11 柚月side
落ち着いて冷静になっても、俺は聖流に対する恐怖心が消えず、聖流から目を離す事が出来なかった。
きっと、聖流の目には“いつも通り俺”が写っているはず。
本当は、まだヒビってるなんて知られたくない。
俺は、そんなに弱いキャラじゃないんだから。
聖流は、もう元の聖流に戻っていた。
それでも、俺の心臓はバクバク煩い。
止めよ!もう、いっそ止まっちまえよっ!
「柚月?」
聖流が何処か心配そうに聞いてくる。
さっき怒鳴った事なんて、もう忘れてるんだろうな。…まぁ、それにビビったわけじゃないけど。
不意打ちで名前を呼ばれた事で、体がビクリっと反応しそうになったが、力を込めて押さえつけた。
大丈夫。大丈夫だ。
俺は今、いつも通り無表情を作れてるから。
…バレてはない。俺が黙っているから、心配してるんだ。
「…。何?」
一呼吸置いたから、声は裏返らなかった。
「…いや。悪かったなぁって。だって、お前今のファーストキスだろ?」
聖流は、本当に申し訳なさそうだった。
…そこかよ。
聖流は、やっぱり俺と何処かズレてる。
今重要なのは、ファーストキスかって事なんかより、なんでキスしたかったのか…だろ?!
天然なのか何なのか知らないけど、俺は聖流にイラつきを覚え始めた。
それでも、なんとか平常心を保ち、
「…俺、女子じゃあるまいし、ファーストキスとか特に気にしてないから。」
と、答えた。
「え。…見た目女子みたいだから、乙女思考なのかと思ってたわ。」
聖流は、ポケっとしたアホ面で、そう言った。
っ…平常心!平常心っ!
でも、こんなにイラついてても恐怖心は消えず、俺は未だ聖流から目を離せずにいた。
流石に、聖流もそんな俺を不審に思ったらしく、
「お前、俺の事見過ぎじゃね?」
と、言って来た。
「そう?特に気にしてなかったわ。」
なんて、俺は涼しい顔して答えたけど。
そして、さりげなく視線を聖流から他の物へと移す。
正直、聖流から目を離すのは怖かったけど、ビビってるなんてバレたくないっていうプライドが勝った。