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衣装の本心

 以下に掲げる文章は僕の姉が書いたものだ。僕は故あって、この文章をここに掲げる事にする。これを読むと、気分が悪くなる人もいると思うが、僕は故あってこの文章をここに掲げている。その理由に関しては、また後で明らかになるだろう。今は先に、以下の文章を読んで欲しい。これは僕の姉ーーー桐野恭子が書いたものだ。


            

                              ※※※



 「まあ、あんたらみたいなキモオタ童貞に言ってもわからないと思うけど、人生って結局は楽しんだもん勝ちなんだよね。皆色々な事を言うけど、結局人生っていうのは他人を自分の為に利用して、それで自分を幸福にしていくっていう、そういうゲームなんだよね。え?。あたしの名前?。そんな事、どうでもいいでしょ。あたしはただ、二十代の見目麗しい勝ち組の美女。私のプロフィールなんて、ただそれだけで十分。でも、私がこんな事現実で言うと、皆、「うわっ、何この女」って引いちゃう。だから、普段は言わないんだよねー。なにさ、どいもこいつも腹の中じゃあ、みすぼらしい自分を自己肯定しているくせに、私だけが正直にこう言ったら、皆引いちゃうってわけ?。…ひどいよね。どいつもこいつも、偽善者だよね。こりゃ、日本潰れるわ。マジで。

 でさ、あたしの話の続きだけどさ、どうせ、あんたみたいな、不細工で誰からも処女奪ってもらえないキモい女にはわかんないと思うけどさ、あたしはまあ、勝ち組なわけよ。ねえ、今、私が付き合っている男の事、知りたい?。彼ね、今金融業界で「鬼才」って言われてる若手社長で、それでよくわかんないけど、雑誌に特集されたりテレビにたまに出たりしてるの。でさ、例えば、彼が私のおっぱい揉んでる時に、私が「私、エルメスまだ持ってないんだー」って言うと、「そうか、そうか」って言って買ってくれたりする。で、そういうの買ってくれた時はさ、私も機嫌よくなってるから、まあ、フェラの一つもしてあげるのよ。サービスでね。セックスは別で。そしたら、私のフェラチオに男共はすぐにまいっちゃうのね。でも、私って計算高い女だから、ただじゃフェラはしない。そう、絶対にね。前にね、私と付き合ってた男は私に言ったわよ。「お前のフェラチオは世界一だな。俺、前にスペイン女と付き合ったけど、お前の方が断然うまいね。金出せるよ」だって。ふん、でも、そんな事で私が喜んだと思う?。これは凄く、凄く大事な事なんだけど、私って男を軽蔑してるからね。私がこうやって女女して、女を売ってるのは全部、私が幸福になるため。私が幸せになる為に、全ての男は存在しているの。そう、絶対そう。でもね、そう言う私に偽善者のどっかのぶっさいくな団地ママ達が、「そんなのじゃいけません。めっ!」みたいな事言うの。まるで幼稚園児でもあやすかのように。うっせーんだよ。バーカ。このブスが。偽善こいてんじゃねえ。私が一番キライなのは、そういう偽善野郎共。でも私がそういう事書くと、ネットで私を批判してくる奴らがいるわけよ。でもね、私はわかってるわけよ。そういう奴らがどうして私を攻撃してくるかって事を。そいつらはね、皆、不細工で今までロクな男と出会う事もできず、男から何も搾取できなかった哀れな閉経女共なのよ。それか、キモオタ童貞。私はね、よくわかってるのよ。私がそういう勝ち組で自由で、素晴らしい生き方をしているからって、それができない、この世界で自分自身を成り立たせることのできないか弱い連中が、集団になってよってたかって私を叩いているって事が。ふん、悔しかったら、整形でもなんでもして、成り上がってみたら?。ちなみにね、この私のおっぱいはシリコン。シ・リ・コ・ン。でも、最近は技術が発達してるから、そう簡単にはばれない。ちなみに、プチ整形も五回くらいやってる。ねえ、私は思うんだけど、どうして男ってあんなに馬鹿なのかしらね?。結局、目がくりっとして大きくて、それでおっぱいと尻がでかけりゃなんでもいいのよ。あいつら。私ね、あいつらの事、一度だって人間だと思った事はない。人間はあたし一人。それ以外は獣。それが、人生の真実。…特に、男なんてのは皆くだらない獣で、あいつらには人格もなけりゃ、人間性もない。私は今の、若い十代の子に後の為になるように言っておきたいんだけどさ、女は男に人間性とか頭脳があるなんて考えたら駄目。絶対そう。あいつらはただの獣で、ただ難しい顔して本読んだりしてしてるように見えても、それは全部、女に格好良く思われたいためのハッタリなのよ。そう、全てがフェイク。男っていうのそういう生き物。男っていうのは結局、女相手に腰振りたいだけの生き物なのよ。そう、それ以上じゃない。あいつらは猿。いや、それ以下の獣。ゴミクズ。いい、もしこれを読んでいる十代の若い女子がいたらね、次の格言を守りなさい。「男に同情するな。男から全てを搾り取れ!」。そう、それが人生の真実。これこそが人生の真実なのよ!。そして、これこそが女として生まれた私達の運命。昔の女の人は馬鹿だったから、「男性を立てて」みたいなそんな姿勢があったけど、でも、そういうのは全て嘘。ほんとに、この世界、偽善ばっかりで腐っている。結局、女なんて可愛くなかったら何の価値もないんだから。整形でもなんでもして、きゃりーぱみゅぱみゅみたいに気持ち悪いアンドロイドみたいになろうが、それで男に受けたらそれで勝ちなのよ!。ほんとに!。それ以外の事はあたしたち女にはない。くだらない!。全部、くだらないわ!。だからあるのは、私の幸せだけ。私の幸せの為に、皆が不幸になればいいの。そう、それが真実。真実なのよ!。そうよ、みんなが本心では思っているくせに、その薄汚い偽善性の為にこの最後の言葉を言えないなら、あたしが今、言ってあげよう。いい、耳かっぽじってよく聞きなさいよ。『この世界に生まれた以上、誰しもが自分が幸せになり、そして自分以外が不幸になる事を望んでいる。そしてそれ以外の事は全て嘘!』。…ふう、やっとちょっとすっきりしたわたよ。全く、この世には偽善者が多すぎるんだわ。たまには、私みたいに『正直』に何かを語る人間がいてもいいじゃないの。

