「名を呼ぶ熱」
読んでいただけると幸いです
おかしいと、
はっきり自覚したのは、朝だった。
視界が、やけに眩しい。
息を吸うたび、胸の奥が熱い。
「……暑い……」
窓は開いている。
城の朝はむしろ冷えるはずなのに、
体の内側だけが、燃えている。
立ち上がろうとして、
足に力が入らなかった。
「……っ」
床が、遠のく。
意識が浮上した時、
最初に感じたのは――
重くて、安心する気配だった。
大きな手。
確かな体温。
「……起きたか」
低い声。
ゆっくりと目を開けると、
そこには、ガルドがいた。
僕は、
彼の腕の中にいた。
「……ここ……」
「俺の部屋だ」
簡潔な答え。
額に、ひんやりした感触。
濡れた布で、熱を抑えられている。
「……倒れた」
それだけ言われて、
全部思い出した。
熱。
眩暈。
名前を呼びながら、意識が落ちたこと。
――名前を。
恥ずかしさと不安で、
胸がきゅっと縮む。
「……迷惑、でしたか」
小さく聞く。
次の瞬間、
腕の力が、少しだけ強くなった。
「違う」
即答だった。
「……怖かった」
その一言に、
心臓が跳ねる。
獣人王の口から、
そんな言葉が出るなんて。
「お前が、
俺の腕の中にいない時間がな」
金色の瞳が、
真っ直ぐこちらを見る。
逃げ場がない。
それなのに、
怖くない。
むしろ、
胸の奥の熱が、
少しだけ落ち着く。
「……近いと、
楽になります」
正直に言う。
ガルドの喉が、
ごくりと鳴った。
「分かっている」
低く、抑えた声。
「だから、
離すなと命じている」
それは命令の形をしているのに、
実際は――
彼自身に言い聞かせているみたいだった。
扉の外。
ザイードは、
静かに耳を伏せていた。
「……想定より、早いですね」
番の共鳴。
人間相手に起きるのは、
本来ありえないほど、早い。
「王」
扉越しに、声をかける。
「城の者には、
『体調不良』と伝えてあります」
「……助かる」
短い返事。
「ですが」
ザイードは、
言葉を選んだ。
「これ以上進めば、
戻れません」
沈黙。
やがて。
「戻す気はない」
はっきりした声。
黒豹の側近は、
小さく息を吐いた。
「……でしょうね」
部屋の中。
僕は、
ガルドの胸に額を預けていた。
鼓動が、
一定のリズムで鳴っている。
それを聞いているだけで、
熱が、
すうっと引いていく。
「……不思議です」
ぽつりと呟く。
「あなたのそばだと、
安心する」
ガルドの腕が、
そっと、背を撫でた。
とても、慎重な動き。
「……それ以上は、
今は許さない」
低い声。
「俺が、
抑えきれなくなる」
その言葉に、
胸が熱くなる。
怖い、はずなのに。
「……それでも」
小さく、服を掴む。
「離れないでください」
一瞬の沈黙のあと、
ガルドは、
深く息を吐いた。
「離れない」
約束のように。
僕は、
彼の腕の中で、
もう一度、目を閉じた。
熱は、まだ残っている。
でもそれは、
拒絶するものじゃない。
――名を呼び、
呼び返されるための、
熱だった。
リオ甘えるの上手すぎでしょ




