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追放された人間は、最強獣人に囲われ溺愛される 〜世界の歪みが見える僕は、人の街では生きられませんでした〜  作者: ちび太


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沈黙は、すでに刃を抜いている

読んでいただけると幸いです

国境は、異様なほど静かだった。


風は吹いている。

木々も揺れている。

だが――生き物の気配が薄い。


獣人たちは、

この静けさを「安全」とは呼ばない。


それは、

狩りの直前の沈黙に似ていた。



境界線を見下ろす高台に、

ガルドは立っていた。


鎧は着けていない。

剣も、まだ抜いていない。


だが、その背中には、

王としての圧が宿っている。


「……増えています」


隣で、ザイードが低く告げた。


「人間国側の陣地。

 兵の数は大きく変わりませんが、

 魔術師の比率が上がっています」


ガルドは視線を動かさない。


霧の向こう。

淡く光る幾何学模様。


魔術陣。


攻撃用ではない。

だが、儀礼用でもない。


「探っているな」


「はい」


ザイードの声は冷静だが、

尾の動きがわずかに速い。


「こちらの結界強度、

 王の出方、

 そして――」


一拍、置いて。


「“あの人間”の存在を」


ガルドの金色の瞳が、

わずかに細くなる。


「……やはり、諦めてはいないか」


一度、失敗しただけだ。

奪えなかっただけだ。


人間国にとって、

リオは「諦める理由」にはならない。


むしろ――


「国を動かす価値があると、

 判断された」


その言葉を口にした瞬間、

周囲の空気が重くなる。



人間国は、何も言ってこない。


正式な抗議もない。

交渉の使者も来ない。


だが、

準備だけは、確実に進んでいる。


「交渉を省く、か」


ガルドは小さく息を吐く。


「随分と、性急だな」


ザイードは首を横に振った。


「性急ではありません。

 合理的です」


「……どういう意味だ」


「交渉は、

 拒否される可能性がある」


淡々と続ける。


「ですが、

 力の行使なら、

 相手の意思を問わず結果を得られる」


ガルドは、鼻で笑った。


「随分と、人間らしい判断だ」


感情ではない。

正義でもない。


利益だけを見ている。


それが、

最も厄介だった。



一方、城の地下。


リオは、

石壁に手を当てていた。


微かな振動が、

指先に伝わる。


(……来てる)


地上の魔力の流れ。

意図的に組まれた、

“奪うための構造”。


壊す魔術ではない。

封じる魔術でもない。


――引き寄せる。


歪み視を通して見ると、

それは網のように広がっている。


(……国ごと、包む気だ)


自分一人を取るために、

戦争寸前まで持ち込む。


怖さより先に、

胸の奥が冷えた。


「……それでも」


小さく呟く。


「行かない」


行けば、

争いは終わるかもしれない。


でも――


それは、

この国を売ることだ。



夕刻。


ガルドは、

地下へ降りてきた。


扉を開けると、

リオはすぐに顔を上げる。


「……始まりそう、ですね」


先に言われて、

ガルドは少しだけ口角を上げた。


「耳がいいな」


「歪みが、

 落ち着かないんです」


嘘ではない。

だが、それだけでもない。


「……僕のせいで」


最後まで言わせず、

ガルドが遮る。


「違う」


低く、強い声。


「お前は、理由じゃない」


一歩、近づく。


「選んだのは、

 向こうだ」


リオは、

その言葉を噛みしめる。



夜。


国境の霧が、

さらに濃くなる。


人間国の陣地で、

新たな魔術陣が灯る。


まだ、撃たれない。

まだ、踏み込まれない。


だが――


沈黙は、

すでに刃を抜いていた。


ガルドは高台で、

夜の境界を睨む。


(……守る)


国を。

民を。


そして――


地下にいる、

たった一人の人間を。


戦争は、

まだ始まっていない。


だが、

覚悟だけは、

もう終わっていた。


いよいよ戦争です

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