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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第6章 戦乱と陰謀編
128/240

scene:125 査察チーム

今回より、新章『第6章 戦乱と陰謀編』となります。

 大物代議士加藤大蔵の別荘に一台の車が停まった。ドアが開き一人の人物が別荘に入る。主人の部屋に案内された人物はソファーに深々と座っている政治家に頭を下げ挨拶をする。

「座りなさい」

 大蔵がしわがれた声を上げると、その人物は急いでテーブルを挟んで対面にあるソファーに座った。

「君に来て貰ったのは、マウセリア王国の迷宮都市へ行くと聞いたからだ」

「迷宮都市で何か有るのでしょうか?」

「あの街で、廉価な魔導武器を製作する方法が発見され、大急ぎで大量の魔導武器を製作しているらしいのだ。それを詳しく調べて来てくれ」

「判りました。それで何処まで調べればいいのでしょう?

「開発者が案内人らしいのだ。それが本当なら案内人が魔導核に刻まれる補助神紋図を持っているに違いない。それを手に入れろ」

「しかし、転移門では持ち帰れません」

「手に入れたら、魔導師ギルドのポクデルに渡せ」

「承知しました」


  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


 俺は日本に戻っていた。今回は転移門査察チームを案内するのが仕事である。異世界において戦争が始まるかもしれないと言う時に査察なんてと思ったが、そういう時期だからこそ、オーク共が何か画策するかもしれないと言われた。


 転移門管理委員会から二人、それに査察チーム専属の警護官二名で査察チームとなる。

 東條管理官から査察チームのメンバーを紹介された時、酷く驚いた。テレビで見た覚えのある顔が有ったからだ。転移門管理委員会の一人糸井翠子は元女優の政治家であった。俺が知っているのは彼女の芸名だったので、本人に会って初めて、好きだったドラマに出ていた女優だと気付いた。

「凄いな、初めての有名人だ」

 俺が呟くと東條管理官が鋭い視線を向けて来た。

「言っておくが、サインなんて強請ねだるんじゃないぞ。上司として恥ずかしいからな」

「写真は?」

「駄目に決まっているだろ」

 俺は政府の役人が査察すると聞いていたので意外に思った。話を聞くと糸井議員が異世界に行きたいと言い出し急遽役人と交代したらしい。実際の査察はもう一人の男性が行うので問題ないようだ。


 今回の異世界行きには東條管理官も同行する。目的はパワーアップであるが、査察チームがどんな調査をするかも気になるのだろう。

 御島町三丁目にある倒産した工場跡は政府により買い上げられ、自衛官が警備する封鎖地区となっていた。高い塀と鉄条網に囲まれた場所の中心に転移門が現れるポイントが有った。

 警備している自衛官にJTGが発行した身分証明書を見せ中に入る。後には査察チームと東條管理官が続く。


 転移門のポイントまで来るとミッシングタイムが訪れるのを待つ。

「ミコト、最近の報告書でエヴァソン遺跡で土砂崩れが有ったと報告しているが、転移門には影響はないのか?」

「五階から上の部分が埋まったけど、転移門の有る二階テラス区には影響ありません」

「土砂崩れの原因は雨なんだな?」

「そうです。ドラゴンとかが現れて崩した訳じゃないので安心して下さい」

「ドラゴンの心配なぞしておらん。これ以上の土砂崩れが発生するかどうかを心配しているんだ」

 俺は土砂崩れの心配はないと告げた。実際に土砂崩れが起こったのは旧エヴァソン遺跡の方で、それも数百年も前の話である。


「そのエヴァソン遺跡の近くに居る魔物について教えてくれる?」

 糸井議員が魔物について尋ねた。

「近くに居る魔物で危険なのは、大鬼蜘蛛と雷黒猿かな。他は海の魔物が少々と双剣鹿、鎧豚、陰狼かげおおかみとかですね」

 転移門管理委員会のもう一人車田一郎が魔物についての詳しい情報を尋ねるので、少し説明する。

「大鬼蜘蛛は体長三メートルほどの巨大な蜘蛛です。こいつは麻痺毒の有る毛針を飛ばす能力が有るので要注意なんです。一方、雷黒猿は巨大な大猿で額に雷撃を出す黒い水晶のような角を持つ危険な奴です」

 魔物の説明を聞いた車田は身震いする。この知的だが線の細い人物は地政学を専攻する准教授で、現在は異世界のパワーバランスについて研究しているらしい。


 元機動隊の警護官、橋本伝助はしもとでんすけが質問をする。

「そいつはルーク級なのか?」

「いえ、もう一つ上のナイト級。韓国で暴れた帝王猿と同レベルです」

 女性警護官である佐々木詩織(ささきしおり)が目を大きく見開く。

「そんな魔物に遭遇したら、どうするの?」


 俺が答える前に、東條管理官が口を挟んだ。二人に笑顔を向け。

「もちろん倒しますよ。彼は一流の案内人ですから」

 二人の警護官は感心したように頷いているが、東條管理官の言葉を信じていないようだ。あからさまに疑惑の視線を俺に向けて来る。

 俺は視線を無視して二人に質問した。

「二人は異世界での訓練を受けているんですよね?」

 橋本が頷き、東北地方の案内人から訓練を受けたと答えた。ガッチリした体格の橋本は棒術を習っており、異世界では狼牙棒のような武器を使っていたらしい。神紋は『疾風術の神紋』を所有し<疾風刃ガストブレード>が得意だと言う。

