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ブロッサム・プリズン ~全寮制女子校物語~  作者: 新田まるぼ
―五月― 牢獄よ、こんにちは
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<1>

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 この堅牢な牢獄は、山の中腹に建っている。

 最上階にある看守長室の窓から外をぼんやり見下ろしながら、あたしは脱獄の甘い夢を見る。

 牢獄の広大な敷地を取り巻くのは、あせた血の色の煉瓦塀。侵入者を拒絶し、脱出者を許さないその高さを乗り越えることはとうてい無理。

 と、なると唯一の脱出口は禍々しく黒光りする鉄の門だ。鉄柵に足をかけ爪先で蹴れば、ふわりと浮きあがった体は、見事、外界へ着地してくれるだろう。

 鬱蒼とした森に囲まれた細い舗装路をひた走ること十五分。迎えてくれるのは騒々しい娑婆(しゃば)の空気だ。

 きらめくネオン、世俗の喧騒、排気ガスの匂い。懐かしくも愛しいものたち。

 この牢獄では、決して手に入らぬものたち。

 ああ、けれど――

 小さく嘆息して、目を閉じる。

 逃げ出すことなど、できない。

 あたしは自ら望んで、この牢獄へやって来たのだから。

 まぶたを開け、視線を上に向ける。春の終わりの柔らかな青空に、真っ白な鳩が数羽、()けるように消えてゆく。

「――いいなあ」

「なにかおっしゃって?」

 堂々たるマホガニーの机の向こうの看守長が、いぶかしげに片眉をはね上げた。

「いえ。なんでもありません」

 答えて、視線を看守長に戻す。初老の看守長はふちなし眼鏡越しにあたしを見た。値踏(ねぶ)みされていると思うのは気のせいか。居心地が悪くなって体をもぞもぞさせると、黒いプリーツスカートが小さく揺れた。

「これで手続きはすべて終わりですよ、月島(つきしま)(かなめ)さん。今日からここがあなた家です。しっかり規則を守って清らかな生活を送ってくださいね。急な転校で大変だったでしょうけど」

「ありがとうございます。――校長先生」

 この牢獄の名を〈私立桜冠(おうかん)学園〉という。


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