昼食と再会と出版物
いつも拙作をお読み頂き有り難うございます。
現在、執筆の速度を上げる挑戦をしておりまして、今月もう一回投稿をする予定であります。もしかしてお見苦しい点が増えるかましれませんがご容赦ください。
お読みいただいている読者の方々にはいつも感謝しております。出来れば今後とも御付き合い頂けると幸いです。
特訓の後、昼食に食堂でカレーうどんを食べてます。ちなみに侯爵達三人はカツ丼、親子丼、中華丼という丼の代表三種を食ってますが、さっきからお互いの丼の具を巡って熾烈な争奪戦を繰り広げています。ココでは御代わり自由なので欲しければ注文すれば良いんですが、まあ教える義理も無いので放置しています・・・・こちらに火の粉が飛んできたらツブしますが。ついでに、食堂で一緒になった駄女神はいつもの通りカレーライスです。あの神、この一週間ぶっ続けで昼飯カレーなんですが・・・・・最初の黄色い戦隊戦士並みですね。
料理の方は前世のメニューは大体再現が済んだので、最近はこの世界の農作物も料理に取り入れはじめています。いや中々馬鹿に出来ませんよ、この世界の農作物も。品種改良とかされてない代わりに原種らしいワイルドな風味で、試しにシチューやカレーに入れてみましたが中々美味しいです。
現在、味覚を完全再現した特殊なゴーレムで思考の一部を分割して、24時間100体同時体制で料理の研究を続けています。ちなみに、この食堂の調理も自分が同じゴーレムで作っています。調理人も育てているんですけど、まだまだ修行が足りなくて。出汁の使い方がなって無いんですよね。
まあ神になって無限の情報処理を得たお陰で、これだけやっても生活どころか全開戦闘にも一切影響ありません。・・・成って見ると分かりますが神様って凄いモノですねえ。
そんな訳で美味しくカレーうどんを啜っていると、辛気臭い顔をした見慣れない一団が入ってきました。まあ、結界に接触した時点で常に監視していたので別に気にもしませんが里帰り&冒険者のパーティですね。えらく疲れているのか倒れこむ様に食堂の席に着きました。
そんな顔されていると見ているコッチの飯が不味くなるから辞めてほしいんですけどね。とはいえ、あのレベルで良くこの場所に辿りつけましたね、あれではワイバーンにも勝てないでしょうに。色々面倒くさいのでカレーうどんを食べさせて黙らせました。
そうこうしている内にスーさんが来て紹介した途端に、なにやら絶叫ましたが・・・・食事時に五月蝿いですねえ。
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そんなこんなで、自己紹介が済んだ後に冒険者の皆さんは魂が抜けていました。特に私と駄女神の自己紹介がショックだったらしいです。なんでも駄女神はこの世界で結構信仰されている神であるらしく、その偶像と現実のギャップに色々と耐えられなかったらしいです。
「私にもあんな時期があったなあ・・・・・・・。」
スーさんがそんな彼らを微笑ましい物を見る目で見ています。そんな彼らを尻目に駄女神は3Dな携帯ゲーム機で最近ハマっている妖怪と時計のゲームをやっています。この食堂には無線LANの環境も完備しており、携帯もスマホも繋がるので最近は仕事の合間に携帯ゲームやネットをする方がチラホラと・・・・まあ仕事に支障が無ければ良いんですけどね。
世界の壁?もはや光ファイバーですら比較するのが馬鹿らしいほどの速度ですよ。・・・・まあ、ある程度の情報規制は掛けてありますが、流石にネットの闇を経験させるのはまだ早いですよね。
まあ、彼らが余りにも哀れを誘う姿なので立ち直るまで少し待ってあげています。自分にも情けは在るので・・・・。
食後のカフェオレを飲みながらしばらく待っていると、食堂の入り口に自分が呼んだスケルトンとゴーストの二人組が到着しました。
それを見た冒険者達のリーダーの瞳に生気が戻り、表情が一気に驚きと歓喜に変わります。
冒険者達の情報を見た時に、リーダーの人の元仲間が人手不足で復活させたアンデットの皆さんの中に居た様なので呼んでおいたんですが、お互い一目で相手が誰だか分かったようですね。
まあ、こちらとしては知り合いが多く居た方が色々話が進むかな位に考えていたんですが、予想外に劇的な再会になったようです。
お互い駆け寄って歓喜の包容・・・・・は出来ませんでしたね。ゴーストなので実体が無いから思いっきり通り抜けちゃいました。あ、そのせいで残る二人もバランス崩して・・・・ありゃりゃ、テーブルとかも巻き込んだ。おやまあ、衝撃でスケルトンの方がバラバラに・・・・・・。
「うわあああああ!!!すまん!!!」
リーダーの人がすっかりパニックになっています。まあ彼はバラバラになってもすぐ戻るので大丈夫ですよ。
いや、中々見事なコントを見せて貰いました。魂の抜けていた他の冒険者達も今の騒ぎでコチラに戻ってきたようですし、そろそろ話を進めるとしますか・・・・・・。
