cracker
『えっと…。』
返答に困っているわたしに気付いたヒョンスが握手していた手を離し、その手で恥ずかしそうに頭をかいた。
『急にごめんね、びっくりしたでしょう。実は僕、マネジメントの仕事をしていてね。だから、日本の女性がどんな韓国ドラマや映画が好きなのか、ついリサーチしてしまったんだ。初対面なのに驚いたよね。本当にごめん。で、何が好き?』
謝りながら、悪びれもなく笑顔で質問をしてくるヒョンスに対し、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしているわたし。
数秒の沈黙。少し冷静になって、やっと答えを返す。
『わたし…芸能人とかに疎くて、俳優さん目当てで映画を観たりとかあんまりしないんですよね。音楽を聴いたりしますけど、日本でも有名なK-popのアーティストばかりで詳しくないっていうか…。俳優さんや女優さんの名前聞いても正直ちんぷんかんぷんで…。』
と、苦笑いしながら素直に答え続けた。
『マネジメントのお仕事って、もしかしてマネージャーさんなんですか?そんな方を前にして知らないなんて申し訳ないんですが…。でも、母は冬ソナとか好きで一生懸命観てましたけどね。』
深く突っ込まれるのも嫌だから、嘘をつかずに答えた。
『へぇ…。』
ヒョンスの顔は驚きとも取れず、残念に感じてる顔にも見えない。気を悪くさせてしまったのかなと思い、言葉を探していると、
『韓国語すごく上手だね。』
ニコッと笑ったヒョンスが親指を立てた。また意外な感想に2度目の豆鉄砲をくらう。自分の質問の答えよりも、わたしの韓国語の感想を言うなんて…。
『あいつに逢っても気付かないか…』
小さな声でヒョンスが何かを呟いた。早口で聞き取れなかったあたしが聞き返そうとした時、3度目の豆鉄砲。
『良い仕事があるんだけど、興味ないかな??簡単なハウスキーパーの仕事なんだけど??』
握手からの怒涛の展開に、わたしの頭は置き去りにされていた。