12 聖流side
ずーっと俺から目を離さなかった柚月は、指摘すると至って自然な動作で、視界から俺を外した。
でも、不自然だから。
そんなんで誤魔化せた、とでも思っているのだろうか。
だとしたら相当楽観的で……可愛いな。
……ダメだ。
今の俺は、柚月の言動の全てが可愛く思えてしまうようだ。
…流石に無類の女好きと思われた事は頭にきたけど。
「そんなにビビる事無いと思うんだけどなー。」
俺がボソリと呟くと、柚月は、
「ビビってねぇよ。」
と、拗ねたように言ってきた。
「はい、はい。」
可愛いね。
最後の言葉は、また雰囲気が険悪になりそうだから、そっと呑み込んでおく。
「なぁ。キス、気持ち悪かった?」
俺は、それとなく聞いてみた。
男にキスしたのは初めてだし、男にしたいって思ったのも初めてだ。
…もし俺が、男から急にキスされたら、やっぱり気持ち悪いし、きっと激怒するだろう。
「……さぁ?どーだろね。」
柚月は余裕のあるフリして挑発的な態度を取る。
「ふーん。気持ち悪くなかったんだ。」
その意味あり気な言葉を、こちらも挑発するように勝手に解釈して、そう言った。
「それよりも、彼女が居んのにキスするって事が信じらんねー。」
柚月はそう言って、俺を睨んだ。
「……それって、誰目線の意見?」
俺は純粋な疑問をぶつけた。
少し間を置いてから、柚月は言った。
「お前の彼女目線に決まってんじゃん。」
そして、
「俺はお前が誰とキスしようとどうでもいいし。あ、俺がされるのは嫌だけど。」
と、続けた。
“どうでもいい”…ね。
なんか分からないけどイライラする。
俺ってそんなにナルシストで傲慢な男だっけ?
同性の幼馴染さえも自分の事を恋愛対象に見て、意識してないと気に食わないなんて…。
俺は、思った事を割りとすぐに口にする方だと思う。
…対柚月限定で。
「俺ってナルシストで傲慢?」
俺が唐突にそう聞けば、柚月はポカーンもアホっぽく口を開けた。
…こんな柚月は珍しい。