 そうよ、私はただの正直者。今、これ読んでるあんたはこう言う私の言葉を聞いて、気分悪くしたかもしれないけど、あんたの気分なんて知ったこっちゃないんだから。でも、あなたがものすごいお金持ちだとかものすごいイケメンだとかだったら、私、あんたのものしゃぶってあげてもいいわよ。いい?。人生なんて、ケースバイケース。だから、どうしても私達には取引するものが必要なのよ。私達女には、容姿とかおっぱいとか、後、フェラした後に精子ついた顔でちょっと上目遣いして見せるとかね。そういうのが私達の取引武器。で、男共は、金か地位。で、それがなけりゃ、物凄いイケメンか。いい、人生っていうのは競争市場と一緒なの。みんなそれぞれに、取引する材料を持ってくる。でもね、大半の連中が自分の中にそんな材料を持っていない。だから、皆あんな偽善に流れる。嫉妬で、私達を攻撃する。貧乏人がお金持ちを攻撃するのは今に始まった事じゃないわ。しかも、お金持ちは自分の力で成り上がったのに、貧乏人共は自分の力ではお金持ちになれないから、皆で集団になって卑怯な方法で金持ちから金をせしめようとする。卑怯なんだよね。私に言わせれば。で、そういう奴に限って、偽善的な事を言う。私は嫌いなんだよね、この手の連中がさ。大体、私にしたら、哲学と学問とか研究とか、そういう色々な陰気な事ってのは全部さ、女のおまんこに突っ込めなかった奴らが開発した、かわいそうなオナニー道具なんだよね。残念ながら。私はそう思ってんの、マジでさ。人間なんてそんなもんよ。どんな天才だって、結局、セックスしたくてもできなかったんで、その欲求を外にぶつけた負け組。知らないんだよね、そんな連中。大体、陰気だし。昼間から閉じこもって本読んでさ。私、二つ年下の弟がいるんだけど、これが暗くてね。ほんともう、最悪に気持ち悪い。あいつももう二十五だけど、未だに童貞だと思うよ。うわ~さっぶ~。きもいよ、マジで。で、あいつ、龍一って言うんだけど、あいつ小説書いているんだけどさ。で、一度、「姉さん、ちょっと僕の書いたの読んでくれよ」って言ってきたんだけど。で、読んだら、気持ち悪くてね。もう、ただただ暗いんだよ。誤字脱字も一杯あるし。あいつは、マジで才能ないわ。ま、そこんとこあたしは優しいから、「私、小説よくわかんなくて。ごめんね」って言って、その原稿返したけど。あたしって優しいよね、マジで。そういうとこあんのよ。あたし。

