嵐の前の静けさ
読んでいただけると幸いです
戦場は、静かすぎた。
音はある。
剣が擦れる音。
鎧が鳴る音。
呼吸の荒さ。
それなのに――
生きている気配が薄い。
血の匂いが、まだ立っていない。
怒号も、咆哮も、どこか遠い。
まるでこの場所だけ、
世界が一拍、息を止めているようだった。
ガルドは、嫌な予感を拭えずにいた。
人間側の陣が、妙に整っている。
恐怖で足をすくませる者もいなければ、
士気に任せて前に出る者もいない。
全員が、同じ温度で立っている。
それが、何より異様だった。
――待っている。
そうとしか思えない。
「……来るな」
誰に向けた言葉か、自分でも分からない。
人間側の後方。
陣の中心から、わずかにずれた場所。
そこに、魔導兵たちが並んでいた。
詠唱はない。
陣も、光もない。
ただ、立っている。
手袋を外し、
素手で地面に触れ、
土の冷たさを確かめるように。
指が、微かに震えている者がいた。
恐怖か。
それとも――
覚悟か。
「王……」
側近の声が、かすれる。
「あれは……」
「ああ」
ガルドは目を逸らさない。
「歪みだ」
その言葉を口にした瞬間、
周囲の獣人兵が、はっきりと息を呑むのが分かった。
歪み。
魔術ではない。
術ではない。
世界を壊す前提で使う力。
成功すれば、敵を消す。
失敗すれば、使い手が消える。
どちらに転んでも、
地獄だ。
魔導兵の一人が、深く息を吸った。
その音が、
やけに大きく聞こえた。
別の一人が、
何かを呟く。
声は聞こえない。
だが、口の動きが――
祈りだった。
誰に向けた祈りかは、分からない。
神か。
自分か。
それとも、隣に立つ仲間か。
ガルドの背中を、冷たい汗が伝う。
歪みは、溜めがある。
この沈黙は、
その溜めだ。
「前線、保て」
声は、低く抑えた。
「押すな。引くな。
ここから一歩でも乱れれば――」
言葉を、飲み込む。
続きを言う必要はなかった。
獣人兵たちも、分かっている。
乱れた瞬間、
そこを定着点にされる。
空間が、微かに歪んだ。
錯覚かと思うほど、僅かに。
だが――
確かに。
空気が、冷える。
匂いが、消える。
音が、遠のく。
戦場から、
現実が一枚、剥がれ落ちた。
魔導兵の一人が、膝をついた。
まだ、何も起きていない。
それでも、
もう戻れないと分かる。
「……始まるぞ」
ガルドは、剣を握り直した。
心臓の音が、
やけにうるさい。
世界が、
“こちらを見ている”。
そんな錯覚が、
確信に変わる。
次の瞬間。
――歪みは、音もなく口を開ける。
歪みの設定忘れてないですよ
やっとこさ登場ってだけです
決して忘れてた訳ではないです




