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第三話:沈黙の継承
母・澄乃が息を引き取ったのは、春の終わりだった。 椿子は、涙を流さなかった。 それは、母の沈黙を壊さないためだった。
葬儀のあと、屋敷の者たちは椿子に言葉をかけたが、彼女はただ静かに頷くだけだった。 静馬だけが、言葉をかけなかった。 彼は、椿子の沈黙に寄り添うように、そっと傍に立っていた。
数日後、椿子は仮面の蔵に足を運んだ。 白面を手に取り、母の筆跡をもう一度見つめる。
「語ることができないなら、 誰かに、沈黙を守ってもらいなさい。」
椿子は、静馬に言った。
「私は、語ることを選びます。 でも、語ることで誰かを壊さないように、 沈黙を守る者が必要です。 あなたは、その役目を担ってくれますか?」
静馬は、深く一礼した。
「椿子様の言葉が、誰かの沈黙に寄り添うものである限り、 私はそのすべてを守ります。」
椿子は、白面を布に包み、帝都大学の資料室へと向かった。 母が語らなかった記憶を、語るために。 そして、語ることで赦すために。
その日、椿子は初めて“語る者”として記録を残した。 それは、沈黙の継承ではなく、沈黙の理解の始まりだった。




