選択授業を国語にする
選択授業というものがあり、国語や音楽など自分の好きなものを選べるのだった。
「何する?」
彼が聞きに来たので、私は紙を見せる。
そこには「国語」と書かれていた。
「何で国語なんだ?」
「先生が好きだから」
「好きって、おい」
彼が慌て始めたので、私は首を傾げる。
何か変なことを言っただろうか。
彼は私の机に両手を置き、首を振ると、私をじっと見てくる。
「あなたも嫌いなタイプじゃないでしょう?」
そう聞くと、「まあな。明るい先生だし」とうなずいてくる。
声の大きな先生で、学校であった話を面白おかしく話してくれる先生だった。
まるで少年のように、キラキラしたものをもっているのだった。
「じゃあ、俺も国語にするかな」
「うん、そうしよう」
彼が私からシャーペンを借り、大きく「国語」と書く。
書道のように潔く、気持ちの良いものだった。
2人は立ち上がると、担任に紙を提出しに行く。
担任は英語の先生で、大人しくて真面目なタイプだった。
嫌ではないが、授業が少々、退屈だった。
「2人とも国語ね。分かりました」
「よろしくお願いします」
2人で頭を下げると、教室に戻る前に、国語の先生の部屋へ向かう。
「おう、どうした、お前ら」
先生は一人だった。
放課後だがら、他の先生は部活を見に行ったのかもしれない。
先生に気楽に声をかけられて、私は肩から力を抜く。
彼は面白い玩具を見つけたように、わくわくしているのが伝わってくる。
「あの、選択授業、国語にしたんだ」
敬語ではなく、タメ口で話しても、先生はびくともしなかった。
むしろ楽しそうに椅子をこちらに向け、手招きしてくる。
「何? …飴?」
「しーっ」
先生が声をひそめる。
私と彼は顔を見合わせると、せっかくもらったんだからと、飴を口にする。
甘くて優しいイチゴ味。
とろける美味さに頬を押さえると、先生が笑いながら言ってくる。
「美味いか?」
「うん!! イチゴ味、皆、好きなんだよ」
「俺も嫌いじゃない」
2人はもごもごと口を動かしながら、先生と向き合う。
するとプリントを出してきた。
何だろうと覗き込むと、自分で持てと仕草をしてくる。
私がプリントを持つと、彼が覗き込こんでくる。
「…平家物語? これがどうしたの?」
「授業で扱う内容だ。絵を描いたり、学園祭で朗読しようかと思ってな」
「え!! 絵を描くの!!」
私は大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。
彼はプリントを見つめたまま、げんなりして言う。
「絵を描くのかよ…。しかも学園祭で朗読するって」
「え、そう? 私は絵を描くのは好きだけどな」
どんな絵を描こうかと、今からわくわくする。
先生はプリントを彼の分までくれ、笑う。
「楽しみにしとけ。学園祭で親御さんが見に来るかもしれないし」
「あー、それは嫌だな」
さすがに親に見られるのは嫌だった。
理由は恥ずかしいのと、色んな事情があった。
「俺の授業は楽しいぞ」
「今から気が重い」
半分冗談で言うと、先生が声を立てて笑う。
それから椅子を机の前に戻し、手を振ってくる。
「早く行け。遅くまで学校にいるな」
「分かった。ありがとうございました」
「ありがとうな、先生」
2人は挨拶すると、部屋を後にする。
放課後なので、廊下はしんと静まり返っていた。
「平家物語か。楽しみだな」
「お前はいいよな。絵を描くのが得意で。俺なんか、どうしようか頭が痛いもん」
私が声を立てて笑うと、廊下に響く。
最後の飴を飲み込むと、私は彼の手を引っ張る。
「早く教室に行こう?」
「おう。そろそろ帰るか」
2人は仲良く並ぶと、教室に向かったのだった。




