷が残る。そんな考えが東條管理官の脳裏に浮かんだ。


「わ、私は大丈夫……お前なら敵を足止めして逃げ切れるはずだ」

 珍しく部下を信頼しているような東條管理官の言葉の中に、ある種のやせ我慢を感じた。魔法薬を飲んだとしても、相当な痛みが有るはずなのだ。

 東條管理官の顔を見ると苦痛で歪んでいるが、その奥に何かふてぶてしいものが覗いている。その顔を見て、後で問題になるのが嫌なだけじゃないのかと考えてしまった。……邪推だろうか。自分の命も掛かっているのだ。部下を信頼していると思っておこう。


 魔粒子を添加しない<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>を放った。大気を集め圧縮した状態で発射し爆発させたのだ。爆風や轟音は響くが魔粒子を添加した時に比べると威力は一割ほどしか無い。

 それでも敵兵は爆風で吹き飛ばされた。その隙に俺と東條管理官は逃げ出す。


 何とか魔導飛行バギーを隠した場所まで戻り、空を飛んで撤退する。ヴァスケス砦を超えた地点で着陸し、東條管理官の傷の具合を診る。

「魔法薬が効いたみたいです。出血が止まり傷が塞がり始めてます」

「魔法薬か……凄いものだな」

 荷物の中に有った塗り薬を傷口に塗り、包帯を巻く。弾は貫通し体内に残っていないようだ。


 少し休憩してから、交易都市ミュムルまで戻って来た。

 宿屋の部屋に入り、やっと一息つく。

「奴ら何を考えているんだろうな?」

 東條管理官が唐突に質問した。

「奴らって? 敵兵の中に居る自衛官たちですか」

「そうだ。ヤベ一等陸尉とかイザヨイとかの名前が出ただろ。明らかに日本人で自衛官だ」

 知り合いの自衛官はまともな考えを持つ人間ばかりだったので、一部の自衛官が密かに何か画策している可能性が高いと考えた。

 東條管理官が知りたいのは奴らの狙いだろうが、全く判らない。


「少なくとも自衛隊の一部がミスカル公国への転移門を隠しているのは明らかです。それ以外は分かりません」

 東條管理官が溜息を吐いた。

「はあ、日本に帰って調べるしか無いな」

「それより『イザヨイ』と言う名前を知っているんですか?」

 『イザヨイ』と言う名前を聞いた時、東條管理官の顔に反応が有ったのを見逃してはいなかった。東條管理官は躊躇ったが正直に告げる。

「陸自に十六夜いざよい一等陸佐と言う人物が居るんだが、代議士加藤大蔵のブレーンをしている」

 久々に加藤大蔵の名前を聞いてげんなりした。聞きたくない名前だったのだ。


「加藤大蔵が何か企んでいるのか。関わりたくないですね」

「他人事じゃいられないぞ。もし私の推測が当たっていて、今回の王国への侵略が失敗すれば、息子の大輝が絶対に乗り込んで来るからな」

 鼻持ちならない馬鹿息子を思い出し、うんざりする。

「東條管理官が報告すれば、芋づる式に加藤大蔵まで逮捕出来ないんですか?」

「聞いた名前が『イザヨイ』と言うだけだ。無理だろ」

 その日は宿屋で休養を取り、一刻も早く迷宮都市に帰る為に、翌朝早く出発した。東條管理官が、次のミッシングタイムである四日後に日本へ帰りたいと言い出したのだ。


 交易都市ミュムルから、西へと進み魔物の住む森の上空を突っ切って三本足湾を渡った。魔物の住む森には空を飛ぶ魔物も居るので危険な旅だ。かなりの強行軍をして三日で迷宮都市に戻って来た。

 趙悠館に戻り、東條管理官を医師二人に預けると、食堂に居た伊丹さんとアカネさんに査察が無事に終わった事の報告を受けた。


 その後、部屋に戻った。部屋に入ろうとして鍵穴に鍵をそうとした時、鍵穴に傷が付いているのが目に入った。

「オッ、どうしてだ」

 明らかに鍵をこじ開けた痕だった。鍵を開け中に入る。ざっと見渡すと賊が入った様子はない。出た時と同じだと思った。

 ところがよく見ると、数少ない家具の一つである鍵付きの収納棚が荒らされていた。分厚い板で作られた四段の棚には扉が付いており鍵が掛かるようになっている棚である。

 下二段は金貨や魔晶玉などが入っていた。上二段には予備の魔法薬や簡易魔導核の補助神紋図と一緒に入っていた。

 金貨や魔晶玉は当座の資金や実験で使おうと思っていたものだ。大半の資金はギルドの貸し金庫に預けてある。


 上二段の棚の鍵が壊され、中に有った簡易魔導核の補助神紋図が消えていた。その補助神紋図は一番初めに薫が描いたもので、改良型の補助神紋図を研究する時の参考用に保管していたものだ。

