覚醒
読んでいただけると幸いです
歪みの外縁を裂くように、
一つの気配が戦場へ踏み込んだ。
僕は、走っていた。
肺が焼ける。
足がもつれる。
それでも、止まれなかった。
――ガルド。
歪みの中心で、
理性を失った巨大な影が暴れているのが見えた。
違う。
分かる。
あれは、
壊れかけているだけだ。
「……やめて」
声は小さい。
戦場の喧騒に、かき消されそうになる。
でも――
届かなければいけない。
獣王の一撃が、
空間ごと歪みを引き裂いた。
その反動で、
ガルドの身体から、
黒い魔力が噴き出す。
制御不能。
溢れすぎた力。
このままでは、
歪みより先に、
彼自身が壊れる。
「……ガルド!」
叫んだ瞬間。
獣の金の瞳が、
わずかに揺れた。
――番。
理性の底、
最も深いところに刻まれた認識。
それが、
僕を捉えた。
次の瞬間、
強烈な圧が僕を襲った。
近づくだけで、
骨が軋む。
魔力が、
暴風のように吹き荒れている。
「……来るな!」
獣の喉から、
掠れた声が落ちた。
命令でも、拒絶でもない。
――恐怖だ。
僕を壊してしまうことへの。
「……行きます」
僕は、
一歩、踏み出した。
番の紐が、
はっきりと繋がった感覚。
胸の奥が、
熱く、強く引かれる。
今まで感じていたものとは、
次元が違う。
――覚醒。
ガルドから溢れ出す力が、
僕に流れ込んできた。
「……っ!!」
息が詰まる。
熱い。
重い。
獣の本能が、
直接、体内に叩き込まれる。
骨が、軋んだ。
背中が、
熱を持つ。
視界が、
一瞬だけ、鋭くなる。
耳が、
人のものより少しだけ伸びた。
爪が、
わずかに黒く変色する。
――半獣化。
「……リオ……?」
獣の声が、
初めて揺れた。
「大丈夫……」
震えながら、
それでも言う。
「半分……引き受けます」
番の力は、
単なる共有じゃない。
受け止め、
循環させ、
変質させる。
僕の中で、
獣の力はそのまま暴れなかった。
――癒しへと、変わる。
荒れ狂う魔力が、
やわらかな流れに変わる。
歪みと衝突する力ではなく、
歪みを“撫でる”ような力。
傷口に触れ、
熱を下げ、
壊れかけた部分を繋ぎ止める。
ガルドの動きが、
目に見えて鈍った。
爪が、
空を裂く寸前で止まる。
唸り声が、
低く、苦しげに変わる。
「……くそ……」
獣の輪郭の中で、
人の声が戻り始める。
「……離れろ……」
「お前まで……壊す」
「壊れません」
即答だった。
怖い。
正直、死ぬほど怖い。
でも――
離れない。
僕は、
両手で、
巨大な胸元に触れた。
鼓動が、
滅茶苦茶だ。
早すぎて、
痛い。
「……戻って」
小さく、でも確かに言う。
「王じゃなくていい」
「獣でもいい」
息を吸う。
「……僕の番でいてください」
獣の身体が、
大きく震えた。
暴走していた魔力が、
一気に僕へ流れ込む。
視界が白く弾ける。
膝が崩れそうになるのを、
巨大な腕が、
ぎりぎりで支えた。
「……馬鹿」
低く、
確かに人の声。
「……なんで、来た」
「……番だからです」
息も絶え絶えに、
それでも笑う。
歪みは、
まだ消えていない。
だが、
二つの力が噛み合ったことで、
暴走は止まった。
破壊ではなく、
抑制と癒し。
戦場は、
一瞬だけ、
息を止めた。
獣王の暴走が止まり、
その胸元で、
半獣化した人間が立っている。
誰もが理解した。
――番の力が、
目覚めたのだと。
ガルドは、
ゆっくりと、
リオを抱き寄せた。
もう、
暴れる力はない。
残っているのは、
守る力だけだ。
「……もう二度と」
「一人で背負わせない」
低く、
誓う声。
僕は、
小さく頷いた。
歪みは、
まだそこにある。
戦争も、
終わっていない。
けれど――
この瞬間、
確かに流れは変わった。
獣王と、
半獣の番。
破壊と癒しが並び立つとき、
この戦場は、
もう人間の思惑だけでは、
動かなくなっていた。
ケモナー歓喜のリオの半獣化だよ〜(笑)




