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異世界犬妖精 -Demi god of talent-  作者: 亭恵
 城塞都市の犬妖精
27/34

踊る会議とカレーうどん

 いつもいつも、この様な拙作を読んで頂き有り難うございます。

 毎度毎度、月の最後ギリギリに投稿です。今回はもう少し余裕を持って投稿出来るはずだったのですが、結局ギリギリになってしまいました。次はもう少し自分を追いこんで、月に二回ぐらいのペースで投稿してみたいなと思っています。

 今回もお楽しみ頂けたら幸いです。


コボルトの二人の知り合いであるステラと言われるアンデットに案内され、彼らは威容を誇る門の中に入っていった。この恐るべき城壁を作り上げた存在に戦々恐々としながらそこを抜けると、そこには彼らの予想を裏切る牧歌的な農園が広がっていた。

 冒険者達が城壁とその光景のアンバランスさに呆気に取られている中、先導するステラはさっさと進んでいく。復活してから非常識に翻弄され続けた彼女にとって、こんな物はどうということの無い物なのであった。

 そんな彼女に正気に戻った冒険者達が慌てて付いていく。こんな意味が分からない所に放り出されるのは命知らずの彼女達にしても御免こうむりたいのだろう。

 しばらく足音だけが響く無言の時間が過ぎていたが、その間に冒険者達は悟られない様に互いにアイコンタクトを交わし、小声で相談を始めた。


(第一回パーティ会議!!!)


(おい!!明らかに高位種族じゃないかあの人。会話をして何とかこの場所の情報を引き出せないか!?)


(じゃあお前がやれよ!!俺はドラゴンの尾を踏むのは嫌だからな!!いや、下手するとドラゴンより始末に負えない存在だぞアレ!!)


(いや、俺はあの人と初対面だし・・・・・こういうのは顔見知りの方が有利だろう。)


(いや!!顔見知りと言っても十年ぶりだし・・・・こういうのは言いだした奴が・・・・)


(というかドラゴンより高位の種族って・・・・・・・。)


(神の使徒とかじゃあ・・・・・お、オレは嫌だからな関わりたくない!!)


(・・・・・・!!!・・・・!!?????)


 時間にして数分の苛烈な擦り付け合いの結果、彼女の弟(ミケと名前の回復魔術の使い手で外見はアルビノのヨークシャテリアの顔の正統派コボルト男性)に白羽の矢が立った。彼にしても十年ほど放置している内に変わり果て、もはやツッコミ所しか見当たら無くなった故郷と、容姿どころか種族すら変わり果てた姉の情報は欲しかった。

 しかし、明らかに碌な事ならないと本能が警告しており、けれども突破口がコレしか無いのも分かっているので。とりあえず大地の精霊に無事で済みます様にと祈りながら悲壮な覚悟で話しかけた。


「姉さま・・・・・あのココは一体どういう所なんでしょうか。」


「ああ、この外部区画は農場になっていて野菜とかは全部ココで作られているんだ。なんでも、300万人ほどの食糧を作ることが可能らしいぞ。」


「いや、そういう意味では無くて・・・・え、さんびゃくまん・・・・あの、あちらには見たことの無い作物が植えられていますが・・・・・・。」


「あの赤い実はトマト、右隣がニンジンで逆がジャガイモだ。どれも美味しいぞ。奥の緑の実はピーマン・・・・・あれだけは凄まじく不味いが栄養はあるらしい。何でもクロエの出身地である異世界の野菜らしいぞ。」


「は?・・・・クロエ??異世界??・・・・・えと、あ、あちらにあるのはザル麦でしょうか?」


「ああ、その区画はこの世界の穀物や野菜が植えられているな。最近、主殿はこの世界の物を料理に取り入れて新料理の開発にご執心でな。他にも三日月豆やら赤菜も植えられているぞ。あ、あっちの方で水浸しになっている様に見えるのは米というらしい、美味いぞ。」


