「牙は、闇で研がれる」
夜の城は、
昼とは別の顔を持つ。
灯りの落ちた回廊。
足音を吸い込む石床。
そして――
声が、よく通る静けさ。
リオが眠りについた頃、
城の北棟の一室に、
数人の獣人が集まっていた。
王の許可を必要としない、
古い血筋。
――力を、
持ちすぎた者たち。
「……完全獣化したと聞く」
最初に口を開いたのは、
灰色の鬣を持つ獣人だった。
「人間の番の前で、
理性を失わずに?」
鼻で笑う。
「信じろという方が、
無理だ」
「問題は、
そこではない」
別の影が言う。
「番が、人間だ」
その言葉に、
空気が、
ぴたりと止まった。
「王は、
番に引きずられる」
「それが、
弱点になる」
「獣は、
守るもののためなら、
世界を壊す」
――経験則。
「ならば」
誰かが、
低く囁く。
「試せばいい」
その場に、
短い沈黙。
そして、
全員が、
同じ結論に至る。
「番を、
揺さぶる」
殺すのではない。
――壊す。
心を。
信頼を。
選択を。
その頃。
王の私室。
リオは、
夢を見ていた。
深い森。
夜。
金色の目。
――ガルド。
無意識に、
身を寄せる。
すぐ隣で、
ガルドは、
目を開けた。
(……近い)
胸の奥が、
ざわつく。
理性が、
警鐘を鳴らす。
獣の勘。
そっと、
リオを起こさないように、
体を離す。
代わりに、
額に手を当てる。
「……守る」
誰にも聞かれない、
誓い。
その瞬間。
ガルドは、
確信した。
――来る。
番を狙う、
意図的な牙。
翌朝。
ザイードが、
無言で、
一通の報告書を差し出した。
「……不穏な動きが、
あります」
短く、
的確に。
ガルドは、
書面を一瞥し、
燃えるような金の瞳を、
細めた。
「……始まったな」
リオは、
その横で、
静かに息を吸う。
怖くないわけじゃない。
でも――
もう、
一人じゃない。
「……僕も」
小さく、
でも確かに言う。
「逃げません」
ガルドは、
何も言わず、
ただ、
その手を取った。
闇で研がれた牙は、
まだ、
姿を見せない。
だが――
番を得た獣は、
もう、
退かない。
物語は、
次の局面へと、
静かに踏み込んでいった。




