異変
読んでいただけると幸いです
それは、少しずつ始まった。
はっきりとした異変ではない。
気のせいだと片づけられる程度の、違和感。
最初に気づいたのは、リオだった。
*
夜になると、
歪みが見えないはずなのに――
胸の奥が、ざわつく。
視界は澄んでいる。
痛みも、ない。
なのに、
身体の内側だけが、
落ち着かない。
「……おかしい」
寝台に横になっても、
眠れない。
鼓動が、
少し速い。
熱があるわけでもないのに、
指先が、じんと痺れる。
まるで、
何かが足りない。
――いや。
足りない、というより。
届いていない。
そんな感覚。
一方で、
ガルドにも変化は起きていた。
訓練中、
集中が途切れる。
剣を振る手は鈍っていない。
判断も、遅れていない。
それでも。
「……」
胸の奥に、
不快な重さが残る。
魔力が、
過剰に滞留している。
外へ放出しても、
内側に戻ってくる。
まるで、
行き場を失ったように。
ザイードが、
それに気づいた。
「王よ」
「分かっている」
短く返す。
「制御はできている」
「……制御できていることが、
問題です」
ガルドは、
わずかに眉を動かした。
「本来なら、
分散するはずの魔力が、
一箇所に引き寄せられている」
言わずとも、
向かう先は同じだった。
リオは、
日に日に疲れやすくなった。
歪みを見ていないのに、
頭が重い。
呼吸が浅くなり、
食欲も落ちる。
それでも、
城を歩くと、
不思議と楽になる。
理由は、
分かっていた。
ガルドが近くにいるときだけ、
症状が和らぐ。
廊下ですれ違うだけで、
胸の圧迫感が薄れる。
声を聞くだけで、
指先の痺れが引く。
「……おかしいですよね」
ぽつりと零す。
ザイードは、
即答しなかった。
「獣人にとっては、
珍しくありません」
「……人間でも?」
「本来は、起きません」
静かな否定。
それが、
より不安を煽った。
ガルドは、
夜ごとに眠りが浅くなった。
夢を見る。
リオが、
城の外に立っている夢。
呼び止めても、
振り返らない。
目が覚めると、
胸の奥が焼けるように痛む。
「……」
魔力が、
荒れている。
意識しなければ、
周囲を圧してしまうほど。
王として、
致命的な状態ではない。
だが、
個としては――危うい。
触れれば、
落ち着くことは分かっている。
けれど、
触れる理由が、
まだ足りない。
二人が顔を合わせると、
奇妙な沈黙が生まれた。
互いに、
同じものを抱えていると、
無意識に理解している。
だが、
言葉にすれば、
越えてしまう。
「……最近、
眠れていませんか」
リオが、先に言った。
「ああ」
ガルドは、
嘘をつかない。
「お前は」
「……同じです」
視線が合う。
一瞬、
空気が張り詰める。
魔力が、
微かに反応する。
その場にいるだけで、
身体が訴える。
――近づけ。
――離れるな。
だが、
まだ、踏み出せない。
限界は、
ある夜、同時に来た。
リオは、
立っていられなくなった。
歪みはない。
敵襲もない。
それでも、
膝が崩れる。
「……息が……」
ガルドが、
即座に支える。
触れた瞬間、
二人とも理解した。
これ以上、
引き延ばせない。
リオの震えが止まり、
ガルドの魔力が静まる。
だが、
それは一時的だ。
「……離れると、
また、戻ります」
リオの声は、
かすれていた。
「分かっている」
ガルドの声も、
低く揺れる。
守るために触れるのか。
王として制御するためか。
――違う。
これは、
互いが耐えきれなくなっている。
番になる前夜。
二人は、
それぞれの場所で、
同じことを思っていた。
このままでは、
壊れる。
拒めば、
失う。
選ばなければ、
終わらない。
身体が、
心よりも先に、
答えを知っていた。
だからこそ。
次の夜は、
もう、
逃げられなかった。
ついにこの時が




