番外編*過去 〜はじめましてのゆづ達〜 柚月side
柚月と聖流がはじめて会った日の話。
この頃の柚月は、自分の事を “ゆづ ” と。
聖流は、 “僕” と言っている。
まだ、とても幼ない2人。
意識し始めたのはいつなのか……。
ゆづは、幼稚園年長さんの夏休みに、パパの転勤でこのマンションにやって来た。
前の幼稚園では、お友達と呼べる子もあまりいなかったし、何より気の強い鬼のような女の子に何故か目をつけられてしまって居たから、引っ越しは全然悲しくなんてなかった。
お友達が出来なかった大きな原因は、きっと、いや絶対あの鬼の子の存在だろう。
鬼の子の近くよりも最悪な環境なんて無いと思う。
新しいお家は、2階の端の部屋だった。
ゆづは、弟と和室でゴロゴロと転がった。
ママとパパが、“お隣さんに挨拶に行くよ。”と、言った。
めんどくさいと思いつつ、ゆづと弟はママとパパに続いて家を出た。
外はやっぱり暑い。
ゆづはママとパパの後ろに隠れ、パパがお隣さん家の玄関のチャイムを鳴らすのを見た。
…前のマンションとは違う音だ。
少しして、長いパーマのかかった髪を右耳の下で綺麗に結んでいる女の人が出てきた。
ママとパパと女の人は、何か挨拶してた。
ふと、女の人がゆづと弟の言葉を見た。
「あら。おいくつですか?」
「上の子が6歳で、下の子は4歳です。」
ママは、ゆづと弟をそれぞれ指差しながら言った。
「年長さんと年少さん?」
女の人は、そう聞いた。
「そうです。」
「じゃあ、お兄ちゃんの方はうちの子と同い年ですね。」
女の人は、クルリと背を向けると家の中に向かって
「せいちゃん!」
と、誰かの名前を呼んだ。
すると、片方だけ靴下を履いた男の子が
「…僕、ゲームしてたんだけど……。」
って、ブツブツ文句言いながら出てきた。
ゆづ達を見ると急にオドオドし出して、なんか面白い。
“靴下脱いじゃダメって言ったでしょ。”って叱られてるし。
ゆづは、男の子をジーっと見た。
弟は飽きちゃったみたいで、パパに肩車して貰っていた。
でも、ゆづは暑さも忘れて男の子を見ていた。
ゆづがずーっと見てたら、男の子は恥ずかしくなったのか、女の人の後ろに隠れてしまった。
それでも、なんか気になって。
ママ達が話してる間も、ゆづは時々男の子の方を見た。
ジーっと見られるのは嫌かな、って思ったから、チラ見はゆづなりの配慮だ。
でも、ゆづが男の子を見るたびに、男の子と目が合った。
男の子は目が合うとすぐに逸らしちゃったけど。
…もしかしたら、男の子もゆづの事を見てたのかな、って考えたら、なんか急に恥ずかしくなって。
その後は、ずっと俯いていた。
……今も男の子はゆづの事見てるのかな、ってドキドキしながら……。