第1話:異世界転生と最初のネタバレ
【固有スキル「完全読本」が起動しました】
唐突に脳内に響いた無機質な電子音。
視界の端には、使い慣れたバグトラッキングシステムの通知画面そっくりの半透明ウィンドウが浮かんでいる。
「……なんだこれ。夢か?」
硬く冷たい床から上体を起こす。
そこは薄暗い石造りの通路だった。壁には等間隔に松明が並び、不気味な影を揺らしている。
最後の記憶ははっきりしている。炎上寸前のプロジェクトを徹夜で鎮火させ、無事にリリースを見届けた直後、急激な目眩に襲われて……そこから先がない。
過労で倒れてどこかの病院に運ばれたにしては、あまりにもファンタジーすぎる光景だ。
状況が掴めず混乱しかけたその時、目の前のウィンドウが更新された。
【対象事象:ユーザー「レン」の現在地および状況】
【仕様:過労死による異世界への魂の転生。ここは神話と都市伝説が交差する理不尽な世界である】
【真相:本来なら開始地点で女神による世界観の説明とチュートリアルが行われるはずだったが、担当の女神が二度寝して不在のためプロセスがまるごとスキップ。結果、いきなり致死率99パーセントの初期ダンジョンに放り込まれた状態である】
「……は?」
数秒の沈黙の後、思わず呆れ声が漏れた。
転生? 女神の二度寝でチュートリアルスキップ?
「おいおい、運用体制どうなってんだよ。引き継ぎも手順書もなしにユーザーを本番環境に放り込むとか、どこのブラック企業だ」
愚痴をこぼした直後、再び脳内に低くおどろおどろしい声が響いた。
『警告。これより先、決して振り返ってはいけない。振り返れば、冥界の猟犬に魂を喰い殺されるであろう』
立て続けにウィンドウが更新される。
【対象事象:「絶対に振り返ってはいけない迷宮」のトラップ】
【真相:この通路は前方に進むと無限ループする構造。振り返るという動作をトリガーに即死級の物理トラップが発動する。なお、本当の出口は開始地点のすぐ真上、天井の隠し扉である】
前に進めば無限ループ。後ろを向けば即死。
俺は無言でポケットを探り、自分のスマートフォンを取り出した。当然圏外だが、電源の落ちた真っ暗なディスプレイは、鏡の代わりになる。
画面を斜め上に向け、顔の角度を変えずに頭上の様子を反射させて確認する。
「あった。天井の石の色が、一枚だけ不自然に違う」
真上を向き、手を伸ばしてその石板を押し上げると、ギクリと重い音を立てて隠し扉が開いた。
這い上がった先には、強烈な太陽の光と、ファンタジーRPGで見るようなレンガ造りの街並みが広がっていた。馬車の車輪の音や、活気ある人々の声が聞こえてくる。
「バグ報告書を書くなら、重要度はクリティカル、担当者(女神)の過失割合は100パーセントってところだな」
服の埃を払いながら、ため息をつく。
「とりあえず、情報収集のために冒険者ギルドとやらを探すか。あと、俺の腰のために、ちゃんとした高反発マットレスがある宿屋も」
こうして、すべてのオチを完全把握した男による異世界デバッグの旅が幕を開けた。
初めて投稿します。
AIも使っての投稿になります。




