滝川一穂の独白《1》
R15でお願いします。(具体的な描写はありません。)
作品の構成上、差別的な表現が含まれています。
不快な思いをされた方がいたら、すみません。
「滝川一穂」って男は糞だったー。
実際に糞のわけはないが、あいつの前世は・・糞に群がる銀蠅の一匹だったに違いない。
なぜなら・・今でも限りなく糞がお似合いだからだー。
・・そもそもあいつは、ガキの頃から終わっていた。
女みたいな外見で、片親だった自分の母親に’サンドバッグ’みたいにぶん殴られて育ったー。
ある日母親は男に捨てられ、男に捨てられた母親はヤツを捨てたー。
そして俺・・「滝川一穂」は施設で育つことになった・・。
思春期に突入しても、俺は女みたいになよっとして、女みたいな顔をしていた・・。
その外見に目をつけた女に誘われ寝たが・・俺のムスコは完全に”不発”だったー。
他の女とも寝てみたが、どの女とも結果は同じだった・・。
要するに・・俺の体は男として、完全に『役立たず』なのだったー。
・・それでも健康な男子だし、普通に生理的欲求はあるわけで・・
そんな時、この女みたいな外見に目がくらんだ、施設職員の’変態中年男’によって、俺は襲われた。
こうして、糞みたいな俺は、糞みたいな’変態親父’の手により・・晴れて『男色』の世界にデビューしたのだったー。
・・なんと、俺の体は「女」には使い物にならなかったくせに、変態親父の前では健康そのものだったー。
まあ要するに、”そういう事”なのだったー。
滝川一穂は、『女』はダメだが『男』はOK。 ・・それが証明されたわけだー。
・・こうして、「性」の世界に目覚めた俺は、その変態中年男にどっぷりはまったー。
イタズラしたつもりの少年がみるみる積極的になり・・あの男もさぞ驚いた事だろうー。
この男との関係は2年続いたー。
調子をこいたあの男が’他の少年’に手をだし、施設どころか『社会』から永久に抹殺されるまでは・・。
まさに糞男にお似合いの『糞初体験談』だが、こんな糞話・・当然墓場まで持っていくに決まってるー。
文字通り、「臭い物」には蓋をするのが一番だからだーー。
ーーある日、家も金も学も、ついでに力もない俺は、その後の人生を不安に思いながら街を歩いていたー。
そんな時、「あの男」に声をかけられたー。
ーー潰れかけのモデル事務所社長、「倉田大吾」に・・。
俺を完全に’女性’と勘違いした倉田は、『金の卵』を見つけたような顔をし、嬉々として俺を会社に連れ帰ったー。
そして、まだ専門学校生だった紺野透にメイクをさせたー。
メイクをした俺の顔を見て、倉田も、紺野も、目をひんむいて驚いていたーー。
ーー鏡を見た俺もぶったまげたーー!!
(・・・誰だこれは・・・!?)
鏡の中にはとんでもない美女が映っていたーー。
二倍強程でかくなった目は爛々と輝き、凄まじい程の’眼力’を放っていたーー。
唇は誘うように膨らみ、頬は鮮やかな薔薇色だったー。
鏡の中には、匂い立つような美少女が存在していたーー。
ーー俺は、鏡の中の少女に一目で恋をしてしまった・・。
横にいた倉田もそうだったーー。
『ーーとんでもない掘り出し物を見つけてしまった・・。』
あいつの顔には、はっきりと、そう書いてあったー。
その後、俺を男と知ったあいつの顔は見物だったー。 この世の終わりみたいな顔をしていたー。
・・だが、倉田はひかなかったーー。
今にも潰れそうなオンボロビルー。デスクは全部で3つー。プロのメイクも雇えず、専門学校生にバイトでやらせる惨状ーー。
自分の会社が倒産寸前の状況で、あいつに迷いなどなかったーー。
あいつは俺にかけたー。 ・・世間をペテンにかけてでもーー。
ーーその後の俺の躍進は凄まじかった・・。
手始めに受けた、ティーン向けのブランドモデルのオーディションに一発合格。
それが話題になり、次々にオーディションに合格したー。 次第に向こうから仕事が舞い込むようになり、仕事は激増し、金まわりが良くなったー。
性別がばれるから、水着や下着の仕事は一切断ったー。 それは・・モデルとしては致命的だったにもかかわらず、仕事は増える一方だったー。
男の俺は、あんなにしみったれた「クソ」だったのに、女の俺は、まるで希少の『宝石』だったーー。
