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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第6章 戦乱と陰謀編
136/240

scene:133 焼き肉パーティーと野盗

 その日の夕方、趙悠館の庭で焼き肉パーティーの準備が進められていた。

 丸太を輪切りにしただけの物が椅子とテーブルの代わりに並べられ、その中心に四角い火鉢のような物が置かれた。火鉢は半分ほど灰で満たされていて、その上に炭が盛られる。五徳のような物が置かれ炭に火が点けられた。

 最後に焼肉屋でよく見る長細い穴の空いた鉄板が五徳の上に乗せられ準備は整った。


 参加者はオディーヌ王妃とサラティア王女とディン、日本から来た依頼人、ルキたちや趙悠館で働くおばちゃんたちなどである。ポッブスも呼びたかったが、ギルドの依頼で魔光石を取りに行ったそうだ。

 もちろん、参加したがっていたアルフォス支部長も呼んである。


 支部長が一抱えも有りそうな竜肉を持って来ていた。厨房で薄切りにし野菜と一緒に皿に盛ったものをおばちゃんたちが運んで来る。

 ルキは目をキラキラと輝かせ、口を半開きにして竜肉を見ている。タレはアカネさんが査察チームと出発する前に作った特製のものを用意した。

 俺はディンたち王族と一緒の席である。成人男性には冷えたエール、女性や未成年者にはジュースが配られ乾杯からパーティーが始まった。


 サラティア王女はこういうパーティーは初めてらしく興味深そうに周りを見ている。竜肉の脂身を熱い鉄板の上に落とし油を広げる。この脂身の脂が美味いそうだ。

 それだけで何とも言えない美味しそうな香りが広がった。

 俺は菜箸を使って肉や野菜を鉄板の上に並べていく。他の者はトングに似た器具を使っている。


 オディーヌ王妃とディンは趙悠館での生活や太守館での勉強について話している。一方、王女は俺が鉄板の上で肉や野菜をひっくり返しているのを黙って見守っている。


「ルキ、まだ焼けてないでしょ」

 ミリアの声がした。我慢出来なくなったルキが半焼の竜肉に手を出したらしい。

「まだ焼けないのか?」

 ディンがジレたように訊いて来る。俺は肉の焼色を見ながらもう少しと返答し、小皿にタレを注ぎ、皆に配る。

「よし、焼けた」

 菜箸で肉と野菜を皿に盛り王妃の前に置く。

「どうぞ、お召し上がり下さい」

 王女の分はディンがトングで皿に載せ「食べて」と置いた。

 こういう食べ方は初めてのようなので、菜箸をフォークに持ち替え焼き肉をタレにつけ口に運ぶ。食べ方の見本である。

 竜肉を口に入れた途端、甘い脂が口に広がり味覚を刺激する。噛み締めると最高級の牛肉以上の旨味を感じ自然と笑顔になった。普段は安物の肉か魔物の肉しか食べていない俺だが、この竜肉の美味さが特別なのは舌に感じた。

「こ、これが竜の肉なんだ。物凄く美味い」

 俺が呟くように言う。


 ディンが辛抱出来なくなったように肉を口に運ぶ。そして、最高級の料理を食べているはずの王族も絶賛する。

「うわっ、本当に美味いよ」

 それを見た王女と王妃も肉をタレに付け口に運ぶ。その顔が笑顔になった。

「美味しい。凄く美味しいです」

「王城でも食べた事のない竜肉を食べられるなんて、思っても見ませんでした」

 それを聞いた俺はホッとした。ディンと王女ばかりか王妃も夢中になって食べ始めた。


 もちろん、ルキたちもあまりの美味さに感動しながら「美味い」と言い合い、夢中になって食べる。ルキなどは身体で美味しさを表現する為に腰を振って踊り出す。……踊り出すほど美味いという意味だろうか。

 伊丹さんやアカネさんにも食べさせたい。アルフォス支部長に竜肉の保存方法や賞味期限について聞いてみると思っていた以上に傷み難いのが判った。

 魔粒子が多く含まれる加工しない魔物の肉は低温の場所に置いておけば一ヶ月くらいは美味しく食べられるそうだ。牛肉も温度が0度か1度の場所で熟成させるドライエージングという方法で二〇日ほど保存させると美味しくなるらしいので、竜肉も熟成させると美味しくなるかもしれない。