「え・・・・と、あんなに水に浸かって大丈夫なんですね。ひゃあ!!」


「あー驚かなくても良い。農場で働いているアンデットを取りまとめている、エルダーリッチのカスミさんだ。なんでも死ぬ前はSランクオーバーの冒険者だったらしいんだが、死んで魂だけになってこの樹海を彷徨っていたんだ。労働力不足を補うためにそういった魂を集めて、本人の同意を得て復活させたらしい。」


 その言葉に照れた様な仕草をする骸骨・・・・。その光景をを見ながら会話の度に明かされていく明らかにヤバそうな事実に一行は頭を抱えていた。

カスミというエルダーリッチと何やら話しこみ始めたステラを尻目に冒険者達は円陣を組む。


(だ、第二回パーティ会議!!!)


(明らかにヤバくないかココ!!あんま頭良く無い俺にもなんとなく分かるぞ!!)


(当たり前だ!!エルダーリッチ??確か単騎でハルベート魔術皇国を滅ぼしたとされるアンデットだぞ!!何で普通に会話してんだ!!何で農作業なんかさせてんだ。)


(それより元Sランクオーバー?カスミ?本物か??)


(・・・・・・逃げるわけにはいかないだろうか?・・・・というか、逃げていいか?)


(よせ!!ここから逃げるのは無理だ!!というか逃げて相手の機嫌を損ねたら、高確率で俺らも巻き込まれるだろうが!!)


「悪い悪い。ちょっと水路にトラブルがあったらしくてな。」


(!!!!!・・・・・・!!!!)


「い、いえ姉さま。突然お邪魔したのはコチラですしお気遣いなさらず。」


「そうか?でもまあ、久しぶりなので色々変わってるかも知れないが、お前の故郷なんだからそんなに固くならなくて良いぞ。」


「(変わり過ぎだと思いますが!!!)そ、そうですか。」


「あ、でもあの木の傍には近づかない方が良いぞ。あの傍には貴重な薬草が栽培されていて、踏んだりすると俺でもブッ飛ばされる。」

 その言葉で一行はその巨大な樹に気が付いた。あまりにも巨大であったため樹であると言われるまで気が付かなかったのだ。その巨大さに思わず見上げた一行の視線はある地点で同時にピタリと止まった。


「はあ、大きな木ですね・・・・・・所で、幹に掛けてあるアレは何でしょう・・・・。」


「ああ、あれは地皇竜の頭の骨。あの木は竜血樹といって地皇竜の死骸から生まれた物らしくてついでに引っかておいたらしい。」


「「「え・・・・・。」」」


「だ、だ、だ、第三回パーティ会議!!!!!」


「地皇竜って殺せたのか!!!!」


「嘘だろ!!!アレって創造神によって生み出された神をも殺せる竜だぞ!!創造神が居なくなってしまった後、今の神々では手に余ったのでこの場所に封じられたんだろう。」


「あ、それ嘘らしいぞ。手に余ったので放置したらこの場所に居付いたらしい。創造神の力が最も残っている場所だったからじゃねて言ってたぞ。」


「そうなのか・・・・で、その神々でも殺せない地皇竜を殺した存在がココに居ると。」


「無理無理無理無理無理。逃げよう。な、な。」


「まあ、怖がるのも分かるが機嫌を損ねたりしなければ大丈夫だぞ。基本、命までは奪わないし。」


「ホントか!!!!」


「まあ、矯正とか特訓とかの名目で死ぬより酷い目には遭う可能性はあるが。」


「ダメじゃん!!!!」


 そこで全員がはたとパーティ以外の人物が参加していることに気付いた。一斉にそちらを向くと、その人物、ステラはひらひらと手を振って応えた。


「って姉さま!!!!いつから聞いていたんですか!!!!」


「最初から全部。ほら位階上昇ランクアップで耳とか異常に良くなったから。」


「最初からかよ!!!」


「いや、何かコソコソしてるから聞かないフリしてたんだが、大声で相談し始めたからもう良いのかなって。」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」