女からは羨望の眼差しで見られ、男からは熱い視線を送られる・・。
’男’の俺は何も持っていない上、女性に対して「不能」だったのに、’女’の俺は、金も人気も羨望の眼差しも・・何もかも思いのままだったーー。
俺は次第に、生まれる性別を間違えたのではないかと思うようになっていたーー。
そして、肉体を「女性」に変える事を、真剣に考え始めたーー。
でも’何か’が引っかかり、まだ手術を受ける気にはなれなかった・・。 その時は、何に引っかかっているのか、よく分かっていなかったーー。
・・この頃から体毛が気になりだし、エステで全身の永久脱毛をしたー。 顔も体も、全部だー。
当然、俺だとばれるわけにはいかないから、エステには毎回変装して行ったー。 そこの社員には、’性同一性障害’だと言って、施術をしてもらったー。
俺はこうして少しずつ、『女』になる準備をしていった・・。
その後も俺の仕事は増え続け、それに伴い会社もどんどん成長していったー。
事務所は、あのオンボロビルから小綺麗なビルに移り、社員数も増えていったー。
この頃新しいモデルがどんどん入ってきて、その中に『馨』がいたーー。
学生モデルだった馨はいろいろな国の血の混じった混血で、日本人離れした体型に無国籍な雰囲気を持つ、とても魅力的な男だったー。
モデルの中でも、あいつの容貌は一際目立っていたー。
雑誌の仕事で一緒になる事が多く、気も合い仲良くしていたが・・ある時、たまたまそういう雰囲気になり、俺達は関係を持ったー。
どうやら馨はずっと機会を狙っていたらしく、逃れようがなかったー。
男とばれ・・俺は心底ビビり、あいつも相当驚いていたが、それでも結局そういう事になってしまった・・。
行為の後・・芸能人生命を断たれるネタがバレ、俺は青ざめていたー。
・・しかし、馨の反応は意外なものだったー。
俺が性別を偽っている事を秘密にするかわりに、つきあって欲しいと言われたー。
女の体になるまで、恋人など絶対できないと覚悟していた俺は、二つ返事でOKしたー。
ーーこうして俺は、金も人気も羨望の眼差しも、ついには『愛』までも手に入れて、完全無欠の「女」になったーー。
倉田に馨の事を話したら、同じマンションの階違いに引越しさせられたー。
確かにこうすれば、マスコミにばれる危険が減るー。 それに忙しい俺らでも、いつでも会う事ができたーー。
俺達は遠慮なく、深夜の密会を重ねたーー。
ーーあの、変態親父の慰み者になっていた俺が、こんな美形と・・。
馨を見るたび、俺は不思議な気がしてならなかったーー。
この頃から、毎回雑誌の表紙を飾るようになり、その雑誌の看板モデルになったー。
ある時・・話題作りのために、映画のワンシーンに出演する事になったのだが・・それが監督の目に留まったー。
その映画の俺の出演シーンは大幅に増やされ、その監督の次回作の準主役に抜擢されたーー。
もともと、日常生活全てが作り物だった俺だー。演技力は、あって当然だったーー。
ーーその映画が大当たりしたー。
瞬く間に、俺は注目の新人女優になり、その次、主役で出演した映画もヒットしたーー。
そして、翌年の国内映画祭で、新人女優賞を総なめしたー。
・・怖いくらい順調だったー。
女優の仕事はとにかく面白かったー。
毎回新しい作品に取り組む度に、全く新しい人生を演じる事ができるー。 その面白さは、モデルとは別物だったー。
俺は、この仕事の虜になってしまったー。 どんな形にせよ、芝居で一生食っていけたらと思うようになったー。
・・しかしメディアへの露出が増え、人気が膨れ上がる度、俺の不安は増大していったーー。
スタイリストに触れられるたび・・カメラのレンズを向けられるたび・・自分のアップの映像を見るたび・・。
誰かが本当の性別に気付くのではないかと、ビクつくようになった・・。
男性ファンを目にすると、騙しているという罪悪感に苛まれた・・。
もともとあまり睡眠量の多い方ではなかったが・・ますます眠れなくなってしまったー。
まあ、そういう時は馨の所に行き、やる事やってさっさと眠るだけだがー。
・・何にせよ、一刻も早く性転換しなければと思ったー。