 もう一人の佐々木さんは女子プロレスラーのようなパワフルな感じの女性で、弓が得意なのだそうだ。神紋は珍しい『幻影夢の神紋』を所有している。


 ミッシングタイムが訪れ、俺たちは異世界に転移した。


 転移した先はエヴァソン遺跡ではなく、塩田の開発場所を探し歩いていた時に発見した旧エヴァソン遺跡の方だった。原因は判っている。俺が転移門の金属盤を交換したからだ。

 犬人族に頼んで旧エヴァソン遺跡を犬人族が住むエヴァソン遺跡と同じになるように整備させていた。

 旧エヴァソン遺跡と本来の遺跡との違いは、土砂崩れで上部テラス区が潰れ使えない事と二階テラス区から見た海の景色が若干違う事である。もちろん細かい相違は数多く在る。

 だが、俺が作った報告書を読んだだけなら、ここをエヴァソン遺跡だと思い込むだろう。


 査察チームには旧エヴァソン遺跡を本来のエヴァソン遺跡だと思って欲しかった。この後、自衛隊が異世界側の転移門を警備するようになった時、旧エヴァソン遺跡の方に駐屯させたいからである。

 本来のエヴァソン遺跡には、報告していない幾つかの秘密が有り、自衛隊を駐屯させると非情に拙いのだ。


 但し、それには問題がある。東條管理官は以前に二、三日だけだが、エヴァソン遺跡に滞在している。あれから細かい部分を忘却するには十分な月日が経過していた。それに安全の為に転移門の有る部屋で大半の時間を過ごしたので周りの景色はそれほど覚えていないはずである。

 翌朝、外の景色を見て東條管理官がどういう反応を示すかで、東條管理官に事情を打ち明け仲間に引き入れるかどうかを決めようと思う。


 俺は行動を開始した。部屋の隅から魔道具の照明器具を取り出し明かりを点ける。そして、査察チームと東條管理官の為に服と履物を用意する。

 その頃になって、意識を取り戻した他の者たちが立ち上がって服を着る。照明器具の周りに座り込んだ査察チームの一行は、やっと声を上げ始めた。

「この後、朝になったら周りを調査する予定になっています。よろしいですね」

 糸井議員が予定を口にし皆が頷いた。

「俺たちの装備は用意してあるのか?」

 警護官の橋本……いや、デンスケが尋ねた。俺はデンスケとシオリに革鎧と武器を渡した。武器はデンスケに短槍、シオリに弓矢である。狼牙棒は用意出来なかったので短槍になった。


 東條管理官が俺を呼び寄せ小声で尋ねる。

「例のものは用意出来ているのか?」

「知識の宝珠ですか……もちろん用意しました。しかし、三〇〇万円ですよ。いいんですか」

「将来への投資だ。ミトア語とオーク語は必ず必要になる」

 東條管理官はパワーアップの第一弾として、異世界の言語を習得するつもりのようだ。


「ちょっと、こそこそ何を話しているの?」

 糸井議員が俺たちの会話が気になったようで訊いてきた。俺と東條管理官は顔を見合わせる。東條管理官が仕方ないというように正直に答えた。

「ミコトの案内には特別なオプションが有りまして、その相談をしていた処です」

「オプション……何の事です?」

「ここらの迷宮で『知識の宝珠』と言う魔道具が偶に手に入るんです。ミトア語の知識を授けてくれる素晴らしい魔道具です」


 糸井議員の眼がギラリと光った。

「そのオプションは今からでも申し込めるの?」

「待って下さい。これは高価で特別なオプションなんですよ」

「幾らなの?」

 俺でも知っている元有名女優である。金は有るようだ。結局、議員の『知識の宝珠』を用意する事になった。

 准教授や二人の警護官も興味を持ったが、金額を聞いて諦めた。


 翌朝、外に出た俺たちは、朝日の光を浴びながら潮風に吹かれる。

「気持ちのいい朝だな」

 東條管理官の言葉に頷いた。ゆっくりと周りを見回した東條管理官は、土砂崩れで埋まっている上の部分を観察する。そして、海の方をジッと見てから視線を向けて来た。

「本当に土砂崩れを起こしたんだな」

 ここがエヴァソン遺跡でなく別の場所だとは疑っていないようだ。

 人間の記憶なんてあやふやなものである。特殊な能力を持つ人間以外なら騙されて当然なのかもしれない。


「嘘なんか報告書に書かないよ」

「ふん、案内人が書く報告書の中には正確さに欠け、適当なものも有るんだ」

 俺は他の案内人がどんな報告書を書いているのか気になった。

 准教授が近付いて来て、転移門が有る部屋のセキュリティはどうなっているのか尋ねる。

「部屋のドアは取り替えて鍵が掛かるようにしています。二階テラス区の入り口は見ての通り土壁と灌木で囲んでカモフラージュしているんで見つけ難いはずです」

 元々は崖に開いた洞窟のような入り口だったが、土壁で入口付近を囲み狭くなった入り口付近に灌木を植えたので容易に発見されない様になっている。


 転移門をオークたちに発見されないようにしろとJTGの指示があったので、伊丹さんと二人で苦労した成果だった。査察の目的の第一は、この指示が守られているかどうかを調査する事にある。

