日常
読んでいただけると幸いです
獣人国の朝は、早い。
城の外庭から、
低く伸びる号令と、
金属の触れ合う音が聞こえてくる。
リオは、
窓辺に立ってそれを眺めていた。
朝霧の中、
獣人たちが隊列を組み、
剣や槍を振るっている。
動きは揃っているが、
どこか自由だ。
人の国の兵のような、
息苦しさがない。
「……すごい」
思わず漏れた声に、
背後から低い声が返る。
「日課だ」
ガルドだった。
既に身支度を整え、
簡素な外套を羽織っている。
「毎日、あんな訓練を?」
「狩りも戦も、
身体が覚えていなければ死ぬ」
淡々とした答え。
けれど、
どこか誇らしげだった。
*
朝食の場は、
広い食堂だ。
王と同じ卓に座ることに、
リオはいまだ慣れない。
「……本当に、
ここでいいんですか」
「他に空いている席はない」
そう言い切られると、
何も言えない。
食卓には、
焼いた肉と、
香草を使った濃いスープ、
果実のパン。
味は素朴だが、
不思議と身体に馴染む。
「……美味しい」
「だろう」
ガルドは短く答え、
自分の食事を続ける。
周囲の獣人たちは、
それを当たり前の光景として受け入れていた。
人間が王の隣にいることを、
誰も特別扱いしない。
*
城の中庭。
昼になると、
職人たちが集まる。
武具を打つ音。
革をなめす匂い。
薬草を刻む音。
リオは、
鍛冶師の手元を覗き込み、
目を丸くしていた。
「火、怖くないのか」
声をかけられて、
慌てて首を振る。
「……ここだと、
頭が痛くならないんです」
それを聞いた獣人は、
不思議そうに笑った。
「じゃあ、
この城は合ってるな」
その一言が、
胸に残った。
*
午後。
ザイードが、
書庫で仕事をしていた。
大量の羊皮紙を前に、
淡々と目を通している。
「……いつも、
そんなに静かなんですか」
「必要な音以外は、
邪魔になる」
視線を上げずに答える。
だが、
リオが近くを通ると、
書簡をそっとずらした。
無意識の配慮。
それに気づいて、
リオは少しだけ笑った。
*
夕方。
城下では、
小さな市が立つ。
獣人たちが、
肉や毛皮、木工品を並べ、
子どもたちが走り回っている。
リオが歩くと、
何人かが軽く手を振った。
夜。
焚き火を囲み、
獣人たちは歌う。
言葉の少ない、
低くゆったりした旋律。
リオは、
少し離れた場所で、
その光景を眺めていた。
「混ざらないのか」
ガルドが隣に立つ。
「……いいんですか」
「嫌なら、誰も強制しない」
それが、
獣人国の日常だった。
近づくのも、
離れるのも、
自分で選べる。
リオは、
小さく頷き、
焚き火の輪に足を踏み入れた。
誰も、
驚かなかった。
少し場所を空け、
自然に迎え入れる。
*
夜が更け、
城に戻る道すがら。
「……人の国より、
静かですね」
「無駄な言葉が少ない」
ガルドは言う。
「必要なものは、
行動で示す」
リオは、
その横顔を見る。
言葉は少ない。
けれど、
置いていかれない。
「……僕、
ここが好きです」
ぽつりと零す。
ガルドは、
すぐには答えなかった。
少しだけ歩調を緩め、
低く言う。
「なら、
それでいい」
夜の歪みは、
どこにもなかった。
それが、
この国の日常であり、
リオにとっての、
初めての「普通」だった。
そういえば書いてなかったなと思って慌てて日常パートをはさみました