 アルフォス支部長に五〇キロほどをギルドの冷蔵施設で保存してくれるよう頼んだ。これで暫くは美味しい竜肉を堪能できる。


 王妃が国王陛下にも食べさせて上げたいというので三キロほどをディンが国王へ献上する事になった。

 その夜の焼き肉パーティーは盛り上がり、参加した皆が満足して終わった。


 翌朝、俺と東條管理官を乗せた魔導飛行バギーとディンたちを乗せた魔導飛行バギーが揃って迷宮都市を離れた。王都まで二日の予定である。

 横風を受けながら魔導飛行バギーは順調に進んだ。横風を考慮し軌道修正するのは面倒だが、方向転換用スラスターは強力で、横風を相殺するだけの出力を持っていた。

 午後になってから風が逆風になった。モケフル村に到着し一泊する予定が、その手前で陽が落ちた。仕方なくオウテス街道の脇に在った草地で一泊する事にした。


 この辺りは魔物の住処である樹海や山脈から遠いので、滅多に魔物と遭遇する事はない。気を付けなければならないのは野盗の類である。

 魔導飛行バギーの屋根(浮揚タンク)の上にはテントや寝袋などが載せてあり、それを降ろして野営の準備を始めた。俺と衛兵たちがテントを張っている間に、ディンと東條管理官には薪を拾って来て貰う。

 素早くテントを張り、焚き火を起こす。手慣れたものである。


「こういうのは、子供とキャンプに行って以来だな」

 焚き火の前に座った東條管理官がポツリと漏らした。

「ええっ、結婚してたんですか」

 俺が驚いたので東條管理官が眉を顰めた。

「私が結婚しているのが不思議か?」

 東條管理官の声に怒りが少し篭っている。

「いえ、そういう訳では……ただ東條管理官は仕事一筋の人だと思ってたんで」

「ふん、出来る男は仕事と家庭を両立させるものだ」

 ……何が出来る男だ。無茶ばかり言いやがってと心の中で言い返す。


「ミコト、風呂に入りたい」

 無理だと判っていて言うのが東條管理官である。愚痴のようなものだと判っているのだが、面倒だ。

「こんな時こそ、<洗浄ウォッシュ>を使って下さい」

「何だと、<洗浄ウォッシュ>は身体も洗えるのか。洗濯の魔法だと思っていた」

 趙悠館にいる間は風呂が有るので<洗浄ウォッシュ>は洗濯に使っている。だが、本来は旅先などで身体の汚れを落とすのに使う。

 東條管理官は試してみる事にした。鎧などの装備や服を脱ぎ下着姿になって自分の身体に対して<洗浄ウォッシュ>の呪文を唱える。

 魔粒子が水に変化し身体を包み込むと同時に身体の周囲に渦を作った。皮膚に付着している汚れを包み込んで排除すると水は身体から離れ地面に撒かれた。この時、下着も洗浄される。

「なるほど、風呂ほどではないが、さっぱりするな」


「便利な魔法ですね」

 ラシュレ衛兵隊長が声を上げた。

「『魔力変現の神紋』の応用魔法だよ。僕だって出来る」

 ディンが自慢そうに服を脱ぎ、<洗浄ウォッシュ>を実行する。ディンはまだまだ子供である。これまで王城の離宮で大切に育てられ、三男であるが故に本格的に帝王学も学んでいない。

