王は退かず、番は隣に立つ
読んでいただけると幸いです
警戒鐘が鳴った。
短く、重く、三度。
それだけで城は戦時の顔になる。
中庭では獣人たちが無言で散開し、
武具が擦れる音だけが低く響く。
慌てる者はいない。
この国は、こうなる日を想定して生きてきた。
(……始まる前から、もう戦場だ)
僕は回廊の手すりに指を置いたまま、その光景を見下ろしていた。
「ここにいたか」
背後から声が落ちてくる。
振り向くと、ガルドが立っていた。
鎧に身を包み、背筋は真っ直ぐ。
獣人王としての威圧が、何も言わずとも周囲を支配している。
「人間国が動いた」
それだけで十分だった。
「……本気ですね」
「ああ。もう引き返す気はない」
迷いのない声。
「こちらが黙っていれば、
弱腰と判断して踏み込んでくる」
玉座の間は、張り詰めていた。
誰一人、腰を下ろさない。
視線は王へ――だが、軽くはない。
「人間国、国境沿いに魔術部隊を集結」
「補給線も確認済み」
「境界侵犯は?」
「未だだが、時間の問題」
「狙いは王だ」
ザイードが静かに告げる。
「正確には――番」
一斉に視線が僕へ向く。
逃げ場はない。
「地下に避難させるべきだ」
長老の一人が口を開く。
「戦が始まれば、
王の精神は必ず揺らぐ」
「揺らがせる要因は、遠ざけるべきだ」
その瞬間。
ガルドが、一歩前に出た。
床を踏みしめる音が、やけに大きく響く。
「――却下だ」
短く、鋭い。
「俺は王だ。
守るために逃げるような選択はしない」
「だが王!」
別の声が上がる。
「もし完全獣化すれば――」
「それでもだ」
ガルドは、言葉を被せた。
低く、断ち切るように。
「獣になる可能性を理由に、
番を檻に入れるつもりはない」
拳を強く握る。
「俺は、退かん」
誰も、続けて言葉を発せなかった。
王の声は、議論を終わらせる力を持っている。
静寂の中、
視線が僕へと集まる。
重圧で、喉が詰まりそうになる。
それでも、僕は前に出た。
「……僕は、地下へ行きません」
声は震えていなかった。
「ここにいるのは、守られるためじゃない」
「リオ」
ガルドが呼ぶ。
低く、強い声。
制止ではない。
覚悟を確かめる声。
「分かってます」
僕は頷いた。
「あなたが獣化したら、
僕が何かできる保証はありません」
はっきりと言う。
「それでも、
僕はあなたの番です」
空気が、ざわりと揺れた。
勇敢でも、無謀でもない。
選び取った立場だった。
ガルドは、ゆっくりと僕を見下ろす。
その目に、迷いはない。
「……いい覚悟だ」
短く言い切る。
「なら、俺も迷わん」
「俺は王として前に立つ」
低く、力強く。
「敵が来るなら、
正面から叩き潰す」
「お前は、俺の隣にいろ」
それは命令だった。
同時に、約束でもあった。
評議は終わった。
誰も納得していない。
それでも、誰も逆らえない。
王が、決めたからだ。
城外では、
人間国の魔術陣が赤く灯り始めている。
戦争は、まだ始まっていない。
だが――
王はすでに、戦場に立っていた。
同じような話が続いて申し訳ない