 入り口付近を調査した糸井議員たちは遺跡の周囲を一周りしたい言い出したので、装備を整えてから海岸へ出た。この海岸には時々巨大蟹が出没する。

 この時も巨大蟹が波とたわむれていた。

「蟹がずっと小さければ、ポエムのような風景なんだが……これじゃあパニック映画だ」

 東條管理官が巨大蟹を見て言う。


「でも、ワタリ大蟹は美味いんですよ」

 巨大蟹が俺たちに気付いた。邪爪鉈を抜いた俺は躯豪術で魔力を制御する。横走で近づいて来る巨大蟹を見ながら邪爪鉈に魔力を流し込む。

 巨大蟹が近付くに従い、その大きさが実感出来るようになる。

「おい、どうするんだ!」

 デンスケが大きな声を上げた。東條管理官が鋭い声を上げる。

「ミコトに任せるんだ」

 信頼されているのだろうか。気合を入れて巨大蟹に走り寄り巨大な眼と眼の間に赤く輝く邪爪鉈を打ち込んだ。邪爪鉈の刃が甲羅に食い込み巨大蟹に致命傷を与える。

 巨大蟹は泡を吹きながら藻掻き弱っていき死んだ。

 警護官の二人は頼りなさそうな案内人の実力を悟った。少年であっても一人前の案内人なのだと実感する。


「東條管理官」

 俺は上司を呼び、巨大蟹から放たれる魔粒子を浴びて貰う。

「深呼吸して下さい」

 言われた通り東條管理官が深呼吸をする。呼んでもいないのに糸井議員も傍に来て同じように深呼吸をしている。途轍もなく好奇心の強い女性らしい。

「これは何をしているの?」

 魔粒子について話すと糸井議員は感心した。

「へえ、『魔力袋の神紋』を授かるのにも魔粒子が必要なの」


 俺は巨大蟹を担いで海岸を北へと向かった。糸井議員たちを犬人族に会わす為である。自衛隊がここに駐屯するようになれば、犬人族の事はすぐに知るだろう。

 早めに協力的な現地人として紹介する方が得策だと判断した。三〇分ほど歩いて塩田の場所まで来た。塩田の様子が見え始めると糸井議員が声を上げる。

「あら、何かしら?」

「犬人族と協力して開発している塩田です」

「エッ、あなたの塩田と言う事」

「まあ、俺だけのものだと言う訳ではないですが」


 塩田に近付き姿の見えた犬人族に声を掛ける。

「ムジェック、俺の知り合いに塩田を見学させてくれ」

「もちろんいいですとも」

 糸井議員たちは初めて見る犬人族を食い入るように見ていた。

『ねえ、ヌイグルミじゃないわよね』

『あのピクピク動いている耳は本物……』

『報告書で知っていたが、実物は感動的だな』


 俺の背後で小声で話している日本人たちを無視しムジェックに声を掛けた。

「それから、これを料理してくれないか」

 俺は巨大蟹を渡した。塩田で働いている犬人族の女性が集まって来て、手早く解体し調理用の竈がある方へ運んでいった。

 塩田で働く犬人族や作り上げた設備を見学し元の場所に戻った頃、蟹が茹で上がっていた。俺たちは足三本だけを貰い後は犬人族で分けるように伝えた。


 遅い朝食を食べながら休憩し、その後予定通り遺跡の周りを一周した。途中、陰狼かげおおかみと遭遇しデンスケが倒した。デンスケは俺たちが鍛えた倉木三等陸尉たちよりは劣るが、中々鍛えられているようだ。

「この近くにはオークは居ないんだね?」

 車田准教授が確認するので、俺は居ないと答えた。

「自衛隊がここに駐屯する場合、水と食料、衣服や生活用品が必要だ。食料は一部自前で集めるとしても、他は迷宮都市で購入する必要がある。その資金は案内人に立て替えて貰う予定になっているが、大丈夫なのかい」

「ええ、日本円で支払って貰えるなら問題有りません。水も近くに湧き水が有るので大丈夫です」

 俺としては日本円の収入が増えるので大歓迎である。


 二日を掛け転移門と遺跡の調査が終わった査察チームは、迷宮都市に向かう事になった。


2016/6/4 誤字修正

2016/6/16 誤字修正

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