「境界を超えてくるもの」
読んでいただけると幸いです
城門が閉じる音は、
低く、腹に響いた。
重厚な鉄と石が噛み合うその音は、
外界との境界が断たれた合図だ。
城の中の空気が、
わずかに張り詰める。
「……来たな」
ガルドの声が低く落ちる。
僕は、
中庭を見下ろす回廊に立っていた。
朝霧の向こう。
獣人たちに囲まれながら、
数人の人影が城内へと導かれてくる。
――人間だ。
布の外套。
硬い表情。
城の威圧に、無意識に肩を強張らせている。
胸の奥が、
ひやりと冷えた。
「人間の国からの使者だ」
ガルドは、視線を逸らさない。
「目的は一つ」
その言葉の先を、
聞かなくても分かってしまう。
――僕だ。
*
謁見の間は、
昨日よりも重い空気に満ちていた。
玉座の左右には獣人の兵。
その一歩前、
静かに立つ影が一つ。
黒豹族の側近、ザイード。
耳は伏せられ、
尾は微動だにしない。
それだけで、
異常な緊張が伝わってくる。
「獣人王ガルド殿」
人間の使者が、
形式通りに頭を下げる。
「我々は、人の国を代表し――」
「要件を述べろ」
ガルドは遮った。
余計な言葉を許さない声。
「……最近、
夜の歪みが各地で沈静化しています」
使者は慎重に言葉を選ぶ。
「その中心が、
この獣人の城であると判明しました」
視線が、
一瞬だけ――僕に向く。
ザイードの耳が、わずかに動いた。
「人間の中に、
歪みに影響を与える者がいる」
使者は続ける。
「それが、
王城に保護されていると聞き及んでおります」
沈黙。
「その人間を、
人の国へ返還していただきたい」
空気が、
凍りついた。
*
「――拒否する」
答えは、一瞬だった。
ガルドの声に、迷いはない。
「……王」
使者が言葉を詰まらせる。
「その人間は、
我々の国にとっても重要な存在で――」
その時。
ザイードが、一歩前へ出た。
足音は、ほとんどしない。
「その人間は、
すでに王の管理下にあります」
低く、冷静な声。
「境界を越えて、
こちらの所有物に手を伸ばす行為」
金緑の瞳が、使者を射抜く。
「それは、
宣戦と受け取ってよろしいか」
使者の顔から、血の気が引いた。
「……っ、
そのような意図は――」
「ならば、引け」
ザイードは淡々と言う。
「黒豹族は、
失うと決めたものは、必ず取り戻す」
その言葉に、
獣人たちの気配が、一斉に重くなる。
*
僕は、
ただ立ち尽くしていた。
話題の中心にいながら、
意見を求められることはない。
それが、
守られている証だと分かっていても――
怖かった。
「……僕は」
声を出そうとした瞬間、
ガルドの手が、肩に触れた。
大きく、温かい。
「喋る必要はない」
低い声が、すぐ傍で落ちる。
「お前は、
ここにいればいい」
その一言で、
胸の奥の震えが、
少しだけ静まった。
*
使者たちは、
何も得られないまま城を去った。
その背中を見送った後、
ザイードが小さく息を吐く。
「……厄介になります」
「分かっている」
ガルドは短く答える。
「だが、
手放す気はない」
その言葉に、
ザイードはわずかに口角を上げた。
「ええ。
でしょうね」
そして、
彼は僕を見る。
「これで、
あなたは戻れなくなりました」
脅しではない。
事実の確認だ。
胸が、どくりと鳴る。
――僕は、
獣人王の庇護下にある。
それは、
優しさであり、
檻でもある。
その両方を抱えたまま、
物語は、
次の段階へ進んでいく。
リオめっちゃ守られてますね
ガルド頑張れ