 その他の補助神紋図はダルバル爺さんに原本を渡し控えも作らなかった。全ては自分の高密度記憶領域に記憶しているので俺自身は問題ない。一つだけ紙で残したのは眺めながら考えるとアイデアが浮かぶからだ。


 部屋を細かく調べると誰かが何かを探している痕跡が有った。テーブルの上に置いてあった筆記用具や本の位置がずれてた。掃除をしていなかったので薄っすらと埃がテーブルの上を覆っており、物を動かした痕が残っているのだ。

 ふと見ると床に植物の種のようなものが落ちていた。米粒ほどの大きさの菱型の種だ。

「犯人が持ち込んだ痕跡だろうか?」

 拾い上げ、テーブルの上に置いた。


 俺は東條管理官と伊丹さん、アカネさんを部屋に呼んだ。

「何か有ったのでござるか?」

 伊丹さんは部屋に入ると目を細め、鍵が壊れている棚を凝視する。アカネさんと東條管理官も驚く。

「この仕事はプロの仕業じゃないな。痕跡を残さないように気を付けているが鍵開けの技術が中途半端だ」

 警視庁で刑事たちの指揮をしていた経験のある東條管理官が告げた。


「何が盗られたのでござる?」

 伊丹さんの問いに、補助神紋図を盗られた事を話すと皆が深刻な顔になった。簡易魔導核の補助神紋図は王国にとって戦略的価値のある重要なものだ。

「誰の仕業か……疑わしい奴が多過ぎる」

 補助神紋図の存在を知っている魔道具職人の誰か。オラツェル王子やモルガート王子の配下など疑い出したらきりがない。

「……ん……ちょっと……賊はこの部屋だけに入って補助神紋図だけを盗んだのよね」

 アカネさんが何か気になるようだ。


「それがどうしたのでござるか?」

「外部の人間が、ミコトさんの部屋がここだと判るのかしら」

 アカネさんの疑問に東條管理官が応える。

「趙悠館を見張っていれば、部屋の場所は判るんじゃないか」

「駄目です。A棟の部屋の半分、この部屋も含め、窓が中庭の常緑樹の方に向いていて趙悠館の外からは見えません」

「犯人は趙悠館に出入りしている人間……査察チームの者も含めるべきか」

 東條管理官が警察関係者の目になっている。


「査察チームの人は違うんじゃないですか。補助神紋図の事なんか知らないでしょ」

 俺の反論を聞いて、東條管理官が俺をじろりと睨んだ。

 東條管理官はミトア語が話せるようになると積極的に現地の人々と会話するようになった。特に猫人族のルキたちとは親しくなり、俺について詳しい情報を聴き出したようだ。ルキたちに東條管理官を紹介する時に親戚の伯父さんだと言ったのが拙かったらしい。特にマポスは東條管理官に訊かれるまま答えたのだ。

 俺が報告書に書かなかった補助神紋図や簡易魔導核についても聞き出したようで、コブラツイストを食らった。

 はたから見ていると俺と東條管理官がじゃれているように見えるらしい。だが、技を食らっている俺は非常に痛く苦しいのだ。

 完全なパワハラだと東條管理官に抗議しても、お前が悪いと言われただけだった。


「可能性の問題だ」

 東條管理官が俺の反論を却下した。アカネさんがテーブルに置いてあった種を持ち上げ。

「この種はどうしたの?」

「床に落ちていた」

 俺が答えるとアカネさんと伊丹さんが、何かに気付いたようにハッとした表情をする。

「その種がどうかしたのか?」

 東條管理官が尋ねると伊丹さんが。

「樹海の転移門近くに繁殖していた花の種でござる」

 犯人の靴か服に付いていて、盗みを働いていた時に落ちたのなら……査察チームの中に犯人が居る可能性が高くなった。


「そうなると何故、査察チームの人間が補助神紋図の事を知っていて、欲しがるのかが判らない」

 俺が疑問を口にすると、東條管理官が腕を組んで考え込んだ。

「もしかしたら……ミスカル公国のスパイが簡易魔導核の事を気付いたのか……それで査察チームの誰かに盗んで来るように依頼したのかもしれん」

 東條管理官が独り言のように言う。

「意味が判りません。どうしてミスカル公国と査察チームが結び付くんです?」

 アカネさんが疑問の声を上げた。俺は国境付近での出来事を語り、ミスカル公国と加藤代議士が組んでいる可能性が有ると告げた。


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