「近すぎる、距離」
読んでいただけると幸いです
最初の違和感は、
朝ではなく――
昼前に来た。
*
窓から差し込む光が、
やけに眩しい。
目を開けると、
見慣れない天井。
……王の私室だ。
思い出した瞬間、
身体が、
じん、と熱を持った。
「……?」
起き上がろうとして、
止まる。
――力が、
うまく入らない。
だるい、
というより、
満ちすぎている感覚。
血が、
静かに騒いでいる。
*
「起きたか」
低い声。
視線を向けると、
ガルドがいた。
鎧は外し、
簡素な衣服。
それだけで、
圧がある。
「……はい」
声が、
少し掠れた。
その瞬間。
ガルドの視線が、
鋭くなる。
「……喉」
「え?」
「乾いている」
そう言って、
水を差し出してくる。
受け取ろうとして――
指が、
触れた。
*
――熱。
一瞬で、
身体の奥が、
跳ねた。
「……っ」
思わず、
息を詰める。
ガルドも、
はっきりと、
動きを止めた。
金色の瞳が、
細くなる。
「……今の」
「触れただけで……」
それ以上、
言葉にならない。
*
ガルドは、
ゆっくりと距離を取った。
――取った、はずなのに。
気配が、
薄れない。
むしろ、
強く感じる。
心臓の音。
呼吸の間。
まるで、
自分の中に
流れ込んでくるみたいだ。
「……番の初期反応だ」
低く、
抑えた声。
「お前の身体が、
俺を“基準”に
調整を始めている」
「……基準」
「近くにいないと、
落ち着かない」
はっきりと、
言われる。
*
「……じゃあ……」
不安が、
胸に浮かぶ。
「離れたら……」
「拒絶反応が出る」
即答。
――重い。
けれど、
逃げ場のない声じゃない。
「だから」
ガルドは、
視線を逸らした。
「……今は、
俺が離れる」
「……え」
意外すぎて、
声が漏れる。
「本来なら、
逆だ」
低く、
自嘲気味に笑う。
「だが、
お前が混乱している」
拳を、
ぎゅっと握る。
「……俺が近くにいすぎると、
抑えが利かなくなる」
*
空気が、
一気に重くなる。
――抑え?
「……ガルド」
名前を呼ぶ。
それだけで、
胸の熱が、
少し落ち着く。
彼が、
ゆっくり息を吐いた。
「……その呼び方」
苦しそうに、
呟く。
「反則だ」
*
ノックの音。
「王。
失礼します」
ザイードだった。
扉の隙間から、
状況を察したらしい。
視線が、
僕とガルドの距離を測る。
「……始まりましたね」
淡々と、
確信を持った声。
「番の同調」
ガルドは、
短く頷く。
「しばらく、
離宮を使う」
「……王が?」
「俺がだ」
即断。
ザイードは、
片眉を上げた。
「それは……
城が落ち着きませんよ」
「知るか」
即答。
「こいつが
優先だ」
*
ザイードは、
一瞬だけ、
目を閉じた。
「……承知しました」
そして、
僕を見る。
「今は、
王を呼ぶ時は
名前で」
「……はい」
「それだけで、
繋がりが安定します」
助言。
*
扉が閉まる。
部屋に、
再び、二人。
ガルドは、
寝台の端に座り、
距離を保った。
「……すまない」
「謝らないでください」
自然に、
言葉が出た。
「……嫌じゃないです」
正直な気持ち。
ただ、
戸惑っているだけ。
ガルドは、
静かに目を伏せた。
「……俺は」
少しだけ、
声が低くなる。
「お前に、
触れたい」
その告白は、
荒々しくない。
だからこそ、
胸に刺さる。
「だが、
今は……」
「……はい」
続きを、
言わせなかった。
*
しばらくして。
身体の熱が、
少し落ち着いてくる。
呼吸が、
揃っていく。
――同調。
これが、
始まり。
触れていないのに、
離れていない。
番になった実感は、
甘さよりも先に、
静かな確信として、
胸に残った。
これから、
もっと、
近づきすぎる。
その予感だけが、
はっきりと、
そこにあった。
番
同調が始まりましたね




