「呼び合うもの」
読んでいただけると幸いです
最初に気づいたのは、
熱だった。
目を覚ますと、
体の奥がじんわりと温かい。
寒くはない。
むしろ、心地いい。
それなのに、
胸の奥が、ざわついて落ち着かない。
「……?」
指先が、少し痺れる。
夜の歪みを見る感覚とは違う。
もっと、
内側から引っ張られるような感覚。
――呼ばれている?
その日の城は、妙に静かだった。
獣人たちの視線が、
昨日までより柔らかい。
というより……
どこか、遠慮が混じっている。
「……何か、
僕、変ですか」
食堂でそう聞くと、
近くにいた獣人が一瞬、言葉に詰まった。
「……いえ」
曖昧な返事。
その視線が、
僕の首元へ一瞬だけ落ちる。
何もないはずなのに、
そこが、じんと熱を持つ。
昼過ぎ。
回廊で、ガルドとすれ違った瞬間――
世界が、揺れた。
「……っ」
視界が白く滲む。
次の瞬間、
強い腕に支えられる。
「どうした」
低い声が、
すぐ近くで響いた。
「……分からない」
本当だった。
ただ、
近くにいないと、
不安になる。
ガルドの体温が、
触れただけで、
さっきまでのざわつきが落ち着く。
代わりに、
胸の奥が、きゅっと締まる。
「離れるな」
命令ではない。
――願いに近い声。
「……はい」
素直に返事をしている自分に、
驚く。
その夜。
夢を見た。
深い森。
月明かり。
獣の足音。
金色の瞳が、
闇の中で光る。
逃げる必要はなかった。
むしろ、
近づきたい。
呼ばれている。
――名を。
目を覚ますと、
息が、熱を帯びていた。
「……ガルド……」
無意識に、
名前を呼んでいた。
同じ夜。
城の別の部屋で、
ガルドもまた、眠れずにいた。
胸の奥に、
説明のつかない焦燥。
そして、
はっきりとした感覚。
――呼ばれた。
狼の本能が、
静かに、だが確実に告げている。
「……始まったか」
翌朝。
ザイードは、
二人を遠目に見て、
小さく息を吐いた。
「……やはり」
黒豹の耳が、
わずかに伏せられる。
獣人王の気配と、
人間の気配。
それが、
不自然なほど、重なっている。
「番の兆しだな」
確信。
だが、
口には出さない。
――まだ、本人たちが気づくには、
早すぎる。
僕はまだ、知らない。
この熱が、
偶然でも、
体調不良でもないことを。
ガルドも、
まだ言葉にしない。
ただ、
無意識に距離が縮まり、
離れられなくなっていく。
それを、
城と、
本能と、
黒豹の側近だけが、
静かに見守っていた。
――番は、
もう、
始まりかけている。
ついに始まりましたね