 迷宮都市に来てからハンターの真似事をするようになったが、俺と出会わなければ命を落としていたかもしれないひ弱な少年だった。

 最近では俺と伊丹さんに鍛えられ、中堅ハンター並みの技量を持つまでになっている。但しまだまだ考えが甘く思慮が浅い点が欠点である。


 その日は簡単な食事で腹を満たし交代で見張りをしながら寝る事にした。見張りは俺・ラシュレ衛兵隊長・もう一人の衛兵の順番に決まった。

 他の者がテントに入り寝ると焚き火の傍に座って見張りに着く。

 周りは完全に日が落ちて暗闇となっている。風が草を揺らす音や虫の鳴き声以外は静かである。


 静かな夜は人を物思いにふけらせるようで『竜の洗礼』について考える。

 灼炎竜との戦いでは最後に気を失ってしまった。その間、灼炎竜の強烈な魔粒子を浴びた俺と伊丹さんの身体は変化を起こしていた。

 最初に気付いたのは治療院から趙悠館に戻った後、<冷光コールドライト>を使おうと呪文を唱えようとした時だった。


 呪文を思い浮かべようとすると心の中に神紋記憶域の鮮明な構造が浮かび上がった。この現象には覚えが有った。加護神紋を改造する時に脳内に大量の魔力を流し込んだ時に起こる現象と同じだった。

 今回は魔力を流し込んでいないのに神紋記憶域の構造が浮かび上がった。神紋記憶域は蜂の巣のような構造をした漆黒の板に楕円形の加護神紋が嵌め込まれているイメージである。

 その漆黒の板に加護神紋が五つ並んでいた。一つだけ二回りほど大きな加護神紋が有る。第四階梯神紋の『時空結界術の神紋』だろう。

 加護神紋の表面には神意文字や神印紋が浮かんでおり、そこに応用魔法の付加神紋術式が瘤のように付いている。


 <冷光コールドライト>を使おうとしていたので『魔力変現の神紋』を改造した『錬法変現の神紋』が鮮明に浮かび上がった。

 通常なら呪文を唱える必要のある応用魔法だが、今なら瘤のように付いている付加神紋術式に魔力を流し込めば起動しそうだと感じ、その通りにすると<冷光コールドライト>が発動した。

 俺は無詠唱で応用魔法を発動する方法を手に入れたらしい。とは言え、実戦で無詠唱の応用魔法を使うには修行が必要なようだ。


 一人見張りを始めて二時間ほど経過した頃、風が草を揺らす音の中に不規則な音が混じり始めた。どうやら何かが近付いて来ているようだ。

 無詠唱で<魔力感知>を発動する。十二人の人間が気配を消して近づいて来る。

 俺は東條管理官やディンたちを起こした。

「……ん……どうした?」

 東條管理官が不機嫌な声で尋ねる。

「不審な者が近付いて来ます。もしかしたら野盗かもしれない」

 それを聞いたラシュレ衛兵隊長が人数を訊く。

「十二人だ」

「僕らの倍以上じゃないか」

 ディンが心配そうな顔をする。だが、本当に野盗なら、それほど心配する必要はない。平均的な野盗は、一般兵士より弱いからだ。

 但し街で悪さをして逃げ、野盗になった者の中には凄腕の奴も居るかもしれない。


 ラシュレ衛兵隊長がディンを魔導飛行バギーに乗せ、すぐに飛び立てるように準備させた。ディンは自分も戦うと言い張るが、ラシュレ衛兵隊長が許さなかった。

「ミコト、どうする?」

 東條管理官が尋ねた。

「俺と東條さんで<閃光弾フラッシュボム>を投げてから、俺が飛び込みます。討ち漏らした奴を倒して下さい」

 ラシュレ衛兵隊長が声を上げる。

「我々も行こうか?」

「いや、<閃光弾フラッシュボム>で目潰しするので一人で十分です。ディンの警護をして下さい」

 別段強がっている訳でも格好を付けている訳でもない。野盗など樹海や迷宮の魔物に比べれば雑魚なのだ。奴らの姿が見えた。男たちが手に得物を持っているのを確認し、単なる旅人ではなく野盗だと判断した。


「「……<閃光弾フラッシュボム>」」

 同時に二つの<閃光弾フラッシュボム>が野盗の間に投げ込まれた。強烈な光が野盗の眼を焼く。

「うわーっ!」「眼が……」「クソッ!」

 野盗の間から喚き声と悲鳴が起こった。姿を現した野盗たちはむさい格好の男たちばかりだった。

 俺は素手で野盗の間に飛び込んだ。一番近くに居た三人に右脇腹へ左フック、左脇腹への右フック、鳩尾に中段突きを叩き込む。

 その拳打はヘビー級ボクサー並みの威力を持っていた。特に左脇腹に右フックを叩き込まれた男は衝撃で身体をくの字に曲げ藻掻き苦しみ始める。

「倒れている奴を縛り上げてくれ」

 俺は衛兵に向かって叫んだ。


 残り九人。

 まだ眼を押さえて苦しんでいる野盗に近付き、拳を叩き込む。俺は邪爪鉈を使わなかった。使えば必ず殺す事になるからだ。これは人道主義とかは関係なく、俺自身が人を殺す事に慣れたくないのだ。

