誓い
読んでいただけると幸いです
戦場に残っていた裂け目は、
音もなく収束し、
まるで最初から存在しなかったかのように
空へ溶けていく。
空間は正され、
地は静まり、
あれほどまでに世界を軋ませていた異常は、
完全に消滅した。
歪みは、もうどこにもない。
完全獣化していたガルドの巨躯は、
力を失ったように崩れ、
ゆっくりと人の姿へ戻っていった。
戦場に立つのは、
ただ一人の王と、
その腕に抱えられた僕だけ。
勝利の歓声は上がらない。
あまりにも多くのものを、
失いすぎたからだ。
ガルドは、
僕を地に下ろすと、
しばらく無言で立ち尽くしていた。
視線は、
僕の身体に向けられている。
人ではない輪郭。
少し長い耳。
獣の色を帯びた瞳。
戻らなかった爪。
半獣化は、
癒えなかった。
「……すまない」
低く、掠れた声。
それは王の声ではなく、
一人の男のものだった。
「俺が――」
「俺が前線で踏みとどまれなかった」
「俺が獣になったせいで」
「お前に……背負わせた」
ガルドの手は、
震えていた。
剣を振るう手でも、
獣を抑え込んだ手でもない。
後悔に縛られた、
ただの手。
「お前は、人間だった」
噛みしめるように言う。
「俺のせいで……戻れなくなった」
僕は、
少し考えてから、
自分の手を見つめた。
確かに、
もう人間ではない。
昔の自分には戻れない。
それでも。
「僕が選びました」
静かに言う。
「ガルドを助けるって」
「隣に立つって」
ガルドは、
その言葉を聞いても、
すぐには顔を上げなかった。
「……それでもだ」
声が低く沈む。
「守るはずの者に、
傷を残した」
「王としても」
「番としても」
「俺は……」
言葉が続かない。
その背中は、
戦場よりも重く見えた。
僕は一歩近づき、
そっと彼の胸に触れた。
半獣の身体に宿った、
癒しの力が、
微かに流れる。
完全には治らない。
でも、
痛みを和らげることはできる。
「……ガルド」
顔を上げさせる。
「僕は後悔してません」
「人間じゃなくなったことも」
「この身体のことも」
ガルドの瞳が揺れる。
「それより――」
僕は、少しだけ笑った。
「あなたが生きてる」
「それで十分です」
ガルドは、
何も言えなくなった。
ただ、
僕を強く、
けれど壊さないように抱き寄せる。
「……すまない」
もう一度。
今度は、
誓いのように。
「この先は」
「俺が背負う」
「お前が失ったもの以上に」
「守る」
歪みは消えた。
戦争も終わった。
そして僕は、
完全な人間ではない。
それでも。
二度と同じ悲劇を繰り返さない。
そう、
確信できた。
リオは後遺症残っちゃったかー