 冒険者達は全員あさっての方を向き、どうしようも無く気まずい沈黙が辺りに満ちる。多少は空気の読める女のステラは、自分のせいで妙な空気になってしまったことに失敗したなあと思ったが、放っておくといつまでもこのまま固まったままだと判断して強引に話題を変えることにした。


「まあ、お前さん達もギルドに言われて調査に来たんだろうし、クロエは細かいことは気にせんから正直に話せば特に問題は無いぞ。」


「そうですか・・・・・・。」


「まあ、神だから怒らせるとどうなるか分からん。油断はするなよ。」


「うえっ!!!」


 さり気に重要情報を暴露されて釘を刺された。が、冒険者達にはもはやツッコミを入れる気力も残っていおらず、クロエという重要そうな名前についても疲れ果ててスルーしてしまっていた。

 農場区画を抜けると居住区画が姿を現した。改造に改造を重ねられて原型すら無くなった街並みは、もはやどこぞの新都心と言った所だ。違いとしては魔力という完全クリーンエネルギーが存在しているため環境問題は一切発生してはいない所だろうか。

 完全にこの世界の風景から明らかに隔絶した風景に、冒険者達は完全に田舎から来たおのぼりさん状態になっていた。 


「そこで待っていてくれ。」


 指差された先には某緑のコーヒーショップの雰囲気を持った大きな建物だった。


「食事も出来るから飯でも食って待っててくれ。クロエを探してくるから。」


 そう言って彼らと別れたステラを尻目にノロノロと建物に入る。ちなみに扉は自動ドアだったが、誰も精神的に疲れ果てて突っ込まなかった。落ち着いた雰囲気の店内の席に付くとゴーレムが彼らの目の前にお冷やを置いて去っていく。それも彼らにとっては常識の外にある光景であったが、やはり誰も突っ込む者はいなかった。


「疲れた・・・・・・・。」


 彼ら全員が席に突っ伏してしばらく時間が経った時、後ろから声を掛けられた。


「注文しないのか?」


 全員がそちらに振り向いてハッとした。信じられないほどの神がかった美貌のコボルトと同様の美貌を持った気だるい表情の女性がそこに居たのだ。

 誰も声を発しない中、彼はおもむろに丼を手に持つと・・・・・・・。


「ズズーーーーーーーーーーー。」


 麺をすすった。丼の中には黄色いスープ。つまりカレーうどんだった。

 この世界はヨーロッパの様な文化形態になっている。つまり、音を立てて食事をする行為はマナー違反なのだ。


「あん?」


彼らの非難の視線を逆に睨み返して怯ませた後、ゴーレムを呼んで注文をする。しばらくすると彼らの前に同じカレーうどんが運ばれてきた。


「食ってみろ。」


 無言の圧力に負けて彼らは箸をとる。ちなみに全員Aランク以上の冒険者のためレベルが非常に高く、TEC(技術力)の値も高いために、箸の使い方は見ただけで使えた。


「「「「「・・・・・・・・・・・・・!!!!!」」」」」


 全員、今まで食べたことの無い美味さに絶句した。それから彼らは夢中で麺をすすった。すすることによって香辛料や旨味の香りが鼻に抜けていき、味と混然一体となって味覚中枢を刺激する。マナーのことなど頭からすっかり消え去っていた。全員、汁まで飲み切り一息ついた所に声が掛けられる。


「美味かったろう。」


 見ると先程の彼が皮肉げな笑いを浮かべて彼らをみていた。

 冒険者達は全員赤面した。そこに入り口から声が掛けられた。


「ああ、何だ最初から此処に居たんですかクロエ。」


 冒険者達が一斉にそちらを見ると、先ほど分かれたステラがそこに居た。


「ああ皆さん。そちらの方がこの場所を作ったクロエです。」


 その言葉に冒険者達は再び一斉にそちらを向く。そこにはカレーうどんを食い切り、今度はカツ丼をかきこんでいるクロエがいた。もちろんその姿に威厳とかは一切無かったりする。


「「「「ええええええええええええ!!!」」」」」


 本日何度目かになる悲鳴が木霊した。



 



 








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