「さて、皆さん今後について相談をはじめましょうか」
その言葉で冒険者達は顔が引き締まりました。なるほど、やはり皆さん腐ってもプロの冒険者ですね。こちらとしても外の世界の情報は色々必要ですので有意義な時間が過ごせそうですね。情報自体は森羅万象辞典からいくらでも引き出せます。しかし、その情報はあくまで自分の視点に立った情報。情報を多角的、立体的に捉えるためには、他者の視点や物の考え方を取り入れることが必要なのです。社会情勢や文化レベルや多様性、民族、国家や神々等々、情報化が進んでいた前世であってさえ理解できている人間が一人もいなかったのではないかという問題にも恐らくこれから関わらなければならなくなるでしょうから。
相手はこの世界の一流の冒険者。恐らくはこの世界で情報の価値と重要性を理解し、実践している職業であるでしょう。
今の状況は相手の精神状態から見てコチラが圧倒的に有利。そんな訳で、後々国家や神などとも交渉することを考えて練習台になってもらいましょう。いきなり一流冒険者はハードルが高いかもしれませんが、後々のことを考えると人間のトップクラスと練習できることのメリットは計り知れません。相手がどんな手札や駆け引きを繰り出してくるか色々と楽しみですね。こちらとしてはタダでは一切何も売る気はありませんよ。
((邪神の微笑みだ・・・・・・・。))
思わず零れた笑みにスーさんと駄女神がドン引きしていましたが・・・・何故??
《神能》【交渉術(対神性精神攻撃法)】を獲得しました。
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これが樹海都市もしくは犬神の居城と呼ばれ、その後の世界に多くの影響を与える場所が歴史に初めて記録された《樹海の謁見》と言われる一連の出来事である。この出来事はその後の世界を激震させる数多くの事件に比べて目立たないが、世界に長く影響を与える一つの書物を生みだしている。
この事件に参加した冒険者パーティの一人『嵐弓』のロームによって記された一冊の書。犬神クロエから学んだとされる数々の交渉術や駆け引きのやり方などを纏めたその本の名は『樹海渉略神片』。政治や経済、外交に関わる者なら必ず一度は読まなければならないと言われている本であり、その内容は幾多の時代を経ても古くなるどころか益々輝きを増している。
だが、この本には出版当時から、とある噂が囁かれている。『樹海渉略神片』には初版の前の原書が存在し、それには神片という単語の示す通り交渉に関する神の英知の欠片が記されていたのだと。それを使いこなしたならば、人を自在に操り国家を崩壊させることすら可能で、相手の趣味嗜好、心の傷を正確に見抜き、精神さえ自由に破壊することが可能だったという。その悪用を危惧した著者が危険な部分を削除して出版したのが現在の『樹海渉略神片』だというのだ。
著者はこの噂について生前、否定も肯定もせず沈黙を守り通した。確かに現存するこの本の初版には一部に文脈の乱れや内容の不整合が多く見受けられ、原書の存在は研究者の間では疑う物がいない半ば公認とされている。さらに、痕跡から推察される原書から削除された部分は、少なくとも出版された部分と同じくらいあったのではないかと言われており、削除された部分を巡って真贋入り混じる様々な憶測が今も飛び交っている。
その一つに数年前に見付かった著者が執筆中にとったとされる20枚の走り書きがある。削除された部分が僅かに含まれていたといわれ、出品されたオークションでは皇国が国家予算の二十分の一という高値が付け落札した。そしてそのことが以前から囁かれていた噂を再燃させた。
いわく、著者は原書を一冊だけ残しており、それは皇国の封印禁書館が管理しているのだという物だ。封印禁書館とは通常の図書館の様な物では無く、危険な魔導書や呪われた書物を管理、封印している皇国の情報部の下にあるれっきとした国家機関の名称である。超一流の魔導師達が多く在籍しているとされ上位以上の魔術を学ぶためには彼らの許可が必要とされる知のエリート集団である。
もし本当に彼らが関わっており、その存在すら秘匿しているのならば、少なくとも原書はAランク封印指定以上ということであり、凡人には関わるだけで破滅を約束された様な物だ。その様な話を聞いたのならば直ぐに逃げることをお勧めする。ただ、炎に飛びこむ羽虫の様に、危険な香りのする物に人は惹かれる物である。かの原書について、とある筋から有力な情報を得ることに成功した。それについては後日記すことになるだろう。
皇国歴567年 デオルグ=カーキンス著『皇国の書物の歴史』より抜粋
なお著者であるデオルグ=カーキンスは、この書の執筆の二日後に用水路にて遺体で発見される。泥酔して用水路に落ちた物と思われるが、関係者によると彼は一切酒が飲めなかったはずである。