 異世界と日本との二重生活を送る案内人が争い事を力で解決する事に慣れてしまい、日本で問題を起こす事例が増えている。

 人を殺す事に慣れてしまい、日本でもと考えるとゾッとする。


 六人目を倒した頃、目が見えなかった野盗が回復した。見えるようになった野盗は、俺の方へ三人、ディンたちの方へ三人に分かれて向かった。

「糞野郎が……変な魔法使いやがって」

 野盗の一人が山刀を持って斬り掛かって来た。伊丹さんの斬撃に比べれば、ガキのチャンバラのようだ。

 上段から斜めに襲って来る刃を半身になって躱し、一歩踏み込んで顎に拳を叩き付ける。一撃で敵の意識を刈り取った。


 休む暇もなく、今度は二人同時に襲って来た。左から斧を持った大男、右から短剣を持ったネズミ顔の男だ。水平に斧を振り回す大男の攻撃を後ろに飛んで避ける。ネズミ顔が追撃して来る。

 素早い動作で突き出される短剣を左手の甲殻籠手で払い、ネズミ顔に右フックを減り込ませる。ネズミ顔が大きく歪み、身体を一回転させ地面に沈んだ。

「よくも……テリヤを」

 大男が物凄い顔をして斧を振り回し始めた。用心深くなり必死で斧を振るう大男を見て躯豪術を使おうと決める。


 躯豪術も『竜の洗礼』を受け進化していた。体内を巡る魔力量が格段に増え、その速度も速くなっていた。今の状態なら全身の筋肉に魔力を流し込みながら一〇分間のフル戦闘が可能だった。

 魔力を全身の筋肉に流し込むと信じられない程の力が湧き上がる。戦っている最中だというのに胸が高鳴り笑みが浮かぶ。


 大男の斧が己の胴を薙ぎ払おうとするのを蹴りでかち上げ、懐に飛び込んで右掌底を大男の胸に捻り込む。胸が陥没し肋骨が折れる手応えを覚え、大男が弾け飛んだ。

「やり過ぎたか……」

 周りを確認するとディンの方へ向かった野盗はラシュレ衛兵隊長たちにより斬り殺されていた。


「ミコト、生きている奴らはどうするんだ?」

 東條管理官が惨状を眺めながら質問する。俺は面倒だと考えながら。

「次の村に運んで罰を受けて貰います」

 たぶん野盗全員が死刑になるだろうが、それは王国のルールに従って裁かれた結果である。

 その日の夜、最後に戦った大男が死んだ。どんな奴の死であろうと嫌なものだ。

「大丈夫か?」

 東條管理官が珍しく俺の事を心配し声を掛けた。

「大丈夫、初めてじゃないから」

「そうか……案内人という仕事は思っていた以上に過酷なものなんだな」

 らしくない東條管理官の言葉を聞いて苦笑した。


 翌日、生き残った野盗をモケフル村まで連れて行き村人に引き渡した。村の近くで野盗が出没するようになって、村人は困っていたようだ。

 こういう村には簡単な牢屋がある。この村の牢は洞窟に木の格子を嵌めたもので、一〇人ほどは入れそうだ。ここに野盗を入れ町から役人が来るのを待つ事になる。


 その日は追い風で夕方には王都に到着した。ディンたちは城へ行き、俺と東條管理官は前に宿泊した宿屋に泊まった。

 翌朝、ディンが国王と宰相の前で竜炎撃の威力を披露し、竜肉を献上した。国王と宰相は驚くと同時に喜んだ。

 もう少し詳しい話を聞きたかった宰相が、俺たちの泊まった宿に使いを寄越したらしいが、その時はもう王都を離れ交易都市ミュムルへ向かって飛んでいた。


2016/7/31 修正

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