そうしたら、安心して眠れるにちがいなかった・・。
ある日、いつものように馨の部屋に二人でいる時、馨がプロポーズしてきたーー。
馨はもともとノン気だったし、一時的な関係だと思っていた俺は、心底驚いたー。
俺の事情を全て知った上でのプロポーズだったー。 もともとノーマルの馨が、男の俺に結婚を申し込んでくるなんて、余程の覚悟に違いなかったー。
はっきり言って・・男同士の結婚は、かなり面倒だー。 そもそも、日本では無理だー。
結婚するなら同性婚を認めている国に移住するか、もしくは国内で養子縁組するかだったーー。
養子縁組すれば親子関係になってしまうし、海外で結婚するなら時間がかかるー。
俺らのような立場の人間が、秘密裏に結婚するなんて・・相当、至難の技だったー。
「・・それでも結婚したい」とあいつは言ったーー。
どんな形でもいいから、とにかく生涯の伴侶になって欲しいと抱きしめられたー。
・・本当に情熱的な男だった・・。そして、この上なく美しい男だった・・。
おそらくこの先、馨以上の相手に巡り会う事はないだろうと確信していたー。
・・だが’何か’が引っかかり、俺は返事を保留にして、自分の部屋に戻ったー。
自室のベッドに、一人で横になりながら・・俺は’何’に引っかかっているのかを考えたーー。
何かが足りない・・。
金も、仕事も、恋人も・・全てを手に入れているのに、まだ「何か」足りないーー。
体を女性にしてしまえば、この慢性的な不安から開放されるのだろうか・・?
俺は、だんだんそんな気がしてきたーー。
(いっそ明日にでも、仕事を休業すると倉田に告げて、手術の準備をしてしまおうかー。)
ーーそこまで考えた時、ふと・・自分に欠けている物に気付いたーー。
(・・ああ・・「家族」だ・・。)
・・欠落していたものは、まさにそれだったー。
俺は・・幼い頃から、それだけ・・手に出来なかったーー。
置き去りにされ、誰もいなくなった部屋ーー。隣人に保護され、入れられた施設ーー。
誰も来ない参観日ー。 盆、正月・・家族の行事がある度に、猛烈な孤独感に襲われたーー。
・・いつも、家族のいる奴を羨んでいたーー。
・・そう、どんな時も・・俺は「それ」だけ、決して手にする事が出来なかったーー。
馨は俺を愛しているのだろう・・。結婚、もしくは養子縁組すれば・・確かに「紙」の上では『家族』になれるのだろう・・。
ーーだが・・20年後には・・?
俺の戸籍の性別が「男」だと・・もし世間にばれたら・・? ・・・・・もしいつか・・俺の’容姿’が衰えたら・・・・・?
ーー古ぼけたアパートに置き去りにされた・・六つの『俺』が頭に浮かんだーー。
その時、はっきりと悟ったーー。
(・・俺は・・自分の子供が欲しい・・。)
この先、どんな事があっても、決して断たれる事のない・・本物の『絆』が欲しいー。
俺は・・自分と血の繋がった、『実の子供』が欲しかったーー。
たとえ、いつか一人になったとしても、自分の子供が・・「分身」がこの世に存在しているだけで、生きていける気がしたーー。
自分の子をこの世にのこすまで・・絶対に、性別を変える事はできないと思ったー。
だから・・今、馨と結婚はできないー。
馨には悪いが、もし今結婚すれば・・ただでさえ少ない’子供を持つ可能性’が、ゼロに等しくなるー。
そもそもこんな環境で、’こんな体’の俺が、自分の子を持つなんて・・到底無理な気がしたー。
でも・・無理だと思えば思うほど、それに対する執着が強くなったーー。
俺は、今のこの”考え”を馨に伝えたーー。
馨は俺の気持ちを尊重し「待つ」と言ってくれたー。・・本当に非の打ち所のない男だった・・。
俺は、自分の気持ちを誰かに吐き出したくなり、唯一俺の事情を知る男・・倉田大吾に相談したー。
その時、あの『ありえない提案』をされたのだったーー。
ひと通り・・話を聞いた倉田は、にやりと笑って言ったー。
「ーーいい相手がいる・・。」
以前本編に書いていた可憐視点の話です。
遅れてしまいすみませんでした。m(_ _)m
この通り・・可憐の心は真っ黒です。(笑) 本編と重ねて読んで頂ければと思っています。
次回は本編の方を書きたいと思っていますので、よろしくお願いします。