「獣人王の腕の中」
読んでいただけると幸いです
夜の城は、昼とは別の顔をしていた。
回廊に灯された魔石の明かりが、
石壁に柔らかな影を落とす。
昼の張り詰めた空気が嘘のように、
静けさが戻っていた。
それでも、
僕の胸の奥は落ち着かない。
人間の使者。
返還という言葉。
――僕は、物みたいだった。
「眠れないか」
低い声に、肩が跳ねる。
振り返ると、
ガルドがそこにいた。
「……少し」
正直に答える。
彼は何も言わず、
窓辺へ歩き、外を見た。
「城は安全だ」
淡々とした声。
「結界も、兵も、
側近もいる」
それでも、
言葉の続きを待ってしまう。
「……それでも、
怖かったです」
小さく零す。
「僕が、
取り合われるみたいで」
沈黙。
ガルドが、
ゆっくりとこちらを向いた。
「怖がらせた」
短い謝罪。
その一言が、
胸にじんわり染みる。
「……僕、
ここにいていいんですよね」
何度も聞いた言葉。
それでも、
確かめずにはいられない。
ガルドは近づき、
僕の前に立つ。
圧倒的な体格差。
それなのに、
威圧感はなかった。
「俺がいる」
それだけで、
答えだった。
大きな手が、
そっと背に回される。
抱き寄せられると、
硬い鎧越しでも、
体温がはっきり伝わってきた。
「王様…」
「ガルドだ…そう呼べ」
「……ガルド」
名前を呼ぶと、
彼の胸が、わずかに震えた。
「お前は、
俺の城にいる」
低く、静かな声。
「俺の許しなく、
誰にも触れさせない」
独占。
それなのに、
不思議と怖くなかった。
むしろ、
胸の奥がほどけていく。
「……檻、みたいですね」
冗談めかして言う。
「檻だ」
否定しない。
「だが、
鍵は俺が持つ」
その言葉に、
笑ってしまった。
頬が、
ガルドの胸に触れる。
心臓の音が、
ゆっくりと、確かに鳴っている。
ガルドの腕に、
力が込められた。
「離す気はない」
獣人王の腕の中は、
広くて、温かくて、
外の世界を思い出せないほどだった。
夜の歪みは、
今夜も、
どこにも見えない。
それが、
彼の腕の中だからなのか。
僕自身が、
ここを選び始めているからなのか。
答えは、
まだ分からない。
ただ――
今は、この温もりが嬉しかった。
ガルドの胸板気持ちよさそうですね




