「触れられない牙」
読んでいただけると幸いです
それは、
あまりにも些細な違和感から始まった。
朝の中庭。
陽光が差し込み、
獣人たちの往来も、
いつも通り。
――表向きは。
リオは、
ザイードの護衛のもと、
回廊を歩いていた。
距離は、
数歩。
近すぎず、
離れすぎない。
黒豹族の側近が取る、
完璧な位置取り。
「……少し、
人が多いですね」
リオが言うと、
ザイードの耳が、
僅かに動いた。
「……本来は、
この時間帯ではありません」
低い声。
警戒が、
はっきりと混じる。
次の瞬間。
上から――
影が落ちた。
「……っ!」
ザイードが、
即座に、
リオを引き寄せる。
轟音。
石の破片が、
床に散る。
ほんの数秒前まで、
リオが立っていた場所に、
巨大な装飾石が、
転がっていた。
――事故。
そう言えば、
そう見える。
だが。
「……固定金具が、
外されている」
ザイードが、
低く告げる。
感情を、
殺した声。
「自然劣化では、
ありません」
周囲が、
ざわつく。
使用人たちの顔に、
浮かぶのは、
恐怖と、
混乱。
リオの胸が、
どくん、と鳴った。
――狙われている。
はっきりと、
理解した。
すぐに、
城内封鎖。
ガルドが、
現れる。
金色の瞳が、
石塊を一瞥し、
次に、
リオを見る。
――無事。
それだけで、
周囲の空気が、
一段、重くなった。
「……怪我は」
「……ありません」
答えると、
ガルドの喉が、
低く鳴った。
怒りを、
飲み込む音。
「事故ではない」
断定。
「……俺への、
警告だ」
ザイードが、
一歩前に出る。
「犯人は、
まだ、
動きを隠しています」
「殺す気は、
ありません」
静かに、
しかし、
確実に。
「……揺さぶる気です」
ガルドの視線が、
リオに戻る。
そこに、
迷いはない。
「……俺の側を、
離れるな」
命令ではない。
願いだ。
リオは、
小さく、
息を吸う。
「……一人には、
なりません」
震えは、
ない。
その夜。
私室。
ガルドは、
珍しく、
眠らなかった。
リオが眠るのを、
確かめ、
その隣で、
じっと、
目を開けている。
金の瞳が、
暗闇で、
獣の色を帯びる。
(……次は、
もっと、
露骨になる)
分かっている。
それでも。
腕の中の、
温もりを、
失う気は、
ない。
触れられない牙は、
確実に、
距離を詰めていた。
――だが、
番を得た獣は、
もう、
後退しない。
怖いですね〜
外にも内にも敵が…