 でも、何かあたしもこんな事言って、ちょっと疲れてきたわ。マジで、疲れてきた。大体、こんな事、こんな風にしてしゃべるの好きじゃないんだよね。ほんとに。うんざりするし。私は根暗キモオタと違って、アクティブマンだし。あ?。あたし、女だからウーマン?。ハハハ。…うるせえよ、女だからって馬鹿にすんな、ばーか。私がこれまでどんだけ男から搾取してきたと思ってんだ。私はね、勝ち組なんだよ、勝ち組。人生の勝ち組。この年でこの広さのマンションに住めてる女、私以外にほとんどいないでしょ?。ハハハ、悔しかったら、男の一物しゃぶって出世する事ね。キャハハ。…マジで言ってて、疲れてきた。じゃ、ちょっとあたし言ってくるわ。最近見つけた、派遣会社の社長さんと今日夕食ご一緒にする事になってんの。いいでしょ。その社長、五十過ぎてんだけど、なかなかイケメンでね。髪もふさふさ。もしかしたら、あいつも私と一緒でアデランス行って、それでプチ整形して、それからちんこの伸長手術でもしてんのかもね。だとしたら、私もあの社長も、どっちもロボットみたいなもんだわ。キャハハ。まあ、人間見た目が全てよ。見た目が十割。悔しかったら、私よりもいい服、いいバッグ、いいマンション手に入れてみなさい。童貞どもはせいぜい、画面見てしこってな。キャハハ。あたしってばひどい。でもいいの。ひどいあたしを、あたしは好きだから。それでは、これでごめんあそばせ。あんた達とあたしがこの実際の人生で出会う事はないでしょうね。だって住む世界が違うんですもの。あたしは勝ち組。あんたは負け組。それだけ。全ては、それだけ。キャハハ。それでは、ごめんあそばせ。ごきげんよう。不細工共とキモオタ童貞達。それじゃね。チュッ」

 


                             ※※※


 以上の文章は僕の姉が書いたものだ。僕の名前はそうーー桐野龍一と言う。実を言えば、この文章は姉の携帯に残っていた文章で、おそらく姉の本心を綴った唯一のものだ。そして、この文章は匿名で、あるSNSサイトに投稿されていた。僕はその事を、姉の携帯をいじっている時に知った。

 実を言うと、姉はこの文章を投稿した二ヶ月後に自殺した。姉は突然、何の前触れもなくマンションの最上階から身を投げたのだった。…姉はこの文章を書いた時、相当追い詰められていたものと見える。この頃、彼女は(文章中には書いてないが)交際相手の会社社長の黒い噂に巻き込まれていた。彼女はマスコミや警察からプレッシャーをかけられていたらしい。その黒い噂とは、薬物疑惑や横領、金の使い込みなどに関する一連のもので、そしてその金が彼女に流れていたのではないかという事も疑惑の一つとなっていた。だから、姉はこの時、非常に辛い立場にいた。そしてその立場にいた事がおそらく、上記のようなものを書かせるに至った動機なのだろう。今となっては、姉の冥福を祈る他ない。そして、僕がこの文章をこうして公開したのは、以上の文章がおそらくは唯一、姉の本心を率直に語った言葉と言えるだろうからだ。姉は、自分でも書いているように、ただ豪華な衣装を身につける事だけを目標にした、そのような人間だった。僕の姉は、全くそれ以上の人間ではなかった。だから、姉は恋人にも愛人にも友人にも、僕達家族にも誰にも本心を漏らす事ができない立場にあった。彼女自身、自分をそんな立場に追い込むように生きていたのだ。 

 だが、姉が故人となった今、ようやくその本心はこうして外部に公開できる事になった。これは皮肉な事であるが、しかし事実である。だから、僕はこの姉が書いた小文をこうして公開する。この文章自体には大した意味はないかもしれないが、しかし、現代の女性の本心を表すものとしては興味あるものだと僕は思っている。以上の文章を読んだ人は、心中に怒りが湧くかもしれないが、どうぞ、姉がもう故人となった事を思い起こして、この者に哀れみの眼差しを注いでやって欲しい。結局の所、姉はその生涯を哀れな女性として過ごしたのだから。

 これで、愚かで醜い弟からの付言はおしまいにする事にする。姉の魂よ、安らかに眠ってくれ。それでは、これにて。



                                      二千十四年 六月一日  桐野龍一」



※本作品はフィクションです


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