「ここは、逃げ場のない場所だ」
読んでいただけると幸いです
城の中は、静かだった。
石造りの廊下は広く、
獣人たちの足音が遠くに響くだけ。
彼らは皆、僕を見ると足を止め、
深く頭を下げた。
「……?」
戸惑っていると、
隣を歩くガルドが、低く言う。
「俺が連れてきた」
それだけで、理由として十分らしい。
誰一人、
人間がここにいることを咎めない。
それどころか――
好奇の視線すら、向けられなかった。
*
通された部屋は、
城の奥、王の私室に近い場所だった。
柔らかな毛皮が敷かれ、
暖炉の火が揺れている。
「……立派すぎます」
「必要だ」
短い返事。
「お前は、消耗している」
そう言われて、
初めて自覚した。
身体が、重い。
瞼が、落ちてきそうだ。
「……夜になると、どうしても……」
「無理をするな」
ガルドはそう言って、
僕の前に膝をついた。
視線が、同じ高さになる。
それだけで、
心臓が跳ねる。
「触れる」
確認するような一言。
頷くと、
大きな手が、そっと僕の手首に触れた。
――あ。
熱い。
でも、不快じゃない。
触れた瞬間、
頭の奥で鳴り続けていた痛みが、
すっと引いていく。
「……楽、です……」
息を吐くように言うと、
ガルドの眉が、わずかに動いた。
「やはりな」
低く、満足げな声。
「お前の歪み視は、俺の魔力で安定する」
「……じゃあ……」
「離す理由がない」
即答だった。
冗談でも、優しさでもない。
ただの、事実。
*
その日から、
僕の生活は一変した。
食事は、王と同じものが運ばれ、
夜になると、必ずガルドが様子を見に来る。
「眠れ」
「……はい」
それだけのやり取り。
なのに、不思議と安心できた。
夜。
部屋の窓から見える森には、
かすかな歪みが漂っている。
でも、
以前のような恐怖はなかった。
城全体が、
巨大な檻のように、
僕を守っている。
……守っている?
それとも。
*
眠りに落ちる直前、
扉が、静かに開いた。
ガルドだった。
「起こしたか」
「いえ……」
彼は、部屋の中に入り、
躊躇なく僕のベッドの脇に座る。
距離が、近い。
「……あの」
「逃げようと思ったか」
心臓が、跳ねた。
「いいえ」
反射的に否定する。
嘘じゃない。
少なくとも、今は。
「なら、いい」
そう言って、
ガルドは僕の髪に、そっと触れた。
獣人の指は、
少し硬くて、
温かい。
「ここは、安全だ」
低く、囁く。
「お前が外で壊れることは、許さない」
それは――
優しさなのか、
執着なのか。
分からない。
でも。
人の街で追い出された僕にとって、
この言葉は、あまりにも甘かった。
目を閉じると、
その温もりが、
確かにそこにあった。
――ここは、逃げ場のない場所だ。
けれど同時に、
初めて、
「帰りたい」と思える場所でもあった。
魔力の相性も良かったようで




